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美術館を巡り、人と会う。

朝6時、丁度日が昇り始めた頃に私は家を出た。
駅へ向かう途中、いつも縁側から外の景色を見ているおじいちゃんも今日はまだいない。

朝早くに私は電車に乗って、東京方面へと向かった。新幹線に乗ったのは6月に弾丸で名古屋に行った時ぶり。10時に現地に到着する予定だった為、自ずと朝の出発は早くなったのだ。新幹線に乗り込む前に、朝ごはんと水を購入する。
とは言え、やはり遠出はいつもワクワクするもので、私の場合は1~2ヶ月に1回ぐらいのペースでどうしょうもなく遠くに行きたくなる。たぶんこれは病気だな、とふと新幹線で朝ごはんを食べながら納得する。

朝ごはんを食べた後は、少し寝て、メイクをして、読書をした。最近は専ら人類学に興味があり松村圭一郎氏の「うしろめたさの人類学」を読んでいた。

エチオピアでのフィールドワークから「わたし」と「国家」「社会」とのつながりを思考している。結論は自分自身が今まで感じていたような事と似ているが、やはり少し変わった所からアプローチされているものを見ると新鮮だ。
今、私達が当たり前のように享受しているものは全く当たり前ではないことを改めて認識させられる。

同じ列に座っている男の子は英語の勉強をしていた。私服で少し大きめのリュックを持っている。就活ではなさそう。これからどこにいくのだろう?それでも熱心なことに変わりはなく、すごいなぁと感じる。

新幹線を降り立ち、待ち合わせ場所へと向かう。
電車内には人がいる。多いわけでも、少ないわけでもないぐらいの人だ。
昨年以降、東京に行く回数がめっきりと減った。「新しい日常」と囁かれているが、今までのように人が行き来している様子を見ると、新しい日常というものに移ったのか、移らなかったのかはあまりよく分からない。まぁでも体の細胞は半年ですべて入れ替わると言われているのだから、確実に更新はされるのだろう。

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待ち合わせ場所に到着する。いつもオンラインの勉強会でディスカッションしている人達との初対面である。
待ち合わせ場所にいると、サングラスを掛けた男性がこちらに手を振る。しかし、私は誰か分からなかったから無視をしてしまった。その後、今日一緒に美術館を回る人であったことが判明。謝る。もう1人も合流し、早速美術館巡りが始まる。

まずは、森美術館のアナザーエナジー展。凄まじいボリュームにこれは1個づつじっくり見ていくと、最後はクタクタになると思い、まずは軽く1周し、その時気になったアーティストを中心に2周目を鑑賞した。
展示を見て、アーティストの持つエネルギーや生き様を感じることが出来た。作品を作る中で批評や理論や文脈などの知識も重要であるが、その人の生き様や血の通った経験に勝るものはない事を改めて実感する。

私はこの2週間弱で4月に入社した会社を8月で辞めることを決めた。
理由としては色々あるが、中でも大きいのがアーティストとしてのキャリアを考えた時に、自分でお金を稼いでいく事の経験やそれに伴うヒリヒリ感を味わっていかない限り、作家として成長しないと感じたからだ。
単純に収入が減る事への不安はあるが、恐らくこの経験は今やらないといけない!と感じたのだ。

そんな決断を行った後に鑑賞した展覧会だからだったのだろうか、何となくそれぞれの作品に背中を押してもらえたように思えた。

お昼ごはんは豚カツを食べる。
オフラインでは初対面の人とのお昼ごはんに少し緊張する。しかし、お腹は空いているようで、ペロッと豚カツも食べてしまった。そしてご馳走になってしまった。

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その後、21_21 design sightのルール展を鑑賞する。あまりデザイン系の展覧会を見る機会がなかった為、とても新鮮だった。
松村圭一郎氏の本や住んでいる古民家での「生活する事が大変」という事実などを思い出しながら、鑑賞し、面白い発見が沢山あった。
会社の先輩に入社前に「マーケティングが人を動かしているって事を知ると、もっと(仕事が)面白くなると思う」と言われた事も思い出し、恐らく私が自分の意志で動いていると思っている事の大半は実はモノやそれに隠されたデザインによって動かされているものなのだ。

