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【復刻版】核の黙示録・汚染された北の大地 【第5回 事故で消えた村、危険区域に戻ってくる人】

【この記事は復刻電子版です。最新の記事・情報ではありません】1993年に取材。集英社・週刊プレイボーイで連載した記事を編集しました。

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チェルノブイリ原発から飛散した放射能は大地を激しく汚染した。汚染の影響が大きい地域では、現在もなお住民の移住が進行している。多くの人々が家を失い、次々と村が消滅しつつある。今回は、最大の放射能汚染地域から絶滅していく、ある村の光景を報告する。
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増え続ける子供の甲状腺ガン

ベラルーシ共和国はチェルノブイリ原子力発電所の事故でもっとも大きな被害を被った国である。チェルノブイリ原発はウクライナ共和国の北にあり、ベラルーシの南の国境に近い。
1986年の事故では、上空高く舞い上がった放射能がベラルーシやその周辺の国々(当時はソ連邦)を激しく汚染して、東欧やヨーロッパ、そして北極圏さえも放射能の被害にあった。

今回、私たちは放射能汚染の最大の被害地であるベラルーシ国境に近い都市や村を歩き、車で国境を越えてウクライナに入るルートを選択した。

取材はベラルーシの首都ミンスクから始まった。
「チェルノブイリ原発事故の影響は以前より悪化しています。子供の甲状腺ガンは10年後くらいから増加すると考えられていましたが、実態はそうではありませんでした。子供の甲状腺ガンは事故後数年で急増しているのです」
ベラルーシ共和国最高会議・チェルノブイリ委員会のゲオルギー・チェク副議長は調査結果をまとめた表を提示して説明を始めた。

ベラルーシの子供の甲状腺ガンの発生数は、66年から85年まで1人だったのに、86年・2人、87年・4人、88年・5人、89年・6人と微増した後、90年・29人、91年・57人、92年・63人と急増している。

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