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エトルリアの壺

 著者プロスペル・メリメ 岩波書店

 1805年生まれのメリメが27歳の時に著した短編である。
好きな人が自分の事をどの様に思っているのか、誰もが気になるもので
ある。相手の振舞や言葉、そして、友人たちの会話から、あーだろうか、
こーだろうかと一人思い悩むことになる。
この思いは、思う人のちょっとした仕草や、友人たちの言葉から、相手に
不信を持つ場合もあり、もーどうでも良くなったりするものである。
この短編は、そんな時、一人であれこれ悩むと、悪い方にばかり考えが
及び、結果として上手く行く事も、行かなくなるという警告を読者に与えてくれる。一人で思い悩むのは、どうしても悪い方に考えがちである。
自分にも経験がある事であり、一人で悩まず、状況がしっかり見えるまで、我慢強く過ごしていく事が重要なのであろう。 

 それにしても19世紀初頭に生まれた27歳の若者が、これを著したことに
驚きを隠せない。27歳という若さで人間の持つ性(さが)に焦点を当て、
これを題材に短編を著すというメリメの人間観察力に頭が下がる思いで
ある。おおよそ2500年前に孔子により記された論語が現代の人間にも十分
当てはまる事を考えると、科学が進み知識の量が豊富な現代にあっても、
人間の本性は昔から変わっていないという事であり、興味深い事である。

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