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【官能時代小説】手 籠 め 侍 【8/12】

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 慎之介のからだの隅々に打たれていた鍼は、すべて抜かれた。
 多少の痺れは残っていたが、おそらく躯は思うように動くようになっただろう。

 しかし、慎之介は油と、自らが放ったまみれたまま、ぐったりと布団に身を横たえたままだった。

 精とともに、命まで全てが尽き果ててしまったようだ。

「さて、慎之介どの……参るぞ。香蓮」

「はい……」

 香蓮が手を貸し、息づく慎之介の躯を裏返しにする。
 念甲がぐっ、と腰を掴み、を高く持ち上げた。

「ご、後生ですっ……お、お許しをっ……ど、どうかれだけはっ……」

 まるでけがされようとする生娘きむすめのように、涙混じりの声で慎之介は和尚に懇願する。

だじゃ。そなたはまだ、ゆるすということを悟っておらぬ……その香蓮のようにな」

 見上げれば、香の紫の煙がただよう中、半眼で慎之介を見下ろす香蓮の顔が見える。

何故なにゆえ……何故、こんなことを……香蓮どのっ……)

 どうやら香蓮からの救いは期待できないらしい。

「あっ………うっ!」

 尻の割れ目を這い降りてきた念甲の指が、菊座を捉える。

「仇討ちなど、お忘れになることじゃ……わしの姿を見るがよい。これがその末路よ」

 ぴたり、と太くまるいものが慎之介の菊座に押し当てられた。

「ご、後生……堪忍です……どうか、れだけはっ……」

 いつしか、あの宿屋の寝間で百十郎になぶられていた姉と、同じようなことを言っている。

 しかし、念甲の指によって丹念にほぐされた座は、慎之介の意に反し、やわらかくその円いものの先端に口づけする。

 あと少し力を入れられれば……たやすく忌まわしいきっさきを飲み込んでしまうだろう。

「もう何十年も前になる……返り討ちに遭ってもかたきと刀を交わせば本懐、と……若い頃、わしもそのように考えていた……仇に巡り合うまで、たくさんの人を殺した……非道なことにも数え切れないくらい手を染めた……しかし、敵は儂の予想以上にむごかった……」

「…………お、お許しをっ……ああっ、は、母上っ…………姉上っ! …………んんんんっ!」

 もちろん、尼寺にいる母や、百十郎を追っている柴乃が、慎之介を救いに来てくれるはずもない。

 ぬるり、ときっさきが押し入ってきた。

「んあっ…………!!!」

「おお…………いい具合じゃ…………さらに奥までまいるぞ」

「ひっ…………あ、ね、うっ……えっ……!」

 そっ、と慎之介の手を取る、柔らかく若いてのひらがあった。
 見上げれば……そこにあったのは、香蓮のはかなげな眼差しだ。

かたきはわしの両のまなこえぐり、このとおりめくらにした……お主も、そうなりたいか……?」

「……ああっ……そ、そんなっ……そんなまでっ……か、堪忍かんにんっ……ど、どうかっ……お慈悲をっ!」

 ゆっさ、ゆっさと念甲が動き出す。
 そのたびに、びくん、びくん、と油にまみれた慎之介の白く小さな尻が跳ねた。

「……仇討あだうちといえど、ただの人殺しよ……ひとごろしのひとでなしは、どんなむごいこともする……しかし、わしゆるせたぞ? ……殺し、殺され、また恨みが引き継がれ、血が流れ、人が死に、片端かたわものが一生を悔いて生きる……の果てのない繰り返しに、何のよろこびがあろうか……?」

 念校が、慎之介の腰を撫で回し……内腿に手を進めて、逸物いちもつを再びぎゅっ、と握り締める。

「はうっ!!」

「ほう……またく、熱くなっておるではないか……さすが若い、それに、なかなか筋がいいわい……ほれ、ほれ」

 菊座の入口は裂けそうなほど痛んだ。
 が、呑めり込んだ鋒が、先程、指でいじくられた玉袋の裏あたりを、しつこく穿ほじる。

 摂理せつりとして、慎之介の意とは関係なく、逸物いちもつ固くなるのは仕様しょうのないことであった。

「もう、もう無理ですっ……ど、どうか和尚、こ、これ以上はお許しをっ……!」

「おお、たまらぬ……容赦ようしゃを乞いたいのはこっちのほうじゃ……いやはや、そなたの尻は、その香蓮に引けを取らぬ……香連には穴が三つ、そなたは二つ……これから追々おいおいすべての穴の愉しみを仕込んでやるわ……」

 尻を穿えぐられ、逸物いちもつを扱かれ、息も絶え絶えの慎之介。

(げ、外道、この外道坊主っ! ……し、しかし……わたしは……わたしはもうっ……姉上っ)

 このようなはずかしめを受け……もう二度と、紫乃には顔向けできぬ……と慎之介は思った。

 いや……それにしても……?
 自分はほんとうに……復讐に心を狂わせているあの姉に、もう一度会いたいと思っているのか?

 ほんとうに、仇討ちなどに一生をける覚悟があるのか?

 出来ることなら、仇討ちからも……紫乃からも、逃れて生きていきたい……それが本心ではないのか?

 心の奥底ではずっとそう願い続けてきたのではないのか?
 この妖怪坊主もののけぼうずが言うように、果てしない仇討ちに何のよろこびがあるだろうか……?
 
 激しくを抉られながら、慎之介の心は頼りない灯火(ともしび)のように揺れつづけた。

 自分は何者なのか? 
 いったい、何がしたいのか?

