インベーダー・フロム・過去 【6/11】
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明くる朝目を覚ますと、公一は先に起きていて、朝食を作ってくれた。
そういえば、昨夜はあの夢を見なかった。
朝の光の下でお互いを見ると、何だか少し気恥ずかしくなる。
お化粧をしていたときに気付いたけど、わたしの目の下にはうっすらと隈ができていた。
結局、わたしたちは昨晩に4回もヤった……じゃなくて、愛し合った。
公一が帰ってくる前に自分の指でイったのとあわせたら、何回イッたか判らない。
とにかく……新婚の頃に、一晩で8回ヤってしまったことがあるけど……昨晩のセックスは中身が濃密だった。
わたしは自分があそこまでイきやすいとは思っていなかった。
その気になれば、自分は何回でもイけるんだ、ということを改めて思い知らされた。
わたしはいいけど、それにつき合わされた公一は大変だったと思う。
4回目なんて、卵のからざぐらいしか出なかった……って、なんだか表現が生々しくなってしまう。
しかし、わたしが昨夜あの夢を見なかったのも当たり前だろう。
あれだけイッておいて、さらにあんな夢まで見るとしたら……
わたしはほんとうにどうかしてる。
公一の目の下にはわたしよりはっきり隈が浮き出てていた。
その点、女はお化粧でごまかせるから得だ。
公一の目は黄色く濁っていて、うつろで、焦点を失っていた。
今日は灰色のスーツだったが、それにまったく合っていない海老色のネクタイを締めている。
たぶん、まともにネクタイを選ぶ気力も無かったんだろう。
わたしも緑のカーディガンに白いブラウス、水色のフレアスカート。
どこがとは言えないけれど、何かしっくり来ない取り合わせだった。
わたしにもその服を選んだ記憶がない。
お互いに、それを指摘し合う気力さえ無かった。
昨日あんまり大きな声を出しすぎて、声も枯れていたし。
……両隣に聞こえなかっただろうか?
……いや、思いっきり聞かれただろう。
そんなわけで、公一はわたしに合わせていつもより1時間遅く家を出た。
ふらふらのわたしたちは、言葉も少なく駅までの道を歩いた。
空はまるでいやがらせのように晴れ渡り、日差しが眩しい。
普通なら汗ばむくらいの陽気だったが、わたしも公一も余分な水分は一切残っていなかったようで、一滴も汗をかかなかった。
あっという間に、駅に着く。
「ああ、すごい人だね。いつもこんなのなの?」
ホームの人混みに気圧されて公一が言う。
公一はラッシュを避けていつも1時間早く出るから、この混みように困惑していた。
「うん……でも、これがイヤだからいつも早く出てるんでしょ?」わたしは掠れた声で言った「わたしは、早く出かけるより満員電車のほうがいいな」
「……毎朝、痴漢に遭っても?」
公一が特に受けを狙ったわけではなさそうな、投げやりな口調で言う。
「……バカ」
小さく呟く。
真面目に怒る気も無くしていた。
「……で、そのミスター痴漢さんはどんな感じの奴なの?」公一が周りの人混みに目を走らせながら言う「身長とか、服装の特徴とか、体つきとかは?」
「ううん……えーっと……」
一瞬だけ見たその…“ミスター痴漢さん”もしくは“過去からの侵略者”、もとい“夢の中の男”の後ろ姿を出来る限り鮮明に思い出そうとする。
特徴その1……身長はわたしと同じくらい。やせ形。少し猫背。
特徴その2……スーツを着ていなかったので、たぶんサラリーマンではない。ちなみに昨日の服装は黒いカジュアルジャケットで、下はクリーム色のチノパンツ。
