見出し画像

邦楽評論 RADWIMPS

最近、「映画に合わせて作られた歌」というのが流行りですね。

星野源が『ドラえもん』という楽曲をドラえもんの映画と合わせて発表したり、perfumeが『ちはやふる』という楽曲をちはやふるの映画と合わせて発表したり。

そしてなんといっても、映画と合わせた曲で僕たちを感動させてくれたのは、やっぱり『あの』アーティストですよね?

そう、『RADWIMPS』!

映画『君の名は。』に楽曲が起用されて、『前前前世』の爽快な曲調が日本人を魅了し、『なんでもないや』で人々を感動させたアーティスト、『RADWIMPS』。

一度聞いたら耳に残るメロディーは多くの若者を虜にしており、RADWIMPSは若者の間で絶大な人気を誇っています。
でもやっぱり彼らの真の魅力はメロディーではなく歌詞の力強さにこそあらわれています。

そしてその歌詞が、絶妙に映画とリンクしている。だからこそ、映画を観た後に「もっと聞きたい!」とファンになる人が増えていく訳です。

今日は、『映像作品とマッチした楽曲』を作る天才アーティスト、RADWIPSの文学を語りたいと思います。

2015年、『トイレのピエタ』という映画が公開されました。主演はなんとRADWIPSのボーカル、野田洋次郎。俳優としてはデビュー作となりました。

【あらすじ;画家の夢を諦めた青年・園田は、ある日なんの前触れも無く余命宣告される。呆然とする彼の前に現れた、痛い程に無垢で強烈な少女・真衣。2人の、最後の夏が始まる。】

大きなインパクトや派手な演出もないけれど、この映画には観た後に「いい映画だったな」と心の底から思える、『何か』が存在しました。そしてこの映画のエンディングに流れるのが、RADWIMPS『ピクニック』。

飽きもせずに空は 今日も青いから昨日も通り雨に助けてもらったよ「無様にもほどがある」誰かが遠くで言うじゃあ誰に教わればいい? はじめて生まれたんだ

RADWIMPS『ピクニック』。

ゆったりとした曲調と、引き込まれる歌詞。この映画のために作られたこの曲は、映画の世界観を全く壊すことなく、それでいて心の中で言語化し得なかった感想を代弁してくれていると思います。

『はじめて生まれたんだ』。映画のなかで懸命に生きた『彼』は、エンディングで高らかにそう歌い上げるのです。無様だろうが、情なかろうが、いいじゃないか。人生一回目の人生初心者なんだから、と。それでも、それでも生きるのだ、と。

この曲に限らず、彼らの曲はよく『生きる意味』を歌う。痛烈に、そして痛快に。『DUGOUT』という曲は『ピクニック』とは反対にテンポのいい曲だが、鮮烈に『生きる』ということを歌う。

毎日何かを食べてまで しがみついているこの世界に殺めた命に見合うだけの 価値が意味が あるとは到底思えるはずもなくて

RADWIMPS『DUGOUT』

若者に評価されるのはこういう所なのかもしれませんね。彼らは小気味良い曲に乗せて、青年期にある人々の心を代弁しているのだ。『生きる』とはなんなのか。宗教のようにそれに明白な答えを与えることはしないけれど、一緒になって悩んでくれるかのような。彼らの歌詞には、そんな『友達のような』安心感がある。

もちろん、そんな哲学的な歌ばかりではありません。目の前の女性に愛を届けるような、男性目線からの恋の歌も彼らの特徴と言ってもいいと思います。等身大の愛を、堂々と歌う。映画『君の名は。』で起用された『なんでもないや』はその代表でしょう。

君のいない世界にも何かの意味はきっとあってでも君のいない世界など夏休みのない8月のよう

『RADWIMPS なんでもないや』

卑近で、誰もが理解出来る、「言葉に出来ない感情」。『君の名は。』の映画で表現されていた、だけどだれもその思いをぴったりと表現できなかったそれを、彼らは歌に乗せて表現してくれたのです。まるで答え合せのように。だからこそ、彼らの楽曲は映画とシナジーを持っていて何倍もその映画の価値を高くしてくれる。「そうだったんだよ、そういうことだったんだ、この映画で私たちが目撃したものは!」と、思わせてくれるのです。

そして、2018年発表、『MOUNTAIN TOP』。この楽曲は、映画『空海〜美しき王妃の謎〜』で主題歌になった曲です。監督と何度も擦り合わせて作られたこの曲の中にも、「答え」がある。

I’m alone on a mountain top(私は山のてっぺんでたった一人)Nobody can answer me or none of them look straight at me(だれも答えてくれないし、だれもまっすぐ私を見ない)But you climbed up high to the sky above(でもあなたは登って、そのまま空の上へ上がっていった)How do I look from your place right now?(そこからだと今、私はどう見えるのだろうか?)

『RADWIMP Mountain top』

この孤独に、この遣る瀬無さに、どういう感情を名付けていいのか。この想いを伝える時に私たちがどんな言葉にすればいいのか。それをこの曲は教えてくれている。どうしようもないことがあって、生きることも死ぬこともできなくて、それでも前に進むしかなくて、周りには誰もいない。そんな状況を、その感情の、あり方を音に乗せて語ってくれる。だからこそ、「ああ、そういうことだったんだ」と腹落ちして映画を終えることができる訳です。

劇作に合わせた楽曲を、歌詞を付けるというのはシェイクスピアの時代から存在する文学の一つのあり方です。それが連綿と続いた先の、最前線。

『RADWIMPS』の文学的価値は、そういうところにあるのかもしれませんね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?