見出し画像

2017年J2第14節 名古屋グランパス対町田ゼルビア レビュー「何かを変えるのではなく、やるべき事を整理する」

2017年J2第14節、名古屋グランパス対町田ゼルビアは、2-1で名古屋グランパスが勝ちました。

僕はこの試合のプレビューで、町田ゼルビアの事を「攻撃もするけど、攻められるチームでもある」「攻められるけど、シュートは打たれない」チームだと書きました。攻撃回数はリーグ1位だけれど、ボールを失う回数も多いチームで、パス本数が少なく、ボール支配率も低く、30m侵入回数も少ないので、ボールを運ぶプレーは上手くない。ボールを失う回数が多いので、被攻撃回数はリーグ22位だけれど、相手のシュート数は少ない。言い換えると、「ボールを奪って、奪われる」を繰り返しているチームなのです。

ボールを奪って、奪われる理由

町田ゼルビアが「ボールを奪って、奪われる」チームなのは、極端に選手間の距離を狭くしてプレーしているからです。町田ゼルビアは、フィールドの横幅の1/3に11人が入っている程、選手間の距離を短くして戦います。選手間の距離を狭くすることによって、相手選手に素早く距離を詰めてボールを奪う事が出来ます。また、ボールを奪ったら、味方が近くにいるので、短い距離のパスを正確につなげれば、ボールを相手ゴール方向に運びやすくなります。

ただ、町田ゼルビアは、ボールを奪った後に相手ゴール方向にボールを運ぶプレーが上手くありません。そこで、町田ゼルビアはDFがボールを持ったら、ラグビーのキックのようにタッチラインに向って蹴り、陣地を稼ぎ、相手のスローインで再開したボールを奪って攻撃することで、ボールを運ぶプレーが上手くないという問題を解決しようとしています。このボールの運び方は、ブンデスリーガのレヴァークーゼンで2017年3月まで監督を務めていた、ロジャー。シュミット監督が好んで採用していた戦い方です。

この戦い方はメリットもありますが、デメリットもあります。デメリットは、選手の距離が短いため、選手が密集しているエリアとは反対のエリアには、大きなスペースが空いているということです。また、守備の時にボールに対して素早く距離を詰めるのはよいのですが、ボールに意識が集中しているため、選手が出す矢印がボールに集中しやすく、背後にパスが出た時に対応が遅れる事があるからです。名古屋グランパスには、相手の戦い方を踏まえた上で、空いているスペースをいかに活用するか、そして相手の矢印をいかに外すか、この2点が求められました。

ボールの運び方を工夫する

名古屋グランパスは、前節採用した3-4-3のフォーメーションではなく、4-4-2のフォーメーションを採用しました。DFは右から、宮原、磯村、櫛引、内田。MFは右から玉田、ワシントン、田口、和泉。FWは杉森、シモビッチです。この試合の名古屋グランパスは、ボールの運び方をこれまでの試合とは少し変えていました。普段だとDFがボールを持つと、短い距離のパスを交換しながら、ボールを運んでいきます。ただ、精度が低いので、短い距離のパスを相手に奪われてしまい、相手の攻撃を受ける場面も目立ちました。

しかし、この試合は違いました。DFがボールを持つと、まずFWの2人を見て、素早く縦方向のパスを出します。シモビッチと杉森が受けることで、DFに集中した町田ゼルビアの選手の矢印を外す事に成功します。相手の矢印を一度外せれば、あとは相手の逆を取り続けて、相手がいない場所にボールを運んでいくだけです。特に玉田にマークが集中していたので、逆サイドの和泉がフリーでボールを受ける事が出来ていました。和泉は運ぶドリブルが得意なので、和泉のドリブルを活用して、上手くボールを相手陣内まで運ぶ事が出来ていました。

ボールの受け方を工夫しているシモビッチ

この試合は、シモビッチと杉森のボールを受けるプレーの質がとても高かったです。シモビッチという選手は、実は活かし方が難しい選手です。199cmの身長ですが、ジャンプが高い選手ではないので、ヘディングで必ず競り勝てる選手ではありません。また、身体は大きいですが、相手を身体の強さで抑えてボールを受けるタイプでもありません。したがって、「出して、受ける」プレーを連続させる事で、相手の守備を崩そうとする名古屋グランパスの戦い方にあわないのではないか。そう考えていた人もいると思います。