ジワジワと染みてくる面白さに、強い日差し。昼間は少し蒸し暑かった。

銀座に移動し、ギャラリーを何件か迷う。
映像作品を見ていて、気付けば寝てしまっていた。

ギャラリーを周る途中で、銀座木村屋で休憩をした。一緒に見て回っていた人が「さっきの映像作品面白かったですね〜」と言う。確かに面白かったので、「そうですね、面白かったです〜」と言うと、寝てたじゃん、と言わんばかりの顔をされる。
確かに寝てしまった事も事実だか、面白かった事も事実なので、「寝る事も鑑賞体験の1つなので」と開き直る。

そんな会話をしているとあんぱんがやってきた。

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いつも東京で展覧会巡りをする時はマクドやドトールで休憩する事がほとんどだったので、素敵な喫茶店にいること自体ドキドキした。
一緒にいた人に「ここのあんぱんは高いけど、ふつうのあんぱんとは違うよ〜」と言われる。少し小さめのあんぱんをひと口食べる。確かに、全然違った。生地がもちっとしていながらフワっとした食感が後からやってくる。これは凄い。
ほかの2人はあんこパイを注文した。そして、両者のあんこパイの先端を頂いた。勝手にやって来て、展覧会巡りを付き合ってもらってる人間なのに、すごく甘やかされている。またもご馳走になってしまう。

その後も2件ほどギャラリーを周り、解散する。やっぱり作品を見ていくとワクワクする。楽しいな、と心の底から感じる一方で、豚カツとあんぱんがズシっと自分のお腹に効いてきた。

都内から、その日の晩に宿泊予定のホテルがある場所に向かう。
3人で展覧会巡りをしたうちの1人とは解散し、もう1人とは最寄り駅まで一緒の為、一緒の電車に乗る。一応初対面であるはずなのに、話が弾み、つい会社の話をしてしまう。

駅で解散する前に、軽くホテルまでの道筋と明日乗る予定のバスの乗り場について教えてもらう。ここまで来ると、何もかもが有り難く思える。ちなみにその女性とは明日も会う予定なのだ。

ホテルは駅から徒歩5分ほどの所にあった。普段30分ほど掛けて駅から自宅まで帰っている為、5分という一瞬の出来事に驚きのあまり、目を見開くばかりであった。周辺にはコンビニ、コンビニ、スーパー。何でも揃っている。明日の水分を購入して、ホテルに向かった。

ホテルはよくあるビジネスホテルで、特に何かの不都合があるわけでもなかった為、快適に過ごした。自宅にはテレビがない為、普段見れないテレビを見よう、と感じ部屋に到着するなりテレビの電源を付けた。

朝5時起きだった事もあり、22時頃には眠たくなった為、就寝した。

少し開けた部屋のカーテンから差し込む朝日で目を覚ます。朝の5時。2度寝して6時半頃に起きる。念の為、設定したアラームは7時だったので、アラームを解除して身支度を始める。

のんびり準備をしても、だいたい30分ほどで終わってしまい、またテレビを見る。
朝ごはんを食べに下に降りる。パンが何種類かあり、普段なら2つ3つで事足りるはずの量でも今回は4つぐらいは食べれるように思えた。思いの外、パンが美味しく、おかわりもしてしまったので、結局は6つほど食べた。昨日、今日と食欲があるなぁ〜と感じながら、ふと自宅で留守番をしているウーパールーパーの事を思い出す。

朝ごはんを終えたら、歯磨きを済ませ、忘れ物を確認して部屋を出る。昨日教えてもらったバス停に向かうと人が並んでいた。
自分のこれからやっていく研究の取っ掛かりを見付けようと、他の大学を訪れることを計画したが、結局は行く前にある程度の取っ掛かりを見つける事が出来た。しかし、自分が通っていた大学以外の大学に行くのはとても新鮮で、単純に凄いな!と感じたり、学生の作品を見て、学部時代の自分を思い出した。お目当ての先生に巡り合う事はなかったが、素敵な冊子も手に入れたので、個人的には満足した。

駅に戻った後、昨日美術館を回った女性(大学院の後輩でもある)と大学院の先輩と合流し昼ごはんを食べる。うどん。
昨日、「関東のうどんは濃いですよ」と教えてもらった為、本来なら一番オーソドックスなうどんを注文すべきだったのだが、私はチキンカレーうどんを注文していた。
お昼ごはんを食べつつ、卒業後にいかに研究を進めていくのかについて、私が無職になる話、無職になるのにカーリースの契約が始まる話などをする。

