私が妊娠したから 三面記事小説


1.女同士

  旅行の段取りをしてくれた玲子をないがしろにする理由なんてない。以前から行きたいと言っていた近場の温泉。週末の電車は普段より空いていてなんなく座れた。
 水筒の蓋を開け、飲み物を一口飲んだ。窓からの日差しが強く半袖からでる腕に太陽の光が痛いくらいだった。
「こうも暑いと近くを観光するのは無理だわ。着いたらすぐに部屋に入らない?」
せっかく温泉に来たのに熱中症になったら楽しめない。それに、まだ観光するほど気持ちは回復していない。
「そうね。ゆっくりしたいし」
 そう言った私に玲子はほっとした表情をしながら続けて言った。「夏場に温泉なんてって思ってるでしょ?いいお湯に入って汗かいて。そうしてると悪い物が体の外に出るんじゃないかと思ったの」
「うん。ありがとう」
玲子は 私が彼と別れたことを喜んでいる。わかっていても今は玲子の存在が必要だった。

 宿に着いてそれぞれ記帳をして、案内される部屋へと向かった。通された部屋の奥にはテラスがあり緑の木々が部屋を隠すように揺らめいていた。ボストンバッグを部屋に置き、テラスのガラス扉を開け外に出ると小さな露天風呂があった。
「大浴場は二階にあります。夜の12時に掃除のために一旦閉めますが、こちらの部屋には露天風呂が付いているので、いつでも楽しんでいただけますよ」
 ふいに隼人の顔が浮かんだ。隼人は運命の人だと思っていた。ずっと続くと思っていた。今も二人、続いていたならきっとこの温泉は隼人と来ていただろう。
 どうして別れたのか、何がいけなかったのか、いまだにわからない。三年付き合った隼人の態度が変わったのは二ヶ月くらい前からだった。
 毎日交わしていた連絡がなかった夜。次の朝、”ごめん、寝てた”とそっけないライン。
なにかあった。女?一番にそれを思った。膨らむ猜疑心を抑えこみながら”そっか、疲れてたんだね”とだけ返信した。
 約束していた日曜日の買い物。土曜日の夜に隼人からキャンセルの連絡が入った。親戚が入院したので母を連れてお見舞いに行かなければならない。たとえ、嘘であっても確かめる術はなかったし責めることはできない。
 それからも、隼人の態度はそっけなかった。二人の間にどんどん溝が広がってゆくのを感じた。
隼人の態度に耐えられなくなった私はついに彼を問い詰めた。何も言わない彼に対して腹が立ち、彼に怒りの感情をぶつけた。
「もう付き合えない」
 どんなに聞いても理由は教えてくれなかった。突然のことに私は混乱した。彼との関係を失ったことで心と身体のバランスを崩した。
 仕事中、自然と涙が溢れ出る時もあった。食べ物を口にすることもできず、眠ることもできない。辛い。とにかく辛い。
心療内科に通うことを勧めてくれたのは玲子だった。
「心療内科なんて、行きたくないわ」
「なに言ってるのよ。今の状態、まともじゃないでしょ。ご飯も食べられない、眠れないなんて。一緒について行くから一度、行ってみよ。ね」
「でも、抵抗がある」
「心が風邪ひく時だってあるのよ。アメリカ人はカウンセリングをもっと気軽に受けてるよ。日本人は気にし過ぎなの。人間はロボットじゃない、心があるんだから」
 アメリカに留学していた玲子は、すぐにアメリカの話をしがたる。アメリカ人と日本人を比較して、日本人が彼らより劣っているような言い方をする。
「わかったわ。行ってみる」
玲子の説得に根負けした。
 ところが、行ってみると案外いいものだった。
「突然、理由もわからず彼に振られました」
 他人からすればどうでも悩みだと思うが、先生は親身になって話を聞いてくれた。
 「世の中には星の数ほど男がいる。たまたま出会った人と合わなかっただけ。だから、沈んでないで表にたくさんでかけなさい」
 そう言われても、すぐにその気にはならない。失恋というのは、時に健康を害するほどまでに堪える。
 最近になってようやくご飯が美味しいと感じ始めたところだった。
「ね、マッチングアプリやってみるのはどう?同僚がそれで彼氏をゲットしたのよ」
 玲子は座敷にあるポットからお茶を注ぎ湯呑を私に差し出した。
「でも、どこの誰だかわからないじゃない。よく事件にもなってたし怖いわ」
「最近はそうでもないのよ。このサイトなんて、ほらっ。身分証明書を添付して送った人だけなのよ」
 渋る私にスマホの画面を見せて言った。
「そうなの?」
「うん。だから安心でしょ。登録だけでもしてみたら」
 玲子に言われるがまま登録を済ませた。免許証の写真を撮り、画像を送信する。
 しばらく経ってから、登録完了のお知らせが届いた。プロフィールを書くことは面倒だった。玲子は私のスマホを手に取り言った。「ます、プロフィールは誰かのをコピーして貼付け、そこから自分仕様に手直し。写真はマスク姿の写真をアップさせる。よし!これでマッチングする人を待てばいいのよ」
「すごいわね玲子。でも、こういう場に良い人なんているのかしら?」
「やばいと思ったら逃げりゃいいのよ。もし会うとなってもお昼間にどこか人の多い喫茶店でお茶するとか。じっくり人間観察すればいい」
「人間観察って、そんな簡単にわからないでしょ。だって、いまだに隼人のことだってわからないままなんだから」
「隼人のことは忘れて」
そう言って玲子は私の唇にキスをした。軽いキスだった。玲子はずっと私にこうしたかったんだ。いつの頃からか気付いていた。なのにずっと気付かない振りをしていた。
私は動けずにいた。どうしていいかわからない。理由はそれだった。
今度は舌を入れてキスをされた。隼人とのキスと同じ風に私の舌を味わうようにグリグリと押し入ってきた。