しかし、シモビッチは元々ボールを扱う技術の高い選手です。キックが上手く、ヘディングもあまり高く飛びませんが、正確にゴールに飛ばす技術があります。足でボールを扱う技術も高いので、ボールの受け方、相手の守備の外し方を工夫することで、少しずつボールが受けられるようになりました。シモビッチの工夫は、相手のDFを背中で背負うのではなく、半身で背負うようにしたことです。相手を身体で押させるのではなく、自分の身長と足の長さを活かして、相手が届かない位置でボールを受けることで、ボールを奪われなくなりました。

チームメイトもシモビッチの特徴を理解し、相手のDFが届かない場所にパスをしたり、ロングパスも頭ではなく胸の辺りにパスをすることで、シモビッチの特徴であるボールを扱う技術を活かせるように工夫しています。シモビッチは直近5試合で4得点。もちろん、相手を外す動きもしていますが、シモビッチの場合はボールを受けるプレーが改善されたことが、ゴール数の増加につながっていると思います。

杉森は次の試合が大切

そして、この試合は杉森も素晴らしいプレーを披露してくれました。前半45分で代えられた試合が2試合、前半28分で代えられた試合もありましたが、ようやく期待に応えてくれました。杉森のプレーには問題が2点ありました。1点目は、動きを止めてしまう事とボールを保持した後のプレーの判断が遅い事でした。ボールを受ける時に、動きを止めてボールを受けようとしてしまうため、ボールを受けた時には守備者に距離を詰められ、ボールを奪われてしまう事がありました。

また、自分が受けたい場所でボールが受けられなかった場合、次に受けられる場所に動き直さなければなりませんが、杉森は動き直しが遅く、次の動きを開始するのに時間がかかる事がありました。杉森が動かないため、味方も動けないため、ボールを動かすポイントが見つからず、ボールを失う。これまでの試合で、そんな場面がありました。

そして、2点目はボールを受けた後に次のプレーを実行するのが遅いので、相手の守備者に捕まってしまうことです。ボールを受けてから次のプレーを考えているようにみえるくらい、次のプレーを選択するのが遅いことがありました。風間監督は杉森の問題を理解していたので、相手を180度でしかみなくてよいサイドでプレーさせながら、杉森のプレーの質が向上するまで待ちました。正直、サイドでのプレーが良かったわけではありませんが、第11節の京都サンガFC戦でFWでプレーした時のプレーが悪くなかったので、次に出場したら良いプレーをしてくれるんじゃないか。そんな期待をしていました。

杉森の特徴は、ボールを運ぶプレーです。スピードに乗るのが早く、相手の守備が距離を詰めてくる前に、ボールを相手ゴール方向に運ぶ事が出来ます。杉森のプレーを見ていると、現在レッドブル・ザルツブルクでプレーする南野拓実を思い出します。ボールを素早く相手ゴール方向に運べ、左右両足でボールを蹴れるところ、特にボールの運び方が似ています。

あとは、もっとシュート数を増やすことです。このプレーが続けられれば、出場機会も増えるし、自然と得点も増えてくると思います。ただ、まだよいプレーをしたのは1試合だけ。次の試合でよいプレーが出来なければ、元の評価に逆戻りです。次の試合でどんなプレーをするか、楽しみにしたいと思います。

何かを変えるのではなく、やるべき事を整理する

この試合に臨むにあたって、中3日しかありませんでした。どんな準備をしたのかと思ったのですが、試合を観ていると、風間監督は各選手の役割をある程度整理して試合に臨ませたように感じました。特に役割が整理されていたのは、田口とワシントンの位置取りでした。攻撃時に田口がより相手ゴール方向に向ってプレーし、ワシントンはDFをサポートするように動いていました。2人が中央のMFで起用されると、2人とも同じように動いてしまうことがあったのですが、この試合は2人の役割分担をハッキリさせた事で、2人ともよいプレーが出来ていました。

また、玉田が左サイドに移動したり、宮原が中央のMFの位置でボールを受けたりといった、選手が守るべきポジションを極端に外してプレーする機会が減りました。これは、監督から指示があったのだと思います。中3日と時間がなかったので、新しい事にトライするというよりは、役割を明確にし、整理することで、選手が迷わずにプレー出来た。これが勝因だと思います。

ただ、まだ1試合勝っただけです。次に戦う愛媛FCは町田ゼルビアより素早くボールを奪おうとしてくるチームです。そんなチームに対して、一つ壁を乗り越えつつあるチームがどんなプレーをするのか。楽しみにしたいと思います。

サポートと激励や感想メッセージありがとうございます! サポートで得た収入は、書籍の購入や他の人へのサポート、次回の旅の費用に使わせて頂きます!