11歳の習い事

きっかけは忘れたばってん、5年生のとき、お母さんが私に空手を習わせようとしとって、私も興味あったけん結構乗り気やったんよ。家にいてもお父さんがいるし、色々と大変やけんね。それで友達のNちゃんとお兄ちゃんが習ってるスポーツジムの空手教室に行くことになったっちゃん。

行きはチャリで一人で行くんやけど、途中でお菓子屋さんがあって、お年玉とか貯めてたお金でお菓子を買うのが楽しみやった。それをスポーツジムの待合で食べるんよ。大人になった気がしとった。
でも、あるとき、お菓子屋さんの前でチャリを駐めようとしとるとき、通りすがった知らん人にいきなりお尻揉まれて、めちゃくちゃ気持ち悪かった。外で痴漢されたの初めてやった。痴漢、よな?これって、痴漢よな。小学生で遭うんやね。

空手は楽しかった。すごく楽しかった。
同い年なのはNちゃんだけだけど、もともと私はNちゃんと仲良しだから、そもそも一緒にいるだけで楽しかったし、二人で組手したりね。
できる技が増えていって、特に嬉しいのは蹴り!
蹴りが決まるとバリスカッとした。
進級試験にも合格して、一番最初の級をもらえて、うれしかった。
そうだ、仲良くなったおねえさんにブラックジャックのマンガ本を貸してもらったりしたっけ。お父さんにあとで怒られたけどね。
それで、帰りはNちゃんとNちゃんのお兄ちゃんとNちゃんのお母さんと帰るっちゃん。Nちゃんのおにいちゃんもかっこよくって、少しどきどきしたりね。夜遅いけど途中まで一緒やから安心。夜帰って来るとお母さんがご飯用意して待っとってくれて、ご飯食べてお風呂入って寝るだけ。
やけんその日は平和なんやけど、なんやけどね。

でもね。空手を習っても、大人の男の力には敵わんとよ。力いっぱい抵抗しても、お父さんは笑いながら私を組み伏せよった。
人を殴ったり蹴ったりするのはむずかしか。でもいくらなんでもこれはやばいと、お父さんを蹴ろうとしたばってん、足を掴まれて笑われた。私は抵抗し続けたし、諦めたことはなかったばい。

でも、もう心は死んどったと。
これは自己憐憫やなかよ?ただの事実なんよ。
ただの事実でしかないけん、オチも何もないんやけど、世間ってオチを求めたりするやんか、なかなか困るっちゃんね。パパが絶対せんことをお父さんはしてくるっちゃん。だからおかしいって知っとった。でも誰も助けてくれんし、多分当時の法律もそうだった。
心が死んだ人がいることは不都合らしいやんか。
でもたくさんおるとばい。

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