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誘導か共創か?-インタビューにおける介入の意義を考える

この記事は Research Advent Calendar 2023 の1日目の記事です。

MIMIGURIのリサーチャーの座敷童子(@a_praxisnohito_)です。Research Advent Calendar 2023の1日目を担当します!

まずは1年の振り返り

2023年のリサーチ関係のハイライトでいうと、Research Conferenceのスタッフをしました。全国のリサーチ仲間が出来たことは大きな財産でした。朝6時の九段下の空気は大変澄みきっていました。

他にも、MIMIGURIで社内組織開発に向けたリサーチを担当したり、「食のデザインリサーチ」を探索するイベントを開催したり、スペキュラティブファッションラボラトリであるSynfluxさんのメディアで産学連携に関する記事の執筆をしました。一方で学会発表(研究発表3件+招待講演1件)や、学会での年次大会実行委員、学会での座長や論文誌編集委員など、幅広く取り組んできました。

2024年も、研究と実務の両方に取り組むフルスタックリサーチャーとして、色々経験を積んでいきたいです。


今回のトピックについて

昨日何を書こうか悩んでましたが、2023年のnoteを振り返ったら、デザイン系の学会で注目を集めている『ランブリングデザイン』や『パーソンセンタードデザイン』というトピックの論文レビュー記事を書いていました。

Research Advent CalendarのテーマはUXリサーチやデザインリサーチに関するものということで、今回の記事は、UXリサーチャーやデザインリサーチャーの職人芸である「インタビュー」を捉え直す記事を書くことにしました。

その上でタイトルは『誘導か共創か?-インタビューにおける介入の意義を考える』としました。というのも、一般的に「インタビュアーによるインタビュイーへの介入」はタブーとされています。しかしそのタブーへのアンチテーゼとなる手法も、慶應義塾大学の研究チームを中心に検討されてきました。今回はそれらに関する論文をレビューし、読み解いていきます。

話し手と聞き手という役割の分離

例えばインタビュー記事上でも、聞き手はあくまで「話し手」の意見を聞きだす役割で、聞き手の主張は限りなく抑えられていることが望ましいという共通理解があるように感じます。その理由は、「情報の提供者」であるインタビュイーに対し、インタビュアーが自分の役割以上の誘導的な介入をしないためと考えられます。

他にもタブー視されがちな介入として、「インタビュアー自身の仮説をインタビュイーに伝える」「共感する」「具体的に話してほしいトピックを限定する」などが挙げられます(諏訪ら、2014)が、これらもインタビュアーがインタビュイーを誘導しないための手続きといえます。

UXリサーチやデザインリサーチの参考書においても、「話し手」と「聞き手」の分離が前提となっています。例えばUXリサーチの教科書としてよく読まれる松薗ら(2020)では、ユーザーインタビューの利点を「調査協力者から深く詳細にお話を聞けること」にあり、またインタビューの中盤では「ユーザーインタビューは調査協力者が話す場」であって「せっかくの機会を最大限活用するために、インタビュアーの発言は最小限にすることを心がけ、調査協力者の話を引き出すことに努め」ることを指南しています。

また木浦(2020)でも、オーソドックスなインタビューの方式として「インタビュアーがインタビュー協力者に質問を投げかけては、インタビュー協力者からの発言を引き出す形式」と紹介されています。そしてインタビューテクニックとして、「インタビュー協力者の発言に対して反論したり、あなたの意見を述べたり、思うところがあっても態度に出したりはせず、インタビュー協力者の発言を真摯に捉えることが必要である」と、インタビュアーはニュートラルな姿勢をとる重要性が記されています(木浦、2020)。

「話し手」と「聞き手」の関係についての諸議論

ここまでが一般的なインタビュー手法についてでした。しかし、話し手と聞き手を分離させることや、介入をタブー視することの是非について、幾つかの議論が存在します。

まず、分離すべき理由が「インタビュアーがインタビュイーを誘導しないこと」にあったとします。しかし人間は他者と対話する中で、少なからず相手の発話や表情、雰囲気、あいづち、環境、関係性などから影響を受けがちです。どれだけ誘導しないようニュートラルであろうとしても、インタビューという体裁をとった時点で誘導は不可避であり、「インタビュイーの純粋な意見」を抽出することは、構造上困難なのではないかという意見が挙げられます。

また、「主観的な意見を打ち明けてみる」ことによって、その主観が相手の経験や感覚と紐付き、今まで語られてこなかった暗黙知が言語化されていくことは、1on1でもよく出くわします。ともするならば「インタビュアーが主観を発する」行為の中にも、かえってインタビュイーを触発し、より深い意見を聞きだすような「介入」があるのではないでしょうか。勿論よくない介入があることも事実ですが、全ての介入は悪いといえるかと言われれば、よく分からなくなっていきます。