特徴その3……年齢は多分わたしと同じくらい。これも正面から見たわけではないので確かなことは言えない。
わたしは思いつくままに、男の特徴を公一に聞かせた。
「……それじゃ、何にもわかんないのと同じだね……」
公一がため息を吐く。
「……だって……」
わたしは言い返せなかった。
「……とにかく、今のところ一番の特徴は、スーツを着てないってことだね。でも、昨日はカジュアルで、今日はスーツだったら、全然わからない」
「……そうだけど」
「仕方ないな……」公一はもう一度辺りの人を見回した「……伊佐美ちゃんに、エサになってもらうしかないね。それで、食いつくのを待とう」
「えっ?」あたしは公一の顔を見た「なに? ……わたしにまた今日も痴漢されろって?」
「……仕方ないじゃん、そうするしか。だから、僕は伊佐美ちゃんとは離れた位置つくから……って、今話してるところ見られたらお仕舞いだけど……いい? これから、僕らは他人。他人みたいに振る舞うから、あんまり僕のこと意識したりせず、自然に。自然にね」
「……そんな……ちょ、ちょっと待ってよ!」
泣きそうなわたしを残して、公一はホームの別の列に移った。
すがるようにその顔を見ても、公一はもう“他人モード”の演技に入っているらしく、腕時計を見たりしてわたしの視線から逃げている。
実にわざとらしい。
抗議したかったけど、喉も痛いし、これ以上喋りたくもなかった。
それに、公一の言うとおり、わたしがかの“ミスター痴漢さん”の特徴をよく覚えていない以上、こうするしか方法は無いのかもしれない。
……いや、あるかも知れないけど……いまは思いつかない。
ホームに電車が入ってきた。
わたしは真後ろに立っている人を振り返った。
40歳くらいの、スーツを着た女の人だ。
なあんだ……ホッとすると同時に、落胆もした。
こっちは万全の(?)態勢で待ちかまえてるというのに……こんな日にかぎって、何も起こらないのはよくあることだ。
ほら、空がぐずついているから、殊勝にもバンの中にあらかじめカ折り畳み傘を入れている時ほど、結局雨は降らなかったりして。
降りる人の波が溢れ出て落ち着いたところで、わたしは流れに任せて電車に乗り込んだ。
あんまり気が抜けていたので、人の波に揉まれてきりきり舞いしてしまう。
ほとんど回転するみたいに電車の中に巻き込まれていく。
その間、ちらりと視線の端で公一を捉えた。
公一はわたしの方を見もしなかった。
“他人”の演技だろうか。それとも……。
だいたい、あんなに離れたところから乗り込んで、わたしが痴漢されたらどうやって助けるつもりなんだろう。
車両の中央くらいに押し込まれた。
周りは背の高い人が多かった。
人の、人の、人の、人の向こうに公一の顔が見える。
やはり公一は“他人”の演技をしていた。
電車が床を振動させて、動き始める。
と、その時、わたしのうなじの毛が逆立った。
なぜなのかはわからない。
たぶん、五感以外の何かが、それを感じ取ったのだろう。
一瞬にして全身が汗だくになって、その汗が急激に冷えたみたいだ。
わたしは首を動かせる範囲で周りを確認した。
周囲の空気の中に、彼は居た。それを全身で感じる。
公一に目をやった。
一瞬、目が合う。
わたしは目で、公一に合図した。
わたしに危険が迫っていることを、目で訴える。
しかし公一はぼんやりとした見返すばかりだった。
笑みさえ浮かべて、また視線をあらぬ方向に戻した。
「……あれ、旦那さん?」声がした。右耳のすぐ後ろだった「ふーん、優しそうで、ハンサムじゃん?」
「……えっ?」わたしは振り向こうとした「……な……」
“何で?”という言葉がわたしの喉から口に至る前に、あの男がわたしの耳たぶを噛んだ。
