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2017年J1第20節 川崎フロンターレ対FC東京 レビュー「自分たちはポジションを崩したのに、相手が崩れない」

2017年Jリーグ第20節、川崎フロンターレ対FC東京は1対1の引き分けでした。

FC東京の狙いは、川崎フロンターレに中央のエリアを攻撃させ、ボールを奪って素早く相手ゴール前までボールを運ぶことでした。FC東京は守備の時は5-3-2というフォーメーションで守っていました。

FWのピーター・ウタカと中島はボールを追いかけ回すような守備はしませんが、川崎フロンターレのセンターバックからサイドMFへのパスコースだけは消す場所に立ちます。MFが3人しかいないので、小林と登里にMFが守りきれないタッチラインとの間に生じるスペースでボールを受けられ、ボールを運ばれるのがFC東京にとっては厄介でしたので、徹底して人と人の間にパスが出されないように守備をしていました。

MFの3人は右から橋本、高萩、米本と並びます。橋本と米本はボールを奪うのが得意な選手ですし、上下左右に守備のために動く事を苦にしません。それでも、タッチラインとの間のスペースや、サイドバックにパスが出た時に、90分間常に対応するのは簡単ではありません。

したがって、FC東京はエウシーニョや車屋がボールをもったら、右サイドは室屋、左サイドは太田が前に出てきてマーク。普段はDFは5人いますが、思い切って1人出てきてもDFは4人いますので、守る人数が不足しているという事はありません。中央のDFも右の徳永、左の丸山はサイドバックも出来る選手なので、サイドに動いた後のプレーもスムーズでした。

FC東京は川崎フロンターレが中央のエリアを狙って攻撃してきたら、徳永、吉本、丸山のいずれかが思い切って前に出て、パスカットを狙います。パスカット出来なくても、残っている2人が空いたスペースを埋め、サイドの室屋と太田が下がって、DFの枚数は最低4人をキープします。川崎フロンターレがボールを持っても、高萩が挟み込むようにして寄せ、自由にプレーする時間を与えません。FC東京としては、川崎フロンターレに中央縦方向のパスをカットできれば、川崎フロンターレは攻撃に出ようとして前方に多くの人数が残っているので、守備は手薄です。手薄な守備の隙を伺って、素早く相手陣内にボールを運び、ゴールを奪う。そんなゲームプランだったと思います。

ジュビロ磐田と同じゲームプランだったFC東京

FC東京が採用したゲームプランは、前節のジュビロ磐田のゲームプランとほぼ同じでした。DF5人並んで、室屋と太田がサイドのパスに対して前に出て対応する動き、中央のパスカットを狙って思い切って中央のDFが前に出てくる動きも同じです。違いは高萩が中央のエリアを動かず、場所を埋める役割を担っているということと、MF3人で守るので橋本と米本というボールを奪うのが上手い選手を配置することで、フィールドの横幅をカバーしようとしている事くらいでした。川崎フロンターレに中央を攻撃させて、ボールを奪って素早く攻める。このゲームプランに違いはありませんでした。

狙われていたエドゥアルド・ネット

川崎フロンターレは、「止める」「外す」「運ぶ」「受ける」といった技術を突き詰め、敵がいても相手の逆をとったり、相手が届かない場所でボールを受ける事で、多くの人数が守っている中央のエリアを攻略してきました。選手たちも中央のエリアを攻略する自信があるので、多少無理にでも中央から攻撃しようとします。特にエドゥアルド・ネットは強いパスを中央のエリアにぶつけるのが得意な選手です。多少無理をしても中央にパスを通す技術もあります。

最近の川崎フロンターレの試合において、エドゥアルド・ネットの中央へのパスを選択しがちな癖を、相手チームは利用しようとしているように感じます。エドゥアルド・ネットがボールを持った時、サイドへのパスコースを消し、中央へのパスを誘導する。タイミングを見計らって思い切ってパスカットに出てボールを奪う。ジュビロ磐田の名波監督は「川崎フロンターレには弱点がある」と語っていましたが、僕はチームのスタイルとスタイルを体現する選手の癖を、名波監督は見抜いていたのではないかと思いました。FC東京はジュビロ磐田戦を踏まえて、自分のチームに応用したというわけです。

前節の5失点がプレーを慎重にさせた

ただ、FC東京の守備はジュビロ磐田ほど洗練されてはいなかったので、チャンスはありました。回数は少ないですが、エウシーニョや車屋がパスを受けた後に、素早く中央の大島や中村にパスを出すと、相手ゴール方向を向いてプレーすることは出来ました。ただ、中村や大島がボールを持っても、前方でボールを受けようと動く選手がいません。阿部は中央の3人のDFに監視され、登里は受けるスペースが見つけられません。小林は得点を挙げるためにDFの背後を狙う動きばかりが多く、背後を狙う動きをすると見せかけて下がってきてボールを受けるといった、動きの使い分けが上手く出来ません。悪い時の小林のプレーが出てしまいました。

また、阿部や登里がボールを受けても、他の選手が連動してボールを受ける動きをしていないので、プレーが連続しません。ボールを受けて、止めて、次のプレーを考えて、選択して、実行する。これらのプレーが普段は句点を挟まずにスムーズに行われるとしたら、この試合は句点を常に打つようなプレーが続きました。前半はFC東京の守備が機能していなかったので、得点出来るチャンスがありました。そこでパワーを使って得点を奪っていれば、優位に試合をコントロール出来たはずです。

