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【インタビュー】西本願寺で働く人たち/vol.4

70年続く伝統「念仏奉仕団」を守り、伝える

お寺に参拝したことはあったとしても、まだまだ知らないお寺の中のこと。ここでは西本願寺で働く人たちに焦点を当て、お寺にあるさまざまな仕事や行事など、働く人の視点からお寺の姿を紐解いていきましょう。

今回お話を伺ったのは、参拝教化部の伊東 俊裕(としひろ)さん。全国のご門徒が参加される「念仏奉仕団」の担当として、清掃行事などを取り仕切る役割を担っています。ご門徒の方々と接する中で生まれる仕事のやりがいについてお聞きしました。

ーー僧侶になったきっかけを教えてください。

実家は山口県熊毛郡のお寺で、祖父も父も僧侶です。私は田舎で暮らすのもお寺を継ぐのも嫌だったので、高校を卒業したら東京に出たいと思っていました。もしかしたら、周囲から「どうせお寺継ぐんやろ」と思われていることや、友達とは違う家庭環境にコンプレックスを感じていたのかもしれません。

父には「早稲田に受かるなら東京に出てもいい」と言われたんですが、不合格で。京都なら出てもいいと言われたので、立命館大学に進学しました。その時も僧侶になる気はなかったんですが、夏休みに「車の免許を取りたいからお金を貸してほしい」と父に言うと「得度する(僧侶になる)んやったら、出してやってもええぞ」と言われまして。お坊さんがどうこうよりも、車に乗りたい気持ちが強すぎて「じゃあ行くわ」と(笑)。

免許のために得度したようなものなんですが、その後、祖父から父へ住職の代がわりを行う「継職法要(けいしょくほうよう)」があり、そのときに意識が変わったんですね。というのも、お寺のお世話をしてくださる総代さんの家から寺に向けて「稚児行列」を行ったんですが、沿道にご門徒さんが立って父や私に拍手をしたり、声をかけてくださるんですよ。

「あぁ、自分だけの身じゃないんだな」とそこでつくづく感じたというか。嫌な気持ちがなくなったわけじゃないんですけど、自分の中にすっと何か落とし込めたような感じがしたんです。そこからお寺の世界も悪くないのかなと思うようになりました。

それで大学を出てから「中央仏教学院」という僧侶の専門学校に2年間ほど通って、さらに「勤式指導所(ごんしきしどうしょ)」で勤行(ごんぎょう)や作法を学んでから西本願寺に入所しました。

ーー参拝教化部(さんぱいきょうかぶ)の仕事について教えてください。

主に参拝に来てくださった方の対応になります。例えば法要があった場合、受付やご案内などを行うのが参拝教化部の仕事です。私はその中でも「念仏奉仕団」の担当をさせていただいています。念仏奉仕団とは、全国のご門徒さんが参加される清掃活動になります。原則、1泊2日で西本願寺にお越しいただき、阿弥陀堂・御影堂・安穏殿・書院など境内の掃除をしていただきます。

ただの清掃活動ではなく、普段だと入れないお堂の裏側などをお掃除いただいたり、ご門主とお会いする機会もあり、特別な時間を過ごしていただけます。私はマイクを持って司会進行したり、境内をご案内するなど、参加者の方々が楽しく安全に過ごせるようにサポートする、いわば運営スタッフのような役割をしています。念仏奉仕団としての清掃は、毎月数回行われるのですが、年末に行われる「御煤払(おすすはらい)」はいつもと違って特別なものになります。

念仏奉仕団の清掃活動

1年の汚れを落とす「御煤払(おすすはらい)」

ーー御煤払はどのような行事なのでしょうか。

毎年12月20日に行われる行事で、阿弥陀堂や御影堂の中の仏具なども全て出して清掃を行います。参加者が横一列に並んで竹の棒で畳を叩いて進み、舞った埃を大きなうちわで扇ぎ出すんですが、その様子は圧巻ですよ。毎年500名ほど参加されますが、申し込みスタートと同時に満員になるほど人気行事なんです。

御煤払いの様子 <お西さん(西本願寺)公式X(旧Twitter)より>

参加回数ごとに表彰があるのでそれを楽しみに参加されている方もいらっしゃいます。中には毎年参加する方もいて、一番多い方で50回以上。半世紀にわたって参加してくださっているんです。皆さん、笑顔で楽しみながら掃除を行い、「今年もありがとう」「来てよかったわ」と声をかけてくださる。その姿が本当に尊くて。

ご懇志(お寺への寄付)を納めてお堂の掃除をして、しかも感謝の言葉を口にされる。ご門徒さんたちのそんな姿を見て、ぐっとこみあげるものがあります。念仏奉仕団は、お寺とご門徒さんの信頼関係が表れた、西本願寺の良いところをギュッと集めたような行事だなと感じていて。勝手ながら、最もやりがいのある仕事をさせてもらっていると思っております。

僧侶が感じる西本願寺の魅力

ーー西本願寺ならではの魅力を教えていただけますか。

私の中ではやはり、御影堂が一番魅力を感じる場所ですね。西本願寺に勤めて1年目のとき、初めて念仏奉仕団の皆さんを前に御影堂で司会をさせていただいたんですが、その時の光景が未だに忘れられません。

御影堂に参加者がずらりと並んでいらっしゃって、とても緊張したんですよ。学生時代からすると、まさか自分が僧侶になってこんな大勢の方の前でマイクを握って話をするなんて思ってもみないこと。とても感慨深かったですね。

御影堂

その魅力を体感するためにも、ぜひお晨朝(おじんじょう:朝のお勤め)にご参加いただきたいですね。お勤めが始まるのは朝の6時。冬はまだうす暗く、お堂の中は限られた灯りしかついていない。空気はとても冷たくて、身がピッと引き締まるんです。そんな中でお勤めをするのが何とも言えず心地よくて。

お勤めが終わる頃には朝日が差し込んできて、からだが少しずつ温かくなってきます。暖房も入っていないので自分のからだの変化にも気づきやすくなるんですよね。朝のお堂に漂う空気感は、唯一無二のものだと思います。

僧侶が推す!京都のおすすめスポット

ーー山口から京都に移り住んで、14年ほどになるとお聞きしました。伊東さんイチオシのスポットはありますか?

そうですね…私は、大徳寺の南にある船岡山が好きで、度々訪れます。船岡山は、平安京を造るときに基準になった場所と言われていて、登って見渡すと、都だった場所が一望できるんです。天気が良い日は大阪の枚方市辺りまで見ることができます。

景色もとても素敵なんですが、そこにいらっしゃる警備員さんがユニークな方で。さっき話した平安京のこととか、ここは高貴な人の火葬の地だったとか色々教えてくださるんです。私も話すのが好きだから、つい話し込んじゃって(笑)。そんな話を思い起こしながら、西の山から東山までぐるりと景色を見渡すと、京都の歴史を感じられて感慨深いですね。歴史好きな方にはぜひ訪れて頂きたいです。

※船岡山…京都市北区紫野にある標高112メートルの丘陵

船岡山から見える景色