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2017年J1第32節 川崎フロンターレ対ガンバ大阪 レビュー「アクションを止めてはならない」

2017年Jリーグ第32節、川崎フロンターレ対ガンバ大阪は、1-0で川崎フロンターレが勝ちました。

僕がこの試合を観ていて気になったのは、ガンバ大阪の選手が「ボールを受けることを恐れている」ように見えた事です。

ボールを持っている選手の近くにいる選手が、ボールを受けるために、相手から離れたり、相手の背後に走るようなアクションを全く起こしません。ボールを受けられる位置にいるにもかかわらず、ボールを持っている選手の動きをただ見ているだけという場面が何度もありました。ボールを受けようと動いていたのは、遠藤と倉田だけした。

例えば、遠藤が横方向にパスを出した後、再度パスを受けようと動き直したにもかかわらず、パスが遠藤に戻らず、ガンバ大阪の選手が縦方向にパスをしてしまい、簡単に川崎フロンターレにボールを渡す場面が何度もあったことです。遠藤は自分がより優位な場所でパスを受けるために横方向にパスを出したにもかかわらず、ガンバ大阪の他の選手は遠藤の意図を理解していないようなプレーをしていました。

ガンバ大阪の選手たちが、ボールを奪ったら、素早く相手陣内にボールを運び、相手の守備が整わないうちにシュートチャンスを作りたいという意図を持ってプレーしていたのは、理解出来ました。ただ、むやみに縦方向にパスを出して、相手にボールを渡しては意味がありません。ましてや、川崎フロンターレのようにボールを保持するのが上手いチームにとって、簡単に相手にボールを渡すことは、自分たちを不利な立場に追い込む事を意味します。

本来なら、遠藤や倉田だけでなく、井手口にも同じような動きが求められるのですが、全く出来ていませんでした。井手口に求められていたのは、素早くボールを受け、川崎フロンターレの選手がボールを奪いに来てもボールを保持し、味方が動き直す時間を作り、相手陣内にボールを運んでいくプレーです。しかし、この試合では攻撃では何も出来ませんでした。

井手口は素晴らしい選手ですが、欠点も明確な選手です。

井手口の欠点は「アクションが単発で、連続しない事」

井手口のボールを奪おうとする時のアクションは素早く、タイミングも的確です。しかし、井手口の欠点は、アクションが単発で、連続しない事です。アクションを起こして、ボールを奪えなかったら素早く元の場所に戻って、再度アクションを起こす。地味だけど、この繰り返しが、相手にボールを運ばせない守備を実現させるのですが、井手口はボールを奪うアクションを起こした後、一度止まってしまうのです。

ボールを奪うアクションは早く、一度動き出したら、素早く、長時間動けるので、アクションの量が多く、よく動いているように見えます。見栄えはいいのですが、実際は止まっている時間も長い選手です。井手口が止まっている間に川崎フロンターレの選手が動き直し、背後や間でボールを受けるという動きを繰り返すので、井手口は次第にボールを奪うタイミングを失っていきました。

今のガンバ大阪は「自分の近くにボールがないと止まってしまう」選手が多い

この試合のガンバ大阪の選手を見ていると、井手口のように「自分の近くにボールがないと止まってしまう」選手が多いように感じました。

川崎フロンターレは後半に入ってから、左サイドから攻撃を仕掛けます。川崎フロンターレが左サイドからボールを運べた要因は、ガンバ大阪の右サイドを担当している、DFの初瀬、MFの米倉、そして2人をサポートする立場の三浦、井手口といった選手が、「自分の近くにボールがないと止まってしまう」ため、川崎フロンターレの素早いパス交換に動きを止められ、何度も選手間にパスを通されてしまったからです。

井手口と遠藤のプレーを比較すると、井手口の方がよく動いているように見えるし、井手口の方が素早く動いているように見えます。しかし、遠藤は井手口のように動きを止める事がほとんどありません。常に一定のスピードで動き続けるので、相手にとって攻撃しやすい場所を与える事がありません。

もちろん遠藤もアクション自体のスピードが遅くなっているので、川崎フロンターレのパス交換に振り切られる場面は何度もありました。しかし、遠藤はボールが奪えなくても、動きを止めずに次のアクションを起こし続けるので、遠藤の守っているエリアの方が、相手にとっては守りづらくなっているのです。ガンバ大阪の藤春、倉田、遠藤といった選手が守っているエリアは、なかなか川崎フロンターレとしても崩すのは簡単ではありませんでした。