 いつの間にか、私は玲子の下になり彼女の成すがままになっていた。女同士のセックスに全く興味がないとは言えなかった。実際、アダルトビデオを見る時、外国人の女の子二人が絡み合うものを好んでみていた。きれいな女の子がお互いの体に顔を埋める姿に興奮していた。


「待って、先に体をきれいにしてからにして」
 私の言葉に玲子は嬉しそうな顔をして言った。「露天風呂に入る?」
 初めて女に体を撫でられ舐められた。やはり女は女の体を知っている。的を得ていた。
「気持ちいい?」
「うん、すごく」
 頭がぼーっとしてきた。さっき飲んだ飲み物に何かを入れられたのかも知れない。いや、玲子がそんなことをするわけがない。
 少ししてから急に怖くなり玲子の体を跳ね除け言った。「ごめん、やっぱり私は」
「冗談よ、冗談」
玲子は罰が悪そうに浴衣を羽織って帯をしめた。
私は苦笑いしながら、はだけた浴衣の前を閉じた。玲子は、またポットの方へ行きお茶を入れていた。

 その夜は興奮して眠れなかった。玲子の指の感触が体に残ったまま、目を閉じて眠ろうとしても眠れない。玲子は離れた布団の中、背を向けて寝息を立てていた。

2.マッチングアプリ

 二ヶ月後。マッチングアプリで知り合った広志と会うことになった。
 午前十一時。待ち合わせは駅前のカフェ。
きれいに散髪された短めの髪、大きな瞳。背が低いが、はきはきと誠実そうに話す広志は好青年に見えた。
会うまでに何度もメッセージのやり取りをしたのは彼だけだった。話が合い、会うことに抵抗は感じなくなっていた。初めて会ったのに、随分前から知っていたかのような、そんなことを思わせるくらい広志は話しやすかった。 
 広志は食品会社に勤めている。三十五歳で課長。自宅は、市内のマンションに両親と同居だと言った。
「香美さんのお仕事は何?」
「私は、病院で事務をしてます」
「それは大変だね。病院って毎日、いろんな患者さんが来るから対応も違うし」
「そうなんです。受付でいきなり怒りだす方もいるし。まぁ、待ち時間が長いってこともあるんでしょうけど、それくらい患者さんが多くて」
「そっか、それはストレスがたまるよね。じゃぁ今度、香美さんのやりたいことしよう。どこか行きたいところとか、食べたい物とかない?」
「う~ん。すぐに出てこないけど」
「考えといて。今度の土曜日でどう?」
「ええ。土曜日、空いてます」
「よし!決まりだね」
 私はすっかり舞い上がっていた。
 