アクティブ・インタビュー(ホルスタイン,2004)

研究においてもこのような議論を重ねながら、インタビューの手法や考え方は多様化してきました。その中でも、社会構築主義に立つホルスタインらによって提唱された「アクティブインタビュー」を紹介します。

アクティブインタビューを平易に説明すると、「インタビューとはインタビュアーとインタビュイーの『相互行為』である」という立場です。インタビューを通じて獲得した知見や情報についても「対象者と自分で共創したもの」として位置付けられます。

本書の主張は、インタビューというものは解釈作業を伴う「アクティヴ」なものであり、インタビュアーと回答者の両方の側の意味を作り出す作業を、必然的に含んでいるということである。私たちの主張は、もしインタビューのデータが不可避的に協同的な産物であるとしたら、インタビューから相互行為の要素を抜き取ろうとする努力はむだなものになるということだ。(p,21)

ジェイムズ ホルスタイン、 ジェイバー グブリアム(2004)『アクティヴ・インタビュー―相互行為としての社会調査』、せりか書房より

アクティブインタビューを用いた場合、インタビュアーに求められる素養や態度とは、従来のインタビューとは大きく異なります。つまり、インタビュアーは明確に聞き手に徹して語り手への誘導的介入を避けるのではなく、むしろインタビュアー自身が、その場における語り(ナラティブ)を活性化できるような、アクティブな振舞いが要求されるわけです。

ホルスタインは、アクティブなインタビュアーの振る舞いについて、「回答者を誘発して答えさせるようにする責務」があると述べています(p.104)。すなわち一般的なインタビューが中立的・情を加えないことが金科玉条とされるのに対して、アクティブインタビューでは「意図的に、しかも協同して回答を誘い出そうとする」(同頁)ことが求められるわけです。

では、具体的にどういう方法が考えられるでしょうか。例えばインタビュアーが「自分は〇〇の専門家である」と立場を設定することによって、対象者はその専門家にまるで相談するかのように詳しく自分の状況を語るように促されます(p.108)。喋る相手の立場の違いは語りに変化を生み出します。アクティブインタビューでは、むしろインタビュアー自身の専門性の開示や自己紹介についても、インタビュイーの語りを促進するための活動として操作可能であると考えます(p.109)。

また、アクティブインタビューでは、インタビュイー自身の語りを条件づける方法も用いられます。ホルスタイン曰く、条件付けは「かれらの経験という広野を進む時の道案内をする標識のようなもの」(p.110)として作用します。インタビュイーも「市民として」語るのか、「父親として」語るのか、それとも「ラーメン好き」として語るのかによって語り口は変わります。そこでインタビュアーは、適宜インタビュイーに対して「××の立場から考えるならどうですか」というように範囲を限定する介入をすることで、状況によって基準が変化する場面を想定した語りなど、より文脈依存的な解釈を描くことが可能になっていきます。

この著書では、他にも様々な介入の方法が提案されていますが、総論としてアクティブインタビューにおけるインタビュアーは、回答者に対して「何を話すべきかは指図はしない」ものの、「回答者が取るべき方向づけや、前例知識を示したり、時には提案」することを通じて、「語りの産出を活性化する」(以上p.104)という役割を背負っているといえます。

インタラクティブ・インタビュー(忽滑谷ら、2012)

アクティブインタビューの他にも、認知科学、人工知能研究の領域で、「相互行為的」なインタビューの手法として「インタラクティブ・インタビュー」が提案されています。

インタラクティブインタビューは、インタビュー行為自体を「インタビュイー自身の実践的活動のメタ認知を促し、実践的活動や創造思考を活性化する(中略)、調査手法ではなく学びの手法」として捉えていくという特徴があります。またインタビュアー自身に対しても「自分の言葉で伝える」ことを支援することに関する有用な学びを与えます(忽滑谷、2012)。こうみるとインタラクティブ・インタビューとは、インタビュアーとインタビュイーの相互的な「学び」を生み出すことに適した手法といえるかもしれません。

この手法では相互行為を促進するために開発された「hex」と呼ばれるメモツールを活用します。hexは六角形のメモ帳であり、床に並べたり繋ぎ合わせていくことが可能な文房具です。hexの初出は西山ら(2011)です。

hexの使用法(画像は忽滑谷ら、2012より)

インタラクティブ・インタビューの手法を先行研究(忽滑谷ら、2012)に沿って紹介していきます。インタラクティブ・インタビューではこのhexを使いながら3名でインタビューを進めることが推奨されています。

  1. 1人は話し手、1人は聞き手、そしてもう1人はhexに聞いた内容を記録するメモ係に分かれる(2人で取り組む場合は聞き手がhexに記録する)

