中央と周辺をつなぐデザイン:スモールトークとパタン・ランゲージの融合 メモ

以下思いつきにつれづれ。

私は東京でフォトグラファーとして活動していましたが、リーマンショックを機に地域に足を踏み入れ、活動を始めました。そこで直面したのは、過疎化や担い手不足、商店街の衰退といった地域の深刻な課題でした。課題は明確なのに行政と住民のつながりが希薄で、解決には至っていない状況でした。住民がいても「人」としてのつながりが感じられず、行政が課題を把握していても住民には共有されず、届かない。地域は機能不全に陥っていました。このままでは前進は難しいと痛感したのです。
 
従来のトップダウンとボトムアップ、中央と周辺、行政と住民の関係は、しばしば対立的な構造に陥りがちです。たとえ上層部が課題を認識しても、地域との連携が不十分なため、現実的な解決策が見いだせません。一方、地域内でのつながりはあっても、広い視点を欠いた結果、努力が無駄に終わることも多いです。人口減少が進む中で、この分断は特に大きな障害となっています。
 
そんな中、対立構造を克服する鍵がプログラミングにあることに気づきました。プログラマーのケント・ベックは、コンピュータ科学者 アラン・ケイのオブジェクト指向プログラミング言語「スモールトーク」と、建築家 クリストファー・アレグザンダーの「パタン・ランゲージ」を融合させ、新たなシステム設計のアプローチを生み出しました。ベックはこの二つを組み合わせることで、システムの中心部分に安定性を、周辺部分には柔軟性を持たせることができると考えたのです。


アレグザンダーが提唱した「セミラティス」構造は、複雑な相互作用を可能にするネットワーク型の関係を示しています。この構造を採用することで、システムは単一の固定的な形態に留まらず、有機的で柔軟なデザインが可能となり、適応性と拡張性が飛躍的に向上します。

彼が対比させた「ツリー」構造と「セミラティス」構造は、現代の組織や都市設計にも当てはまります。ツリー構造は、郊外のような人工都市や企業のような階層型システムで、縦割りの分業体制により横のコミュニケーションが不足し、機能不全に陥るリスクがあります。これに対し、セミラティス構造は、長い時間をかけて形成された自然な都市や柔軟な組織に見られるもので、複数の役割を同時に担うことができ、適応力のあるまちづくりや組織運営を実現します。

このセミラティス構造をまちづくりに応用することが今後の目標です。トップダウンとボトムアップ、中央と周辺、行政と住民という対立構造を超え、複雑な相互関係を持つシステムをデザインすることで、地域と中央が協力し合い、実効性のあるまちづくりが実現するかもしれません。

Christopher Alexander's Diagrams of Semi-Lattice (left) and Tree (right)


そして、なぜわたしがこのアプローチに注目しているのかというと、2014年から神奈川県真鶴町に入り、定期的に活動していた経験があるからです。真鶴は、バブル期の開発ラッシュを防ぐために、アレグザンダーの「パタン・ランゲージ」を参考に「美の基準」という条例を制定した町です。その時は景観や暮らしを守ることができましたが、バブル崩壊後の産業衰退と人口減少に対抗するには不十分でした。初めて訪れた際、地域住民は町を救おうと努力していましたが、人手不足や組織体制に問題があり、課題解決に向けたデザインの実装が遅れていると感じました。特に、行政と住民のつながりが不足していることが大きな問題だと感じていました。

真鶴町の「美の基準」


 近年、真鶴町民も異なるコミュニティ間のつながりを意識し始め、移住者と地元住民、行政と地元、祭り保存会と女性、高齢者と若者が協力し合う動きが見られるようになりました。その結果、「貴船まつり」をはじめ地域のイベントに参加する人々が増えています。しかし、こうした対立構造の克服をプログラミングの手法でさらに進めることができれば、地域の未来は大きく変わるのでは、と思います。といってもまだ右も左もわかりませんが。いずれにせよ、このテーマについて、引き続き考えていきたいと思います。



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