 デートの待ち合わせ場所は近所にあるスーパーマーケットの駐車場だった。広志の車が店から遠く離れた場所に停まっているのが見えた。フロントガラス越しに広志が笑顔で手を振っていたので私も振り返した。
助手席のドアを開け、シートに座る。
「待った?」
「そんなことないよ」
そう言って広志は車を走らせた。
 幹線道路を出てから、川沿いの道を北へ進んでいく。窓から見える川の水は少量で透明感があり、時々魚が泳いでいるのが見えた。
「きれいね」
「もっと上流へ行くと、もっときれいだよ。一緒に見よう」
「うん」
 ”一緒に”という言葉に思わず頬が緩んだ。
「それ、もしかしてお弁当?」
 私の膝に抱えられたランチバッグに目線を向けながら広志が言った。
「うん、たいした物じゃないけど」
「嬉しいなぁ。香美さんが作ったお弁当が食べられるなんて、本当に嬉しい」
「川の上流に行くって言ってたら、近くにレストランもないかなぁって思って。あ、もしかしてどこか予定してた?」
「してない、してない。俺もどうしようかって思ってたんだ。いや、ほんと嬉しいよ。お昼が待ち遠しい」
 広志は嬉しそうに笑い左手で私の手を握った。

3.妊娠

  玲子とは、あの温泉以来だった。少し気まずかったが、広志とのことを話すのにはいいタイミングだった。


 半年前に開店したハワイアンカフェは、オープン時よりも客が少なくすんなりと席へ通された。窓際の席に座り、メニューを広げて見ていると玲子がすぐに到着した。
「久しぶりね。元気してた?」
「うん、元気。今日は色々話があるの」
 私がそう言うと玲子の表情が一瞬曇った。
「その前に注文しちゃおう。前はエッグベネディクトとパンケーキをシェアしたんだっけ?今日は違うものにしよ」
 玲子は気を取り直した様子でメニューを広げて見た。
「タコライス、美味しそう」
「うん、これにしよ。あと甘いものは?」
「前は苺だったから、今日はチョコのパンケーキにしよっか?」
「いいわね」
玲子は手を上げて店員を呼び、さっさと注文を済ませた。店員が席を離れてすぐ言った。
「男ができたんでしょ?」
「なんでわかったの?うん、そうなんだ。玲子に教えてもらったアプリで知り合った人。すごくいい人なの」
「そっか、良かった。写真あるんでしょ。見せて」
玲子は身を乗り出した。
「すごく優しい人なの。思いやりがあってね。毎日、仕事帰りに駅で会ってるの。彼は両親と同居だから長くはいられないけど駅の構内にあるベンチで十五分くらい話すの。それから家に帰ってご飯を食べて、寝る前には必ずラインが来るの。おやすみって毎日そう言って寝るのよ」
「へぇ。でもそんな毎日会ってたら飽きるの早いんじゃない?」
「私も最初はそう思ったの。けどね、全然飽きないの。彼って面白くて、一緒にいるとほんと楽しいの。毎日新しい気持ちになれる」
私は写真を見せながら玲子に広志のことを話した。
玲子は冷静な表情でいた。本当は広志に嫉妬しているはず。私は玲子の顔の動き、特にまぶたや口元の動きを観察した。
「この広志って男、仕事何してるの?」
「食品会社の課長さんよ。まだ若いのにすごいでしょ。部下からも慕われてるの」
「なんで香美がそんなことわかる訳?」
 玲子は眉毛をつり上げながら言った。
「だって私達、毎日会って話してるのよ。わかるわよ、それぐらい」
「ふーん」
 先にタコライスがきた。玲子はスマホでタコライスの写真を撮り、インスタに上げるため文字を打っていた。
すぐ後に、パンケーキが届く。またスマホのシャッター音がした。
「美味しそう。たべよ」
 私は取り皿を玲子の前に置いた。
玲子は軽くお辞儀をしてありがとうと言った。野菜とご飯、ちょうどいい分量をスプーンですくい自分の前のお皿に取り分けたあと、ライムを絞っていた。
玲子が一口食べた。よほど美味しかったのか頬がゆるんだ。その満足気な表情を見て私は打ち明けた。
「玲子、私、妊娠したの」