  2. 話し手と聞き手がテーマに関して30分程度自由に会話する。その際、メモ係は会話の中で見られたキーワード、着眼点、こだわりなどをhexにメモする。なおメモしているhexについてはインタビュイーには見せない。

  3. メモされたhexの束をインタビュイーに手渡し、hexを自由に繋げたり並べてもらう。hexを配置していくことは、インタビュイー自身の思考構造の可視化に寄与する。

  4. インタビュアーは並べられたhexについて、なぜそのように並べたのか、並べた意図は何かをインタビュイーに問いかける。その際には「なぜhexを並べたら窪みができたのか」「なぜ湾のようなものができたのか」「なぜ二つの島に分けられたのか」といった配置のマクロ構造に関する質問をする方法も有効である。

  5. hexの配置がある程度固まったら、次は配置されたhexを撮影して、A4用紙一枚に印刷する。その印刷紙の上でカラーペンでhexのまとまり(群)に名前を付けたり、配置の意味付けをメモする。

  6. A4用紙への書き込みが終了したら、インタビュイーは書き込みの意図をインタビュアーに説明する。インタビュアーはインタビュイーからの説明に対する疑問点や意見に対して積極的に意見し、議論を交わす。議論の中で新たに考えたことや気づきがあったら、A4用紙に追記をしてもよい。

hexの配置について(画像は忽滑谷ら、2012より)

インタラクティブ・インタビューが提案されたのは少なくとも2012年ですが、10年経過した現在は、コロナを挟んでオンラインでも同様の手法を実践しやすくなっていると感じます。例えばオンラインボードサービスであるMiroを用いれば、hexと同様にオンライン上の付箋にキーワードを書き、構造化することが行えますし、既に手法論として似た方法を取り入れている方もいるかもしれません。

ただ、このインタラクティブ・インタビューの価値は手法論以上に、背後のインタビューの考え方にあると個人的に考えています。論文の冒頭では「インタビュアーとインタビュイーとが話し手/聞き手といえ役割に過度に囚われることなく、積極的に議論を交わすインタビューの在り方を提案する」(忽滑谷ら、2012)と記述されていますが、まさしくこの研究が手法の提案を通して目指したのは、いわゆる従来の「役割」への囚われによって生まれなかったインタビューを通じた相互作用(学び)の方法です。

誘導的介入と「本来性」について(諏訪ら、2014)

ホルスタインら(2004)や忽滑谷ら(2012)などでは、インタビューを「相互行為」と再解釈する方法論が提案されてきたわけですが、これらの先行研究を踏まえ、より効果的な質問技法に関する研究が、諏訪ら(2014)によって行われています。

この研究では「どのようなインタビューを行えばインタビュイーは本音を語るのか」「質問の仕方に何か効果的な技法は存在するのか?」という二つのリサーチクエスチョンを立て、「仲の良い話し相手という信頼関係を築くことが本音の語りを促すのではないか」という仮説を、神奈川県湘南台で飲食店を営む男性への3回(各2時間)のインタビューと、そこで得られた発話記録のコーディングや分類をもとに検証を加えています。

細かい調査設計や発見事実などは元文献を参照されたいですが、諏訪ら(2014)は結果として、ホルスタインらのアクティブインタビューの主張を裏付ける結果だったことを報告しています。すなわち主観的な意見や仮説を開示したりする「ご法度」な技法が、本音の開示に影響を与えうる可能性が示されています。その上でインタビュアーの主観の発露は「誘導」ではなく「意見交流」として捉える(諏訪ら 2014)という見方を提示しています。

また、諏訪らの研究の面白い点は、個人的には次の「誘導」と「本来性」に関する記述にあると考えています。本来性についてこの論文では詳しく定義はないですが、異なる研究では「自分らしさに根ざした、本人が考えるところの『あるべき姿』のこと」と定義されています(清水ら 2014)。

「誘導」は一時的には生じるかもしれない.しかし,本研究のように,何日にも渡ってインタビューを行えば,一時的な「誘導」 から自分の「本来性」を取り戻すと考える.「本来性」は筆者が提唱する概念である.本研究の結果は,ひとの本来性を最終的に損ねないような時間的猶予を与えつつ,途中で一時的な誘導になろうとも,インタビュアーも自分を開示しつつインタラクティブに交流することのメリットを示唆するものである。

諏訪正樹、清水唯一朗(2014)『本音を語ることを促すインタビュー技法に関する一考察』、2014年度人工知能学会全国大会

UXリサーチャーやデザインリサーチャーも、インタビューしていてもとくによく聞く悩みは「インタビューをすることで相手の考えに誘導的に介入しすぎてないだろうか」というものです。