初瀬、井手口、三浦といった選手は、ボールが近くにある時のプレーは素晴らしいです。しかし、次に何が起こるのかという予測がまだまだ甘く、アクションを起こして自分の思い通りにならないと、動きを止めてしまう事があります。自分たちより力が下のチームなら目立たない欠点かもしれませんが、川崎フロンターレのようなチームでは致命的です。

エウシーニョの得点につながったコーナーキックになった場面では、家長の左サイドのパスを、三浦がヘディングでクリア出来なかった事が要因でしたが、家長の近くにいた井手口が1mでも近くに距離をつめていたら、家長はパスを出せなかったはずです。また、コーナーキックの場面でエウシーニョのマークを外してしまったのは、井手口でした。

ボールを持っていない時に動き続ける事は簡単ではありません。ちょっとでも頭の中で「次どうする?」という事が頭によぎったら、動きは止まってしまいます。この試合に出場しているガンバ大阪の選手は、まだまだ考え続け、次のプレーを想定して動き続ける事が出来ていない。そこが川崎フロンターレとの差だと思います。

ガンバ大阪に対して少しきついことを書いていますが、シュート数川崎フロンターレの25本に対して、ガンバ大阪が1本。こんな負け方をするチームではありません。正直、僕は昨日のガンバ大阪のプレーは残念でした。チームが目標を見失っているのは、試合後のガンバ大阪の選手たちの顔が穏やかだったことからも読み取れましたが、ガンバ大阪はこんなチームじゃないはずです。2018年シーズンには、強いガンバ大阪が戻ってくることを、期待して待ちたいと思います。

アクションをプレーの度に止めるような選手は、ベンチにも入れない川崎フロンターレ

川崎フロンターレの考え続け、動き続けるプレーを続ける象徴が、阿部です。この試合は、家長や大島のプレーが素晴らしかったので、本来ならこの2人を取り上げるべきかもしれませんが、敢えて阿部の事を取り上げます。

阿部の凄さは、プレビューにも書きましたが、同じチームでプレーしないと分からないのかもしれません。ボールを扱う技術も素晴らしいですが、何より凄いのは、「いつ」「どこで」「何を」「どのように」というプレーの選択に、ミスがないことです。プレーを観ていると、攻撃だけ選択し続けられる、守備だけ選択し続けられる選手はいます。阿部が凄いのは、守備でも、攻撃でも、プレーの選択にミスがなく、動きを止めない事です。

この試合でも、阿部のボールを持っていない時の動きは素晴らしかったです。特に素晴らしかったのは、DFの背後を何度も何度も狙う動きです。パスが出てこなくても、何度も動く事で、ガンバ大阪のDFは阿部の動きを警戒し、時間が経つにつれて下がってしまいました。厳しいことをいうなら、阿部が仕掛ける前にガンバ大阪のDFが動けていれば、阿部のアクションも止められたかもしれません。しかし、今のガンバ大阪のDFは、アクションを止めてしまう時間が長く、相手のアクションに対して追いかけるように動く時間と回数がどうしても多くなってしまいます。阿部のアクションは得点にはなりませんでしたが、ガンバ大阪の守備を崩す要因になっていました。

今の川崎フロンターレは、アクションをプレーの度に止めるような選手は、ベンチにも入れなくなっています。アクションし続ける事は当たり前で、アクションの質が問われるチームになっています。開幕当初はアクションの量も少なかった家長も、今ではアクションし続ける事が当たり前のように出来る選手になっています。

アクションし続けるには、どうしたらよいか。それは、選手が自信をもつことです。ボールを持ちたい、奪われたくない、相手が持っているなら奪い返したい。自分は出来る。だから、俺にプレーをさせろ。そう考えていなければ、アクションは起こせません。

川崎フロンターレとしては、ルヴァンカップの決勝の後にこれだけアクションが多いプレーを選手が披露し、しっかりと勝ちきったのは、良いことだと思います。ルヴァンカップは、何よりアクションの数が少なく、誰も相手の守備を崩そうとしない事をもどかしく見ていたのですが、この試合では選手全員が相手の守備を崩そうと、アクションを起こし続けました。なかなか得点は奪えませんでしたが、安心してみていられました。

残り2試合で勝ち続けるしかない状況で僕が川崎フロンターレに期待しているのは、「アクションを止めない」事です。アクションを起こさなければ、良い事は起こりません。何かを起こしたければ、アクションし続けるしかありません。アクションを止めた瞬間から、何事もズルズルと後退していきます。

足を止めずに、アクションを起こし続ける事の大切さを改めて実感した試合でした。次の試合も楽しみです。

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