「やっ……!」
そのまま、まるで当然のように耳の中に舌先が入ってくる。
ゾクゾクっと背筋が震えた。
「……やっぱ耳が弱いんだね、伊佐美ちゃんは」
「……やっ……やめてよっ……」男は…“侵略者”の顔は、わたしの頭の真後ろにあって、またしても見えない。「な、なに……考えてんのよ。きょ、今日は……その……ダンナと一緒なんだからっ……」
「……うん、そうだね。そういえば昨日、ダンナさんとヤりまくったよね」
「……ええっ??」
わたしは慌てて振り向こうとした。
と、“侵略者”が頬をわたしの頬にくっつけて押し戻す。
男の肌はカサカサしていて、冷たかった。
「……何回ヤったんだっけ? 4回? 5回」
「な、なんでっ……なんでそんなこと知ってんのよっ?」あたしは言ってしまった。しまったと思った時には、もう遅かった「か、関係無いでしょ……あんたには……んっ!」
“侵略者”がまたわたしの耳に舌を入れてくる。
また鳥肌が立ち…腰の後あたりがぼんやり熱くなった。
「……で、昨日、ダンナさん、何回イカせてくれたの……?」
「……んっ、んっ……や、やめ……てよっ……」
わたしは必死になって耳たぶにまとわりついてくる舌の攻撃から逃れようと身をよじった。
しかし“侵略者”はわたしの腰をがっしりと押さえている
「き、今日は……今日は……ほんとに、大きな声、出すからねっ……ダンナも乗ってんのよ。同じ車両にっ……」
「……ふうん」そういいながら“侵略者”はわたしのスカートを前から捲り上げはじめた「……じゃあ、声出せばいいじゃん。ダンナさん、まだ気付いてないみたいだけど?」
スカートを捲り上げようとする男の手を必死で制しながら、公一の方を伺い見る。
……あのバカ! マヌケ!
公一は全然あらぬ方向を向いている。
一体今日、何のために一緒に通勤してると思ってるんだろう。
“侵略者”は悠々と前からわたしのスカートの中に手を差し入れると、ぴったりと閉じたわたしの太股の間に指をこじ入れ、そのまま……パンツの上からクリトリスのあたりをさらり、さらりとなで始めた。
「……やっ……んっ! ……や、やめ……てっ……やめて……ったらっ……!」
「伊佐美ちゃん、ちょっと声がヘンだよ……なんか掠れてるみたい……あ……ひょっとしたら……昨日、ダンナさんとやりまくって、声出しまくったから? ……聞きたいなあ、おれも。伊佐美ちゃんの遠慮なしの、ハデなあえぎ声……誰にも邪魔されないところで、思いっきり声聞かせてらいたいなあ……」
「あ、頭、おかしいんじゃ、ないのっ? ……んっ!!」
“侵略者”の指が小刻みに振動をはじめる。
わたしはもう息が乱れ始めていた。
と……わたしは、わたしの右斜め正面に立っている50代くらいの会社員のおっさんが、わたしの挙動をじっと見つめているのに気付いた。
わたしは必死でおっさんの目に救いを求めて、哀願するように視線を合わせる……しかしそのおっさんは、にやりと笑って、わたしの挙動を見ているだけだった。
……また、その左隣に窮屈そうに立っているオタクっぽい大学生(ふうの男)も……おっさんと同じように、わたしが“侵略者”から受ける辱めと、わたしの微妙な反応を、目で愉しんでいるようだった。
……そんな……こ、こんなこと……
わたしは慌てて公一の方を見た。
公一も呆然としたような、びっくりしたような顔で……明らかな興奮が見て取れる顔で……わたしの方をじっと見つめていた。
■
「ねえ、昨日ダンナさんが帰ってくるまでに……自分の手でもしたでしょ。だっておれ、昨日すごい中途半端なとこでやめちゃったからねえ……ごめんねえ……」