この論文においても、インタビュアーによる積極的な介入は「誘導」になりうることについては認めています。しかしその「誘導」は対象者にインタビューを続けていくことで一時的なものとなり、徐々にその人の「本来性」が取り戻されていくという見方を提示しています。その上で後発的な研究(清水ら 2014)においても、他者からの誘導は「自分らしさを追求する」過程で、新しい着眼点を学ぶ契機として捉える見方を示しています。

ひとは、各々の人生を生きているのであるとするならば、長期間にわたって誘導されるものではないのではないかと。現在は個性や感性を大切にする時代であり、自分らしさとは何かを探究することへの社会的関心は高い。自分らしさを追求する過程において、他者からの誘導は新しい着眼点を学ぶ契機になることもある(諏訪,2013)

清水唯一朗、諏訪正樹(2014)『オーラル・ヒストリーメソッドの再検討: 発話シークエンスによる対話分析』、Keio SFC journal 14 (1), 108-132

まとめ

今回の記事では、インタビューを「相互行為」として捉える研究の例として、アクティブインタビューや、インタラクティブ・インタビュー、さらにはインタビューにおける介入の有効性を論じた研究などを紹介しました。

個人的には、インタビュアーは単に情報を聞き出す役ではなく、インタビュイーと共に情報を共創する役割と捉えることは感覚的に合います。というのも、良いインタビューができると、自分が依頼したにも関わらず相手から感謝いただく場面があるからです。単に情報を聞き出すだけでは相手から「感謝」をいただくことはなく、その場でなにかの意味や価値を創出しあい、共に新しい発見や気づきの獲得ができたからこその、場づくりに対する「感謝」であると考えられます。なによりインタビューとは、英語でinter(相互の)-view(視点/見方)であり、相互の視点が発露してより知を深めている感覚が得られている時が好きです。

ただ、インタビューに対する考え方は無数にあって、何が正しいという判断は難しいところがあります。普遍性や客観性を重視する立場からの懸念や批判も理解できますし、特に「リサーチの目的」の違いによって適合する方法としない方法が分かれやすいものと思います。寧ろそうした批判的議論が発生することが、より新たなインタビューの技法が発生する蓋然性が高まっていくと考えられます。

この記事での知見を、実務家の方はどう使えば良いでしょうか。実務家の方の場合は、今回のアクティブインタビューなどをはじめとして、数あるインタビューの考え方を調べたりする中で、自分の手法はどういう考えと近いのかを知り、より自分のインタビュー技法を客観視したり、上達のためのキーワードを得るきっかけになると考えています。自分もまだまだ実務家として実力は不十分ですが、今回の記事の執筆を通じてインタビューの奥深さに改めて気づく契機になりました。

とはいえ座敷童子よ、こういう研究を見落としてるぞ、お前もまだまだだな!!というものがありましたらご紹介いただけますと幸いです。是非とも意見交換をさせてください!

明日のResearch Advent Calendarは、株式会社ゆめみのRena Nakamuraさんです。なかむらさんといえば、下のポートフォリオの記事がめちゃくちゃ努力が伝わって好きなんですが(学生時代に出会いたい記事)、ゆめみさんでのお客様へのインタビューの実例について書くとのこと!楽しみです~!!

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参考文献

  • ジェイムズ ホルスタイン、 ジェイバー グブリアム(2004)『アクティヴ・インタビュー―相互行為としての社会調査』、(山田富秋、兼子一、倉石一郎、矢原隆行訳)せりか書房

  • 松薗美帆、草野孔希 (2020)『はじめてのUXリサーチ ユーザーとともに価値あるサービスを作り続けるために』 NTT出版

  • 木浦幹雄 (2020)『デザインリサーチの教科書』ビー・エヌ・エヌ新社

  • 忽滑谷春佳、諏訪正樹(2012)「創造思考のナラティブを創出するインタラクティブ・インタビュー」人工知能学会第26回全国大会,1N2-OS-1b3

  • 西山武繁、松原正樹、諏訪正樹(2011)「間合いの可視化による駆け引きスキルの体得支援ツールのデザイン」人工知能学会第25回全国大会,3D2-OS8-12

  • 諏訪正樹(2013)「見せて魅せる研究土壌—研究者が学びあうためにー」,人工知能学会誌,Vol.28, No.5, pp.695-701.

  • 諏訪正樹、清水唯一郎(2014)「本音を語ることを促すインタビュー技法に関する一考察」、2014年度人工知能学会全国大会

  • 清水唯一朗、諏訪正樹(2014)「オーラル・ヒストリーメソッドの再検討: 発話シークエンスによる対話分析」、Keio SFC journal 14 (1), pp.108-132

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