4.邪魔させない

 予定では三十歳までに結婚して子供を持つはずだった。でも、もうそんなことはどうでも良かった。
広志とならやっていける。どんな困難が待ち受けていようとも、彼ならきっと大丈夫。私は広志の優しさと誠実さに心の底からそう思っていた。

 玲子はアイスティーのストローをグラスの中でクルクルと回していた。
「まだ、母に言ってないの。彼のお父さんが癌でね。今、抗がん剤治療してるの。でも、もうすぐ退院するって言ってたからタイミングをを見て話すって。それから母に話すわ」
「でも、お母さんには妊娠してること話したほうがいいんじゃない?」
「そうなんだけど、母に言ったら相手の男をすぐに連れて来なさい!って言われるわ。広志のお父さん、二週間後には病院から自宅に戻る予定だから。私、彼に精神的に負担をかけたくないの」
「そんな気を使わなくていいんじゃない?」
「お父さんの病気が心配だから」
「結婚しようって言われてるの?」
「当然よ。彼、私の妊娠を喜んでくれてるのよ。玲子、この際だからはっきり言うわ。私は玲子の気持ちに応えられない。本当は学生の頃から気付いてた。今度こそ邪魔させない」
「どういう意味よ?」
「知らないとでも思ってた?祐樹のこと」
玲子は黙って下を向いた。それから低い声で言った。
「あれは祐樹が私のところに来ただけよ」
「玲子が誘惑したんでしょ?別れて半年くらいした後、よりを戻したいって言ってきたの。でも、私はもうそんな気がなかったから断った。そしたら祐樹が白状したのよ。夢中になったのに簡単に捨てられたって。一体、どんなテクニックを使ったの?・・・もしかして、隼人もそうなの?あんたが誘惑したのね」
「・・・ばかじゃない」玲子は呆れたように言った。
「香美って恋愛すると、それしか見えないのね。自分に魅力がないことを人のせいにするの止めて」
「信じられない。広志はあんたに会わせない。絶対に」
「別に会いたくないわよ。マッチングアプリで知り合った男なんて嘘だらけよ。香美、その男の言ってること本当に信じてるの?自分の目で確かめたの?」
「玲子こそばかじゃない?なんにも知らないくせに、私達のこと知らないくせに」
私はテーブルの上に投げつけるように二千円を置いて店を出た。

5.幸せを噛みしめる

 生理が来ないと広志に告げた後、ドラッグストアに寄り妊娠検査薬を買ってからラブホテルに入った。
 トイレから出てきた私に深刻な顔を向ける広志。目の前に行き検査結果を見せると私を抱きしめて喜んだ。私達は出会って三カ月。付き合った月日は関係ないというが、あまりにも早い展開に戸惑いがあった。
「母に彼氏ができたことすら話してないの」
「そっか。それじゃぁ、もうしばらく様子みよ。俺も親に話さないといけないし」
「あ、あの広志・・・、広志はこれからどうしたいの?」
「ん?」
「私、産んでいいの?」
「香美、俺がおろせとでも言うと思った?結婚しよう。なっ、幸せになろう」
「ほんとに?ほんとなの?」
「本当に決まってるじゃないか」
妊娠と結婚。二つのおめでたいことが同時に起きた。まだ半分夢の中にいるような気分だった。
「香美、嬉しくないの?」
「ううん、嬉しい。あまりにも突然すぎて驚いちゃって。こんなにすんなり叶うものなのかなって」
「そういう運命なんだよ。俺達」
 愛は目に見えないもので、人の心は常に変化する。いつの頃からそう思うようになっていた。でも、運命の人とは違う。悩む暇さえなく物事が前へ、前へと進む。それも幸せに向かって。 