“侵略者”が耳元で、わざと熱い息を吹きかけるようにして囁く。
情けないけど、一言一言囁かれるたびに、わたしの身体からは力が抜けていくようだ。
息を吹き込まれているほうの耳たぶは破裂しそうなほど熱くなり、額に汗が滲む。
厭な汗だ。
しかしそれでも一言一言囁かれるたびに…………いやだ、だめだとわかっているけど、頭がぼんやりしてくる。
「お、お願い……や、やめてっ……」わたしは“侵略者”に言った「……き、今日は、やめてっ……」
「……なんで? ダンナさんが居るから?」
今度はわたしの首筋に軽くキスをする。
びくん、としゃっくりのように飛び上がる。
軽く、慎重なキスだった。
それだけなのに。
「ダンナさん……こっち見てるよ。ほら」
「んっ……」
言われるままに、公一の方を見た。
異様にぎらぎらした目で、公一はわたしを見ている。
……いや、わたしだけを見ているんじゃない。
公一は、わたしたちを見ていた。
その目に怒りはなかった。悔しさもなかった。
わたしを、今、目の前で辱めようとしているこの“侵略者”に対する憎しみもなかった。
その目から見受けられたのは、純粋な、少年のような好奇心だ。
多分、いま公一の胸は、初恋のときのようにときめいているに違いない。
“ときめいてる”なんて、このシチュエーションに最も相応しくない表現だと思う。
でも、やはり公一の目はそれを物語っている。
夕べあれほど激しくセックスした時も、公一はあんな風にわたしを見なかった。
結婚して以来、わたしはあんな目で公一に見られたことはない。
「案外こういうの、燃えるんじゃない? ……ダンナさんの前で恥ずかしいことされるのとかさ」
「は、はあ? そっ、そんな……ば、バカじゃなのっ? …………う、あっ!」
“侵略者”はまるで皮を剥くみたいにわたしのカーディガンをぺろんと肩から剥がし、肘のあたりまでずり下げた。
カーディガンがそこで引っかかり、わたしの両腕は後に回される。
目の前のおっさんと、おたく大学生が目を丸くする。
男はおっさんとおたく大学生の期待に応えるように、わたしのブラウスのボタンの一番上を外した。
「やっ! ……やめっ……」
あたしが首を振って暴れると、“侵略者”がわたしのうなじに、ちゅう、と音を立てて吸い付く。
「ほら、見られてるよ……周りのみんなに」
「んんんっ……! くっ……や、やめろ、よっ……!」
「……ほらほら、暴れちゃダメだよ。ダンナさんによく見えないじゃないか」
「いやっ!」
また一つ下のボタンを外された。
あっという間に3つめも。
公一を見る……馬鹿みたいに、ぽかんと口を開けて見ている。
あのバカ! 変態! てか助けろよ!!
「ほーれ……ご開帳」
そう言って“侵略者”は、わたしのブラウスの前を、目の前のおっさんと大学生と……そしてそれを凝視している公一に見せつけるように、広く開いた。
「やっ、やだっ! …………ちょ、ちょっとっ!」
どんなブラジャーをしてきていたのか忘れていたが、レースのついたやつだった。
眼の前の大学生のメガネに、白いブラがくっきりと写っている。
「ほら……見てるよ。ダンナさん。ガン見だよ」
「……やっ! ……ひっ」
ブラの肩紐に手が掛かる。
“侵略者”が何をしようとしているのかは明らかだった。
もうカーディガンが伸びても、周りに気付かれてもいいや。
これからとんでもなく恥ずかしい思いをするよりは……
と、とんでもないことが起こった。
“侵略者”の手を払おうとしたわたしの右手首を、目の前のおっさんが掴む。
「?!」
おっさんは鼻の頭に油っぽい汗をかいていた。
そしてわたしの手を引き寄せると……
「え……い、いやっ!」