「あっ……ああんっ……あっ……はあっ……うっ……いっ……あああああっ…………」

 気づけば、慎之介はのような声であえぎ、いてていた。

「これからは、仇討ちなどあきらめ、わしと、この香連と、そなたで……この寺で暮らそう。わしの修行は手厳しくはないぞ? ……そなたはただ、わしに身を任せておればよい……ほれ、ほれ、だんだんくなってきたのではないか? ……そなたの茎が、わしの手の中で、活きのいいうおのように踊っておるぞ……」

「……ああっ……和尚さまっ……和尚さま、も、もっとっ……もっとっ……らさずに突いてくだされっ!!!」

 慎之介の頭からではなく、躰からすべり出た言葉だった。

 自棄やけになった心が、そんな言葉になって口から溢れ出た。
 慎之介の心を繋いでいた糸が、ぷつりと切れたのだ。

 眼の奥では線香花火のように、まぶしい光が舞っている。
 香蓮の手を握り締めようとしたが、いつの間にか香蓮の姿は消えていた。

「ふふふ…………“もっと”とな? ……もっと欲しいか? ……そうじゃ、そうじゃ……かたきなんぞ忘れてしまえ……蜂屋百十郎も、そう申しておっただろう……わし彼奴きゃつとは、話が合ったわい……」

「んっ……んああああああああっ!!!」

 尻をえぐられ抜いて、念甲の手の中でまた慎之介の竿がぜた。
 内腿に飛び散る、大量の熱い精。

 しかし、溢れる精をさらに塗りたくるようにして、念甲がしごきあげてくる。
 もう、なにもかもどうでもよくなった……

 たとえ、念甲が蜂屋百十郎のことを知っていたとしても……

 いな

 それはない。
 それは聞き過ごしてはならぬ。
 
 一気に慎之介の目が覚めた。
 心も覚めた。からだも。
 
 ぐい、と腰を引いて飲み込んでいた念甲の魔羅まらからからだを逃がす。

 竿にまとわりついてくるなまぐさの手も振り払う。
 そして、全裸のまま……枕元の脇差わきざしをしっかと握り、抜いた。

「和尚……先刻さっき、誰の名を口にした……?」

 不逞ふてぶてしく、堕落だらしなく、布団の上に胡座あぐらを掻いたままの念甲の首筋に、その刃をぴたりと当てる。

 念甲は、微動だにしない。
 不敵な笑みを浮かべたままだ。

「……ああ、蜂屋百十郎と申した………その名を口にしたまでよ……」

「坊主……言え、お主と、百十郎との関わりを……」

 ふああ、と念甲が大欠伸(あくび)をし、耳の穴を穿る。

「ただの名前よ……お主が追うてきた、八代松右衛門、それと変わらぬ、ただの名前よ……」

「言わぬか……ならば」

 慎之介は刃を念甲の頬に添えると、す、と柄を引いた。
 しゃあ、と音を立て、鮮血が飛び散る。

 しかし、念甲は不敵な笑みを崩さない。

 そして自らの頬に手を沿え、指でぬめらせ、傷から血が流れているのを確かめている。

「おお……また、余計な血が流れたの……」

「言え! お主と百十郎のかかわりを! 言わねば斬る!」

 刀をかざす慎之介はまだ素裸で、掘り尽くされた尻の穴がじんじんと痛んだ。

 全身は油に塗れ、まだうずきが治まらぬ肉竿にくざおの先端からは、精のしずくが垂れている。

 どうにもにならぬことはわかっていたが、慎之介は再び脇差を構え直し、念甲の首筋に添えた。

 ふう、とため息をついて、物の怪坊主が語り始めた。

「……彼奴きゃつわしは、銅貨の裏表よ……百十郎は追われ続けることを望み、わしはこの寺にこもり、愉しみにふけりながら生きることを選んだ……所詮しょせんは同じ外道同士……」

「……何度も聞かせるな! お主と百十郎の関わりを言え!」
 

 念甲は瘡蓋かさぶたで覆われたまなこで……はっきりと見えているかのように、慎之介の顔を見据えた。

「いらぬようになった儂のの名前を、わし彼奴きゃつにくれてやったまでのこと……彼奴きゃつは、古い名前で追われるのがもういやになったのであろう……つまりは、飽きたのだな。新しい名前で、新たにかたきを作り、新たなかたきに追われ続ける……たぶん彼奴きゃつは、これまでに何度もそれを繰り返してきたのであろう……そして、これからも……またいずれ名前を変え、新たな敵を作り……」

「……それは、つまり……まさか……」

 瘡蓋かさぶたまなこが笑う。

左様さよう、仏門に入る前のわしの名前は、蜂屋百十郎……そして奴が捨てた名前は八代……」

 ざん、という音がした。

 は、と見れば、念甲の胸に、やいばが突き立っている。

 一瞬にして事切れたのか、念甲はそのままばったと音を立てて手折たおれた。

 刃が突きたったままなので、血飛沫ちしぶきはない。
 畳に広がる血溜まりも、ゆっくりと広がった。

 慎之介が恐る恐る振り返ると……廊下に続く障子の隙間に、香蓮が立っていた。

 刃がなく、やたら長い刀のつかを、その手に握りしめている。

「れ、香蓮どの…………?」

 刀のつばが慎之介に向けられていたが、つかの中身は空洞で、刃は無い。
 その代わりに、長い撥条ばねが飛び出し、揺れていた。

「慎之介さま……」

 震える香蓮のその声も、矢張やはり鈴の音のようだった。


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