博士のアルバム 8話
カサカサカサカサカサカサカサカサ。
ベッドの足元から聞こえる音。小刻みに震える先生の足がシーツに触れる音。今日は一段と激しく早いリズムだった。薬を飲んでも抑えが効かない。手の震えで箸が持てなくなっていた。
「もういいよ。ごちそうさま」
口元を拭き食器を片付けようとした時、先生が言った。「そのうち飲み込めなくなるんだろうな」
私は、先生を励ましたかった。
それは過去の自分の過ちを消したいだけかもしれない。そんなことで許される訳がない。
贖罪。
そんな立派な言葉じゃない。
自己満足。それだ。
過去の罪を許して欲しい。
こうしていると、神様がくれると思っている。
結局は、自分のことしか考えていない。
卑しい。
それでも私は先生を励ましたかった。
「茅野さんに会いに行きませんか。私、付き添います。車椅子なら移動もできるし大丈夫ですよ」
「茅野さんは死んだんだ」
「えっ?」
先生はいつもの冗談を言っている。
そう思った。
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