なんとおっさんは、自分の背広のズボン前に、わたしの手を導いた。
おっさんのアレは、ズボンの中でものすごく固くなっている。
わたしは慌てて手を引き戻そうとしたけど、おっさんの手はわたしの手首をがっちりと握って離さない。
そしてわたしの手の甲を、なすりつけるようにして触れされた。
「ちょっと、やめっ……」わたしは自由な左手を使って手首を取り戻そうとした。「えっ??」
信じられないことに、その左手も掴まれる。
見上げると、おっさんの隣に立っていた大学生風のおたくっぽい奴が、おやじと同じように鼻の頭に汗をかいて、ニタニタ笑っていた。
「そ……そんな……あっ!」
おたく大学生はおっさんに倣うように、わたしの左手を自分のGパンの前に擦り付けた。
こっちもおっさんに負けず、かちかちになっている。
でも、どちらかというとおやじの方が……って、何を考えてるんだろうわたし。
そんなふうに、わたしの両手の自由は奪われてしまった。
「……あらら、なんだろうね、この人たち。まるでコバンザメだね」
“侵略者”が耳元で囁く。
「……ん……やっ…!……いやっ! ……こ、こんなのっ…………」
そう言いながら、“侵略者”はブラジャーのホックを悠々と外した。
そして、前に手を回して……そのままブラジャーをおっぱいの上まで引き上げる。
「おう……」とおっさん。
「はおう……」とおたく。
ふたりとも、ポカンと口を開けてあたしのおっぱいに息を飲んでいる。
どくん、と右手に、おやじのアレが脈打つのを感じる。
どくどくん、と左手にはおたくのアレが跳ねる。
「いやっ……!」
人前で、ってか電車のなかでこんなに恥ずかしい姿にされるなんて……
公一も見てるのに……
わたしの手をそれぞれの股間に擦りつけているおっさんとおたく大学生は、まるでその光景を独占するみたいにわたしにさらに近寄って、わたしのおっぱいが周りに晒されることを防いだ。
そんな気遣い、ぜんぜん有り難くない。
公一を見ると……
あのマヌケ! 変態っ! 背伸びしてこの光景を見ようとしている。
「ひっ……ちょっと……やめ……お、おねがい、だからっ……」
もう誰に言っているのかわからなかった。
おっさんとおたく大学生の手が伸びてきた。
二人とも、ものすごい激しさでおっぱいを掴んできた。
「……や、やっ! ……いやっ!!」
見下ろすと、二人の男の手でめちゃくちゃに弄ばれる自分のおっぱいが見える。
「や、やめてっ……やめろったら! ………い、いい加減にっ……ひゃっ!」
その間、“侵略者”はわたしのスカートをたくし上げて、腰の当たりで裾を折り返して纏めた。
パンツが丸出しになる。
ブラウスのボタンはさらに外されて……(もう誰が外したのかもわからなかった)おへその辺りまで開かれていた。
わたしを取り囲むように立っている3人の男たちのせいで、周りからは見えないのか、それとも同じようにそれを目で愉しんでいる奴らに取り囲まれているのかわからないけど、とにかくわたしを助ける者は誰も居ない。
離れたところに立っている公一の顔が、おっさんのはげ頭越しにちらちらと見える。
その目を見ていると公一の興奮っぷりが、ここからでもはっきりと伝わってきた。
男はスカートの前も捲り上げた。
おたく大学生がそれを助ける形で、わたしのおっぱいを揉む手を休めてスカートが落ちないように支える。
露骨に下を覗き込むおたく野郎。
となりのおっさんも、いまやわたしのおっぱいを独り占めにしながら、目を細めてわたしのパンツを見下ろした。
ええと……今日はどんなパンツ履いてたっけ?
白だっけ、ベージュだっけ?
ちゃんとした店で買ったましなやつ?
それともユニクロで買った安物?
