パタン・ランゲージとスモールトークの共通点:動的結合、「間」、そして東洋思想の融合、神奈川県真鶴町の実践

アラン・ケイによるオブジェクト指向プログラミング言語「スモールトーク」と、クリストファー・アレグザンダーの「パタン・ランゲージ」の覚書のつづき


⒈  ユーザー主体のデザイン

デザインや設計は、ユーザー自身が主体であるべきです。これは、住民や地域とともに行うデザインやパーソナルコンピューティングの考え方と一致します。トップダウンではなく、ユーザーが自らの手で作り上げることが重要です。

⒉  段階的で変化に寛容であること
パタン・ランゲージでは、新たなパタンの発見やランゲージの進化を通じて、継続的な改善が図られます。同様に、スモールトークのdynamic binding〜動的結合 (遅延結合)により、処理の結びつきを後回しにする(時間をかける)ことで、変化に対して柔軟に対応することが可能になります。


3. 東洋思想との関連:間と無名の質(QWAN)
スモールトークとパタン・ランゲージのもう一つの重要な共通点は、東洋思想との関連性です。スモールトークにおける「間」の概念は、要素(オブジェクト・パタン)がコミュニケーションする場を指します。dynamic binding(遅延結合)における「間」とは、茶室であり、カフェであり、ゲストハウスであり、糠床である。これらは、人々が集い、アイデアが発酵し、新たな創造が生まれる場であり、その「間」における調和が重要です。

The Japanese have a small word - ma - for "that which is in between" - perhaps the nearest English equivalent is "interstitial". The key in making great and growable systems is much more to design how its modules communicate rather than what their internal properties and behaviors should be.
日本語には「間(ま)」という“小さな言葉”がある。これは「間にあるもの」を意味し、英語では「インタースティシャル(interstitial)」という意味に近い。優れて成長可能なシステムを作る鍵は、各要素の内部特性や挙動ではなく、それらがどのようにコミュニケーションするか、を設計することだ。
                           アラン・ケイ

また、パタン・ランゲージにおける「無名の質」(QWAN: Quality Without A Name)は、クリストファー・アレグザンダーが著書『時を超えた建築への道』において、老子の「道」に触発され、建築やデザインにおける普遍的な秩序や美しさを表現しようとした概念です。「無名の質」は単なるハードウェアとしての建築物だけでなく、そこに関わる人々やその場の「品質特性」を含む概念であり、以下の7つの特性を持っています:

生き生きとした(Alive)
全一的(Whole)
居心地のよい(Comfortable)
捕われのない(Free)
正確な(Exact)
無我の(Egoless)
永遠の(Eternal)

『時を超えた建築への道』クリストファー・アレグザンダー


4. まちづくりにおける応用
これらの考え方をまちづくりに当てはめると、行政主導ではなく民間が主導し、地域住民が積極的に参加することが求められます。住民は消費者としてサービスに依存するのではなく、創造者として関与し、正解をすぐに求めず、とりあえず作りながら改善していく姿勢が重要です。各々が異なる表現方法を持つため、それを尊重し、自由に取り組ませることが求められます。オブジェクトやパタンは単体で意味を持つのではなく、メッセージングやパタンの組み合わせによって、新たな解決策や創造が生まれます。


5. 真鶴町の「美の基準」

日本において上記の実践をしている町こそ、神奈川県真鶴町です。真鶴は、バブル期の開発ラッシュを防ぐために、アレグザンダーの「パタン・ランゲージ」を参考に「美の基準」という条例を制定した町です。しかし、そんな真鶴も他の地域同様にバブル崩壊後の産業衰退と人口減少に悩まされてきました。そして現在、真鶴は再び地域住民が立ち上がり、新しい移住者とともにまちづくりに励んでいます。真鶴は「美の基準」のパタンを新たに更新することが求められています。


6.「間」の思想と無名の質の意義

特に重要なのは、要素(オブジェクト・パタン)がコミュニケーションする「間」の存在です。この「間」の概念は、茶室や庭園や床の間といった日本文化の中に根付いています。西洋人がこれらの文化に引かれるのは、この「間」の思想に魅了されているからです。彼らはこの「間」をプログラミング(スモールトーク)やデザイン(パタン・ランゲージ)に取り入れ、イノベーションを起こしています。

クリストファー・アレグザンダーが「無名の質」として表現した「道」の概念も、言葉では捉えきれない無限の存在を指し、建築やデザインにおける普遍的な秩序と美を表現しています。この「間」や「無名の質」を理解することで、システムやデザインにおける動的な結合と、中心と周辺の平衡を保つ手法がより深く理解できるようになります。


7. 人間社会への比喩

これを人間社会に例えてみると、オブジェクトは「サルトル」、メッセージは「実存主義」、そして「間」は「パリのカルチェ・ラタンにあるカフェ」に相当します。サルトルがカルチェ・ラタンのカフェでゴダールと実存主義を議論すると、セミラティス理論によって多様な人々が集まり、新たなムーブメント「五月革命」が生まれます。オブジェクト指向プログラミングの遅延結合は発酵過程と類似しており、「間」はその発酵の場、すなわち糠床に相当します。

全体テーマ: 「相互作用が生む進化と変革」
各要素(オブジェクト、パタン、思想、大豆)が相互に作用することで、新たなプログラム
(プログラム、デザイン、文化的変革、味噌)が生まれるという全体像を表現


dynamic binding(遅延結合)を人間社会に例えると、カフェソサエティになります。仕事の精度をあげるために、飲み会をやる。人間界もコンピュータの世界も同じですね。

遅延結合を人間社会に例えるなら、クリエイターのカフェにおける雑談すなわち「スモールトーク」


総括

「パタン・ランゲージ」と「スモールトーク」は、表面的には異なる分野で使われているように見えますが、実際には共通の哲学を持っています。それは、要素間の動的な結合、つまり「間」に着目し、その間にこそシステムやデザインの本質があるという考えです。アラン・ケイが提唱したオブジェクト指向プログラミングにおける「メッセージ交換」、およびクリストファー・アレグザンダーの「パタン・ランゲージ」におけるパタン結合の思想は、どちらも東洋思想における「間」の概念と深く結びついています。

遅延結合における「間」とは、茶室であり、カフェであり、糠床であり、ゲストハウスといった空間そのものです。アラン・ケイの言葉を借りれば、「システムやデザインにおける成功の鍵は、各要素の内部特性や振る舞いよりも、それらがどのように『間』で協調し合うかにかかっている」と言えます。さらに、スモールトークにパタン・ランゲージを融合することで、安定的に「主体性を導くデザイン」を実現できるという点も重要です。

注釈:プログラマーのケント・ベックとウォード・カニンガムは、アラン・ケイが提唱したオブジェクト指向プログラミング 「スモールトーク」とクリストファー・アレグザンダーの「パタン・ランゲージ」をソフトウェア開発に統合することで、ユーザー中心のプログラムを実現しました。「スモールトーク」のオブジェクト同士のメッセージ交換と、「パタン・ランゲージ」におけるパタン間の結合は、システム全体の設計において重要な役割を果たしたのです。特に、アレグザンダーの「無名の質 (QWAN: Quality Without A Name)」という概念は、デザインにおける本質的な美しさや使いやすさを表現するものとして取り入れられ、直感的に「良い」と感じられるソフトウェア設計を目指しました。このアプローチは、現代のアジャイル開発やユーザーエクスペリエンス (UX) デザインにも影響を与えました。


このように、パタン・ランゲージやスモールトークの概念と東洋思想の「間」、そしてソフトウェア開発における実践を融合することで、デザインやプログラムにおける新たな洞察を図ることができます。




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