 その日はセックスせずに、体を寄せ合いながら二人の未来について話した。
子供の名前、住む場所。夕食は何時頃だとか、朝は何時に起きるだとか、これから始まる二人の生活についても確認し合った。どちらかが我慢すると長続きしないと広志は言った。だから、お互いが無理しないように尊重しあおうと彼は何度も言った。それから、どんなに激しい喧嘩をしても夜は必ず同じベッドで一緒に寝ようと。ベッドは一つ。そう決めた。

 交わした約束をかみしめながら、独身女性としての社会生活が終わることに喜びを感じていた。私のすべてを愛してくれる男性に出会えた。


6.どうして?

  週末。母には出かけて来ると言って家を出た。いつも通りだった。待ち合わせのスーパーマーケットに広志の車。いつもの光景だった。笑顔で助手席に乗り込むと広志が車を走らせる。いつものことだった。
「今日はどこ行きたい?」
「う~ん、前に言ってたカフェは?ほらハワイアンカフェ」
「ああ、香美がよく友達と行くカフェだね」
「広志とも一度行ってみたかったんだ。だって、あのカフェってカップルが多いのよ。私はいつも玲子とでしょ。店員さんに、私が彼氏がいるって見せつけてやりたいわ」
「そんな、見せつけなくてもいいじゃない」
 そう言って広志は私の手を握った。
「だって私、幸せなんだもん。広志に会う前は本当に辛かった。でも広志に出会ってから人生変わったの。本当よ。もっと早く広志に会っていれば良かった。神様もいじわるだわ。こんな素敵な人がいるなんて早く教えてくれれば良かったのに」
 広志は急に私から手を離しハンドルを両手で持って左折した。前をじっと見て注意深く運転した。
この辺りは道路も広く見通しがいい。休日の朝、車も少なく運転はしやすそうだった。心なしか広志の横顔が険しく見えた。
「広志、どうしたの?」
「えっ?なにが?」
「怒ってる?お父さんのこと?私、自分のことばっかり言っちゃったから?」
「怒る理由なんてなにもないよ」
そう言って、いつもの優しい広志に戻った。
安心した私はお腹に手を当て言った。「まだ全然実感がないの」
「これから育っていくうちにわかってくるよ。あ、そうだ。香美の家のお墓ってこの坂の向こう側にある霊園だって言ってたよね。先にご先祖様に挨拶しようか」
普通じゃない状況。ご先祖さまへの挨拶が先になるなんて考えもつかなかったことをさらりと言った広志にこの人は特別な人だと思ったのと同時に感謝の気持ちがあふれた。
「ね、みて!このベビー服かわいいでしょ。月曜日に届くの」
信号待ちのタイミングを見計らって、広志にスマホの画面を見せた。
「もう注文したの?気が早いなぁ」
「それとね」
「ん?なに?」
「写真だけでも撮らない?」
 次の信号待ちでウエディングフォトサービスのサイトを見せた。
「そうだね」
広志の声が力なく聞こえた。

 霊園の駐車場に着くと広志は私を車に残し、トランクに掃除道具があると言って一人車を下りた。
 早朝の空気は澄んでいた。植え込みのツツジは満開で赤やピンク、白と色鮮やかだった。人気はなく静寂さだけが漂う。私は大きく深呼吸した。
 しばらくして後部座席のドアが開き広志が足元のシートにかがみ込んだ。
「なに?探し物?」
振り返ろうとした時、後ろから強い力で首をロープで締め上げられた。首のロープをかきむしるように必死に抵抗する。私の首を絞めているのは広志。
「・・・な、な・・・んで・・・」
喉の奥から絞りだすように聞いた。さらにギリギリと締め上げられる。
「かっ、・・・ごほっ・・・う、う・・・」

7.既婚者の大罪

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