なんだか、もうどうにでもなれ、と投げやりな気分になってる自分に気付いた。
“侵略者”の手が前に回ってきて………
まるで当然のようにパンツの上淵から中に入っくる。
わたしはもう抵抗もせず、その手が入るに任せてしまった。
「……ああら、伊佐美ちゃん、べっちょべちょだよ……昨日あんなにヤりまくったのに、まだ足んないの? それとも、電車のなかで3人相手なんて……新鮮だった? ……しかもダンナさんの眼の前で」
「ち、……ちがっ……」
“う”は声にならなかった。
指がいきなり、クリトリスに触れたので。
「……っあ!」
「一度に3人相手にしたことって……さすがにないでしょ? 伊佐美ちゃん」
「……やあっ……」
包皮が剥きあげられ、敏感な先端を指先で捏ねられた。
膝ががくん、と崩れ落ちそうになる。
……確かに、3人を相手にしたことはなかった……はずだ。
とにかくわたしが覚えている範囲では。
でも確か、2人を相手にしたことはあった。
学生時代にはまっていた、お酒のせいで。
誰と誰を相手にしたのかも、はっきり覚えていない。
その時は男二人に、まるで双子の赤ちゃんがお母さんの左右のおっぱいを吸うように、おっぱいを吸われた。
四つん這いの姿勢で片方の男のアレを舐めている間に、もう片方の男が後にしゃがみ込んで指を入れてきた。
しばらくそうしたあと、男達が交代して同じようなことをした。
そして胡座をかいた男の膝に座るみたいにして、わたしはその上に腰を落とした。
長くて、固かった。
目の前にもう片方の男のすごく熱くなったものを突き出されたので、言われなくてもわたしは自分からそれを口に含んだ。
しばらくそうしたあと、また四つん這いにされて、わたしが舌でさらに固くした別の男のあれを、後ろから入れられる。
それは固さはいまいちだったが、とても太かった。
今度は目の前にわたしの分泌した液でべとべとになっているあれが突き出される。
わたしはまた、言われないでもそれを舐めた。
自分の味がした……それから何度体位を変えただろう。
男達はなかなかイかなかった。
わたしは酔いもあって(と、思いたい)狂ったみたいに悶えて、昨日みたいに声が枯れるほど声を出した……。
そんなことを思い出しているうちに、わたしは自分で腰を動かしていた。
「伊佐美ちゃん……すごいじゃん」“侵略者”が言う。「……もう、ヤケになっちゃった?」
前を見上げる。
おっさんと、スカートを捲り上げているおたく学生がギラギラした目で、ひとりでに踊るわたしの腰を見ていた。
ほどなくして、“侵略者”がパンツの前から手を抜くと、おっさんとおたく学生の手が殺到するように、パンツの上淵から、脇から入ってきた。
「……うっ! ……あうっ!」
あまりにも前の二人の手は性急で乱暴だった。
でも、それほどの痛みは伴わない。
大事ななかの粘膜を傷つけないよう、わたしの身体は馬鹿正直に反応して、せっせと潤滑液を溢れさせていたから。
“侵略者”はうしろからつるり、とパンツを剥いて、わたしのお尻を剥き出しにした。
えっ、まさか……と思ったけど、そのとおりになった。
“侵略者”の指先がわたしのお尻をなぞるようにして滑り落ち、お尻の穴に触れた。
「いやっ! ……や、やめてっ……そ、そこは……いやっ……!」
わたしは言った。でもその声にぞっとする。
掠れて上擦っていて、とても本気でそう言っているようには聞こえない。
「こっちも……昔はけっこう、使ったでしょ?」
“侵略者”に言われる。
「い、いや……やだっ……」
それはさすがにない……覚えている範囲内では。
「……ウソばっかり……でも、ダンナさんはここ触ったことないよね? 伊佐美ちゃんが嫌がるから。ほんとうは、好きだから触らせないんでしょ? ……ここ触られると、自分でもどうなっちゃうか判んないから……ダンナさんには触らせないんでしょ?」
「……うっ……」男の指先が入り口に当てられる「お願い……い、いやっ……だ、だめっ……!」