しかし、前節5失点している川崎フロンターレは、ゴール方向に向ってアクションを起こす事が出来ません。前節と同じように守る相手に対して、前節の苦い記憶がよぎらなかったわけではないと思います。普段より慎重になった結果、ボールを受けようと相手ゴールから遠い位置に下がってしまいます。特に中村は高萩の近くでパスを受けてほしいのに、慎重にゲームを進めようとするあまり、サイドでパスを受ける機会が増えてしまいました。

失点しても状況はあまり変わりません。むしろ、FC東京は時間と共に守備が整い始め、室屋と太田が攻撃時に相手ゴールに近い位置まで移動出来るようになりました。右サイドのエウシーニョと小林は相手選手への守備が甘く、何度も太田をフリーにしてしまいます。失点はエウシーニョが不用意にポジションに戻らずにボールを追いかけてしまい、サイドのスペースを空けたため小林が戻ったのですが、小林が素早く寄せるべき場面で中途半端に立っているだけの守備をしてしまい、太田に正確なパスを出されて失点。チームとして「どう攻撃するのか」「どう守るのか」がはっきりせず、チームとしての迷いが感じられた場面でした。

「考え過ぎ」な川崎フロンターレを変えた森谷

失点後、鬼木監督は1点を奪うために次々と手を打ちます。まず、阿部と小林のポジションを変更します。この変更の狙いは、守備だと思います。小林の守備が軽く、太田に先手を取られていたので、守備の上手い阿部を右サイドに起用することで、手当てをしたかったのだと思います。

守備が安定してからは、攻撃の手を打ちます。ボールを受けた後のアクションが少なく、ボールを受ける位置も低かった中村に代わって森谷を交代出場させます。森谷が「出して、受ける」を繰り返し、ボールを受けた後に相手ゴールに向って動くことで、ようやくパス交換のテンポが上がりました。バスケットボールでは「リングに向って動く」というのが、基本中の基本の動きとして叩き込まれるのだそうです。森谷の動きはサッカーでも基本的な動きなのですが、前半の川崎フロンターレはそんな基本的な動きがまるで出来ていませんでした。頭で考え過ぎていたのです。

後半はエドゥアルド・ネットに対して橋本がマークにつくことで、中央方向へのパスをより多くさせようと仕向けてきました。前半はエドゥアルド・ネットの縦方向のパスに対して受け手が阿部しかいませんでしたが、森谷が入ったことで、受け手が増えました。小林がDFの背後を狙う動きを繰り返したことで、相手の守備位置が下がっていった事も、森谷が受ける場所が出来た要因です。

そして、相手を押し込み、太田と室屋の位置が下がってきたことを確認した上で、森本と長谷川を交代出場させます。背後を狙う選手をもう1人増やし、相手の守備位置を下げさせ、ペナルティーエリア前付近でパスを受けるスペースを増やす。そして、疲れが出ていた室屋の背後を長谷川に狙わせる事で、相手の守備を崩そうという狙いが読み取れました。長谷川の右足のシュートから得たコーナーキックから、谷口のヘディングで挙げた得点は狙い通りだったと思います。この試合の谷口は素晴らしいプレーを披露してくれました。そろそろ日本代表に選ばれてもおかしくないと思います。

自分たちが崩れたのに、相手が崩れない

1-1の引き分けでしたが、勝つチャンスはあったと思います。ただ、今の川崎フロンターレは相手が待ち構えている守備に対して、自ら仕掛けて崩せるだけの技術面での優位性を披露できずにいます。肝心なところでボールが止まらなかったり、相手を外しきれていなかったり、相手の動きを見て判断を変える事が上手く出来ていません。この試合もシュートチャンスは多いように見えましたが、「これは入った」と思うようなシュートチャンスは、それほど多かったわけではありません。阿部のシュートもパスが少しだけ後ろに入ったので、当てるのが難しいシュートでした。小林と登里の連続シュートも、DFがきちんとゴール方向に向って立っていました。

連勝中は川崎フロンターレの選手に対して距離を詰めてボールを奪いにきていたのを逆手にとって、ポジションをずらしたり、動きで相手の逆をとることで、相手の守備を崩していました。ただ、ジュビロ磐田、FC東京と川崎フロンターレが動くのを逆手に取って、自分たちはポジションを崩さず、相手が攻めてくるのを待ち構え、ボールを奪ったら相手が崩しているポジションの隙をついて攻撃する。そんなチームが増えてくると思います。それは、川崎フロンターレが警戒されていることの証です。優勝を狙うチームに対しては、どのチームも同じように対策を施してきます。こうした相手の対策を乗り越えなければ、タイトルを勝ち取る事は出来ません。

攻めてくるのを待ち構えている相手には、ドリブルでボールを運ぶ選手にとってはチャンスです。特に長谷川は鬼木監督からも期待され、継続してチャンスを得ています。ベンチから外れる事が多くなったハイネルと比較しても、ドリブルが得意な選手とのポジション争いでは一歩リードしているといえます。そして、家長も期待している選手です。

次節はアルビレックス新潟戦。中3日で臨むアウェーゲームは簡単ではありません。コンディションの調整だけで精一杯のはずです。中3日という短い期間で、チームはどのように軌道修正しようとするのか。順調に勝ち点を積み重ねていたチームに訪れた、怪我や疲労以外でもしかしたら2017年シーズン最初のピンチかもしれません。どうするのか注目したいともいます。

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