今年の3月に私は大学院を卒業したが、卒業後も研究を続けていく事を考えていた。今まで行ってきた事を継続するのは簡単でありながらも、難しい事なのだ。作品を作ることも同様なのかもしれないが、結局は人とのつながりが重要になってくる。
自分だけで創作や研究を行うことも勿論可能だが、それだと結局プラスにはなるものの、掛け算にはならない。

そう考えると、卒業後もこうやって自分と会って美術館を巡ってくれたり、お話してくれる人には感謝の気持ちでいっぱいだ。そんな事を思いながら、店を出ようか、という話になった時、私の隣にあったはずの伝票が素早いスピードで大学院の先輩の手に渡り、またしてもご馳走になってしまった。完全に自分が伝票を持っていく気でいた為、自分の隙と瞬発力の強化が課題であることを感じた瞬間だった。

その後、大学院の先輩が飼うペット(ダックスフンド2匹)と合流し、ペットOKのカフェへと向かう。
久しぶりに犬と触れ合う為、少々ビックリしたが、とても可愛らしい子達だった。とは言え、顔をなめられるのはあまり好きではないので、友好の証としてペロペロされるのを阻止するのが大変だった。

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基本的にお腹が弱いので、夏でもホットを注文する人間だったが、あまりにも暑くて、ついアイスティーを注文してしまう。

ダックスのワンちゃんを抱えながらの会話であったが、途中ぐらいからワンちゃんも私も何となく落ち着いてくる感覚を感じた。
昔は犬のお腹の熱さに命を感じて、触ることさえも緊張してドキドキしていたが、今はあまり感じていない。そんな変化でさえも、きっと私が変化した証なのだろう、と感じた。

同じ大学院のゼミに所属している者同士だったので、ゼミの話で盛り上がる。気付けば新しいアイディアも生まれていて、改めて凄い人たちの集まりの中に自分もいたのだ、と実感させられる。そしてワンちゃんを抱える事に夢中になっていた隙に、またご馳走になってしまう。さらに帰りの新幹線で食べてね、とクッキーまでお土産として貰ってしまった。
もう何から何までお世話になりっぱなしで申し訳ない気持ちでいっぱいだが、私もこうやって下の人たちに還元出来るような大人になっていたいものだと、強く思う。

駅に向かう帰りの車の中で、つい「あー!帰りたくない!月曜日なんか来てほしくない!新幹線乗りたくない!」と言ってしまう。しかし、よく考えてみればそんな気持ちもあと4〜5回で済むのかと思うと、ちょっと嬉しい。

駅前で車から降ろしてもらう。本当は沢山ありがとう、と言いたかったが、後続車が詰まっていた為、サラッと降りてしまった。ちょっとそれでは私の気持ちが許せない為、車が見えなくなるまで手を振ってみた。

あまりにもこの2日間が夢のような時間だった為、自然と「新幹線とか止まってくれないかな~」と言っていた。私の気持ちがほんの少し届いたのか、5分ほど新幹線が遅れていた。

帰りの新幹線で食べてね、と頂いたクッキーをあまりにも嬉しくて食べる勇気が出なかった。しかし、お腹は空いていたので、崎陽軒のお弁当を購入する。いつもの横浜チャーハンは軒並み売り切れで、しぶしぶ夏弁当というものを購入してみる。

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とは言え、やはり崎陽軒のお弁当だけあって美味しい。おかずの数も多く、パクパク食べてしまえる。ふと、何でこんなに食欲が旺盛なのか不思議になった。普段はそこまで食欲がある人間ではない。25歳、既に身体的な成長は終わり生物的には老いが始まって来るような年齢だ。なんでこんなにもご飯を沢山食べたくなってしまうのだろう…、そう感じながらも食後の胃の重みにいつも少し後悔する。

デザートにせっかく頂いたクッキーを食べようと少し考えていたが、厳しそうだった。少々殺伐とした職場に持っていく気もないため、今週末や夜のティータイムのお供にしたい。

夢のような2日だったと感じていても、やはり自宅には帰宅するもので、帰宅をしている私は会社帰りの私と変わらなかった。こうやって日常に溶けていくのだ。自転車を置いて、玄関へ向かう時に踏む雑草の感触に帰ってきたことを実感する。しかし、ほんの少しだけ景色は明るくみえたし、いつもよりちょっとだけ上を向いて歩けたような気がした。

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