「ほうら」
「んんっ……くっ……!」
少しずつ、“侵略者”の指が……公一よりずっと細い指が……
狭い入り口に押し入っていく。
前は好き放題におっさんとおたく学生に触りまくられていたが、それさえ忘れるほどに、わたしはお尻に神経を集中させていた。
ちらりと、公一を見た。
公一は顔を紅潮させていて、汗ばんだ額には前髪が一筋張り付いている。
すごく興奮してるのだろう。
心臓をどきどきさせて。
昨日あんなにヤりまくったのに、ズボンの中のあれはぎんぎんになっているに違いない。
そういえば、おっさんとおたく学生は、わたしの下半身を攻めるのに夢中になって、ズボン前に押しつけていたわたしの手首を戒めているのを忘れているようだった。
だけど、わたし押しつけられていた両手を、逃がすのを忘れていた。
それどころか、自分で彼らのズボン前をせっせと擦っていた。
はじめおっさんは固さでリードしていたけど、やはり今となってはおたく学生の方が、若さのせいもあって固い。
公一のよりも、ずっと。
二人の熱い鼻息がわたしの顔にかかる。
「くっ……ううっ……あ、あうっ………あ、あ、あああっ……」
“侵略者”の指がだぶん根元まで……わたしのお尻の穴に埋まった。
「……すっごいよ。伊佐美ちゃん。ぎゅうぎゅう締めてる……ダンナさん、バカだねえ……伊佐美ちゃんがこっちの方が好きなこと、知らないんだよ……きっと」
「…………や、……め、……てっ……」
わたしは目の前の固い方…おたく学生のシャツにしがみついていた。
顔を学生の胸に埋めてしまう。
厭な汗の匂いがした。
たぶん、満足に風呂にも入ってないのだろう。
でも、彼が物体としてそこに居てくれるだけでもよかった。
気圧されて、クリトリスをいじっていたおっさんの手がパンツから出てゆく。
代わりに、わたしのそんな様子にたいそう欲情したのか、おたく学生は右手をわたしのパンツの中に入れ、左手でわたしの右の乳房を千切れんばかりに揉み上げた。
すごすご退散していたおっさんも、負けじと窮屈な格好で手をわたしの左の乳房に手を伸ばし、おたく学生以上に激しくおっぱいを捏ねる。
そして“侵略者”はお尻の穴の中で、指をくにっと曲げた。
「……ぐっ…………う、う、うううっ!」
わたしはくぐもった声を上げてしまう。
すると“侵略者”の手がわたしの顔の前に回ってきて、顎をつかん顔を上げさせる。
顔を押しつけていたおたく学生のシャツに染みがついていた……わたしの涎だ。
「……あ、むっ……」
“侵略者”の指が、口の中に入ってきた。
唇から溢れた唾液をからめ取り、舌をいじる。
口の端から涎がこぼれた。
“侵略者”は、わたしの目の前で、公一にも見せつけるように、涎で糸をひく指を翳した。
その粘液越しに、公一を見る。
溢れ返っている下の粘液を見せつけられるよりも、辱められ、貶められているような気がした。
おたく学生が……多分、AVかなんかで観たのをマネしているんだろう……突き立てた中指で、ぺちゃぺちゃくちゃくちゃと激しい音を立てながら出し入れしている。
めちゃくちゃな突き方だった。
その動きには、思いやりのかけらもなかった。
そのようなことを現実でもしたがる男は、わたしの覚えている限りでもたくさんいた。
でもその動きに会わせて、わたしの肩が笑った。
お尻の穴はさらに強く“侵略者”の指を締め付ける。
口の中には指が2本、突っ込まれている。
もう一度公一を見た。
やはり……すごく亢奮しているのだろう。
耳まで真っ赤になっている。
バカだね、とわたしは思った。
……なんでわたしが、こんな目に遭ってるかわかる?
それは、あんたのせいじゃなくて、わたし自身のせいなんだよ。
あんたは関係ないの。
そう思った直後、わたしはイッた。
もう少しで“侵略者”の指を噛みきるところだった。
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