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【復刻版】核の黙示録・汚染された北の大地 【第6回 汚染地帯を旅して考えたこと】

【この記事は復刻電子版です。最新の記事・情報ではありません】1993年に取材。集英社・週刊プレイボーイで連載した記事を編集しました。

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チェルノブイリ、トムスク、プリピャチなど、訪れた全ての場所に「核」の影が色濃く落ちていた。目に見えない放射能に恐怖を感じる人々がいた。その不安は、私たちに共通するものだった。
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「核」を持つ国々の傲慢さ

ロシア政府が日本海に放射性廃棄物を捨てていた事実が明らかになって、日本では大きなニュースになった。
「核廃棄物を海に捨てるとは、なんて非常識な国なんだ」という日本側の主張はそのとおりだが、多少、引っかかる部分もある。

ロシア政府の核廃棄物の海洋投棄についての特別委員会が設置された頃、日本は戦後最大ともいえる世界の批判を浴びていた。日本が、1.5トンものプルトニウムの海上輸送を行なうにあたって、輸送ルートや安全対策などの情報を秘密にしたまま輸送を強行したからだった。

日本政府は、欧米の核兵器保有国と秘密のうちに合意(国際間の核についての条約)をとりつけただけで、日本の市民や海外の核を持っていない国には説明をしなかった。

「そのような国に説明してもプルトニウム輸送の技術的な点は理解できないでしょう。専門家がいない国だってあるのですから、詳しい説明は必要ないのです」(政府機関の複数の担当者)

そうこうしている間に、ロシア政府は、環境保護団体やそれぞれの専門家たちから情報を収集し、93年3月、ロシア最高会議・環境保護委員会が核廃棄の実態を公式に発表したのだった。

「私はエコロジストです。だから、私の意見としては、核兵器や原子力発電所が存在している限り、リスクが伴います。そのリスクをできるだけ低減すべきだと考えています。核実験も全面的に中止すべきだと思っています。今回の調査結果についていえば、これは残念ながら事実なのです。でも、発表しなければなりません。私たちは人々にウソをつく政策をやめたのですから」(ロシア最高会議・環境保護委員会メンシコフ副委員長)

英国・米国は低レベルの核廃棄物を自国の沿岸に廃棄した過去があると、メンシコフ副委員長は言う。そして、日本も低レベル放射性廃棄物を公海の海底に廃棄する実験を行なった過去があるのだ。
結局、日本の核廃棄物の海洋投棄は、周辺国の強い反対で断念したが、核廃棄物を海に捨てようとした発想はどの国にも共通している。

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