DAZNの価格改定の狙いを読み解く「勝ち負けだけじゃないスポーツの楽しみ方」vol.8

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DAZNの戦略を読み解く

今週はDAZNの月額料金改定のニュースを取り上げます。月額1,925円から3,000円への値上げは大きな反響を巻き起こし、特に独占して放送されているJリーグサポーターの間で大きく話題となりました。

DAZNの値上げについては、noteの徳力さんが詳しく解説しているのでこちらをご覧ください。

徳力さんも書いてますが、今回のDAZNが値上げに踏み切った要因は「お金を支払ってDAZNを継続して閲覧してくれるユーザーはほぼ獲得しきった」ということが大きな要因だと思います。

マーケターの西口一希さんが著書「たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング」で顧客を頻度・金額の軸と次回購買意向の軸で9つに分類した「9segs」という顧客分類の方法を説明しているのですが、この分類を元にDAZNの価格改定を分析すると、DAZNの戦略をより深く読み解くことができます。

西口一希著「たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング」より

また、マーケティングを勉強していると「F2転換率」という言葉をよく聞きます。Fは「frequency」の略語で頻度を示します。F0は無料お試しキャンペーン、F1は自分のお金で初めて商品を買った場合、F2は2回続けて商品を買ってくれた顧客のことで、このF2転換率を高めると継続して収益が上がるという考え方です。

SAJ2019でもJリーグは3回来場してくれると常連化しやすいというデータが示されています。1回目をF0の顧客と仮定すると、3回目の来場はF2と置き換えることも出来まして、Jリーグの現場でもF2転換率を高めることが集客にとって大切だということが示されています。そのため、2019年頃からリピーター向けのキャンペーンや特典が各チームで増えているのです。

この「9segs」と「F2転換率」を元にDAZNの値上げを分析すると、今回DAZNが価格改定に踏み切った要因は「積極ロイヤル顧客」「積極一般顧客」といった顧客層をある程度きちんと獲得できたので、金額を改定することで売上ではなく、顧客あたりの利益を確保していこうという狙いがあるのではないかということが読み取れます。

また、「認知・未購買顧客」や「未認知・未購買顧客」と思われる人たちのF2転換も現在の施策の範囲では「やりきった」のだと思います。新規入会の加入率が大きく増えず、離脱率も低い。たぶんデータからこんな顧客動向になったことを受けて、継続会員向けの値上げに踏み切ったのだと思います。

情報の発信の仕方はもう少し上手くやれたのではないかとは思いますが、DAZNの価格改定のタイミングは理にかなっています。最大の顧客であるJリーグサポーターであることも、Jリーグ開幕前に価格改定に踏み切ったことからも読み取れます。年間契約を促すことで、ある程度固定の収益を担保してくれる「ロイヤル顧客」と、「消極離反顧客」に該当する顧客がどのくらいだったのか、見極めている段階だと思います。ここを乗り切ると、3,000円でも継続して閲覧してくれる人が分かるので、あとは離反を防ぐための施策に切り替えていくと思われます。

DAZNはJリーグの配信開始後から、ネットでの広告施策を積極的に行い、Jリーグでもチームの協力を得てスタジアムなどで告知を行ってきました。しかし、この施策だと「サッカーやクラブに興味がある」人の会員獲得は出来ても、「スポーツに興味があるから、DAZNにも入ってみたい」みたいな人の入会を促すのは簡単ではありません。DAZNとの接点はネットが中心なので、どうしても「スポーツが観たい」というニーズを持っている人しかすくい上げることができないのです。ふとしたきっかけでDAZNにふれるきっかけを作るのが難しくなっているのが現状です。

ある人と話をしたとき「DAZNはもう地上波で番組を持つしかないんじゃないか」というアイディアを話したことがあるのですが、地上波のコンテンツに満足している人は、なかなか有料放送に手を伸ばしません。F2転換は簡単ではないですし、そもそもF0のきっかけをつくるのも簡単ではない。そう考えると、DAZNが「新規顧客は取りきった」と判断しても不思議ではないし、価格改定は理解できるのです。

ただDAZNの施策は理解できるものの、スポーツコンテンツに触れる機会が減っていることは気になります。サッカーワールドカップ最終予選もDAZNが全試合を配信していますが、その要因はAFCが中国の代理店向けに設定した価格が日本のテレビ局にとっては高額すぎるというのが要因らしく、日本のテレビ局は放送しても赤字だと言われています。有料でコンテンツを配信するプラットフォーマーが先行投資の意味も兼ねて買い付けないといけない状況だったとも言えます。

スポーツコンテンツは放送時間が長いためプラットフォームへの滞留時間も長く、顧客の継続率も高いコンテンツであると思われるので、他ジャンルのコンテンツプロバイダーとしてはとても魅力的なコンテンツでもあります。だからこそ、DAZNは自社のコンテンツが狙われる立場であり、コンテンツを抱え込むには資金とファンが必要なので価格を改定する、といったところだと思います。

DAZNの価格改定はとてもロジカルな施策であると思いつつ、背景には激烈なコンテンツプロバイダーおよびプラットフォームの熾烈な競争があります。スポーツの今後を踏まえると無視できないトピックなので、今後も継続して追いかけたいと思います。

DAZNの楽しみ方

DAZNの話題を続けます。僕なりのDAZNの楽しみ方がありまして、ここからは有料で紹介したいと思います。

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スポーツのコラムにプラスして、日記を書くことにしました。日記には、お会いしている人の話、プロジェクトの話、普段の生活など、表に書けない話を書こうと思います。

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