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2017年J2第11節 名古屋グランパス対京都サンガFC レビュー「ボールが動くけど前に進まなかった理由」

2017年J2第11節、名古屋グランパス対京都サンガFCは、1-1の引き分けでした。

京都サンガFCは、ロングパスを活用した攻撃を仕掛けてくるチームです。FWの闘莉王、ケヴィン・オリスが高いボールに対する競り合いに強いので、多少距離が離れていても、2人に対して高いパスを出して、2人にDFとの競り合いに勝ってもらった後のボールを小屋松と岩崎の2人がひろい、サイドからボールを運び、最後はFWの2人を狙って高いボールを出す。この戦い方が徹底されていました。

J2だと京都サンガFCのようにロングパスを活用するチームは、他にもあります。松本山雅FCも同じようにロングパスを活用した攻撃を仕掛けてきます。ただ、松本山雅FCは高いボールに対して競り合うのは高崎1人だけですし、ロングパスを出すまでのボールの動かし方、ロングスロー、セットプレーでもひと工夫加えてきますが、京都サンガFCは、ひと工夫加えることなく、徹底してロングパスを活用した攻撃を仕掛けていました。本当に徹底していました。

名古屋グランパスは、京都サンガFCのロングパスを活用した攻撃には上手く対応していました。ロングパスに対しては、酒井、シャルレス、櫛引のうち1人が競り、たとえ競り勝てなくても、残りの2人が背後をカバーし、小屋松や岩崎に対しては、和泉、田口、宮原といったMFの選手がマークを離さず、きちんと対応出来ていました。

ボールは動くけど前に進まない

問題は攻撃でした。ボールは動くのですが前に進みません。京都サンガFCは闘莉王、ケヴィン・オリスの2人は積極的にボールを奪いにくるタイプではありませんので、酒井、シャルレス、櫛引の3人は比較的に楽にボールを持つ事が出来ました。しかし、名古屋グランパスのMFの選手がボールを持つと、素早く距離を詰め、パスコースを消し、ボールを運ぶコースを消し、ボールを奪おうとしてきます。名古屋グランパスは、パススピードを早くし、ボールを奪われないようにパスを回すことは出来ていましたが、京都サンガFCの守備を攻略し、シュートチャンスをなかなか作ることが出来ませんでした。

機能しなかった左サイド

特に杉森、田鍋、櫛引がプレーしていた左サイドは効果的なプレーが出来ていませんでした。名古屋グランパスの選手交代が、3人とも左サイドでプレーしていた選手だということが、この試合の左サイドでプレーしていた選手の出来を現しています。

櫛引は初めて左DFでの出場でした。守備は問題ありませんが、左足のキックが上手い選手ではありませんので、どうしてもパス交換のテンポと精度が右足に比べて落ちてしまいます。

田鍋はボールを受けるために動き続ける事は出来ていましたが、味方の動きにあわせて正確にパスを出すことが出来ず、ミスが増えてしまいました。

杉森はスタメンで出た試合の中では一番よいプレーをしたと思いますが、よいプレーが出来たのは30分間だけ。相手に隠れない位置でボールを受けることは出来ていましたが、ボールを受ける時に止まってしまうこと、そして、ボールが受けられなかった時に、次の場所に動くのが遅いといった、これまでの課題はまだまだ改善されていませんでした。そして、相変わらずボールを受けてから次のプレーを考えるので、ボールを受けてから次のプレーを選択するのが、どうしても他の選手より遅くなってしまいます。後半から左MFでプレーしましたが、FWでプレーしていた時よりプレーが悪くなってしまいました。

ボールが動くけど前に進まなかった理由

この試合、名古屋グランパスの攻撃で、ボールが動くけど前に進まなかったのは、相手の守備を「外す」動きが完璧には出来ていなかったからです。「外す」動きには、3つの動きがあります。

1つ目は、「相手に隠れない」ということです。相手に自分自身の姿を隠されないように、相手の間や相手から離れた位置でボールを受ける。この動きは、名古屋グランパスの選手はほぼ全員が出来るようになりました。初スタメンの田鍋も出来ていました。

2つ目は、「矢印の逆をつく」動きです。「矢印」という言葉は、風間監督がよくつかう言葉ですが、相手が右に動こうとした瞬間に相手が発する動きのエネルギーの向きを感じ取り、相手とは違う方向に動く事で、相手の守備を外してボールを受ける動きです。この動きを常に出来ている選手は、名古屋グランパスだと玉田と和泉しかいません。田口、宮原といった選手も出来ている時もあるのですが、常に出来ているとはいえません。

3つ目は、「背中を取る」動きです。守備者は人とボールの両方を見て守らなければなりません。守備者は、人よりボールの動きに注力しがちです。そこで、パスが来る瞬間に、DFの視野から消えて、DFの背中側に動いてパスを受けることで、相手の守備を崩す動きです。この動きが名古屋グランパスの選手は出来ていません。なぜなら、矢印の逆をつく動きが出来なければ、背中は取れないからです。玉田は相手の逆をつけるのですが、DFの背中をつくような動きをあまりしません。それは、今のチームで玉田が背中をつく動きをしてしまうと、パスが回らなくなってしまうからです。この試合だと、シモビッチ、杉森といった選手に求められていた動きなのですが、2人とも「相手に隠れない」事は意識していましたが、矢印の逆をついてボールを受ける動きや、背中を取る動きは全くしていませんでした。

「矢印の逆をつく」動きが出来ないと、ボールが前に進みません。相手が自分たちに向かってくる矢印を受けとめ、外したり、押し返したり出来ないと、パスは回るけどズルズルと下がってしまうし、最終的には相手にボールを奪われてしまいます。名古屋グランパスには、玉田と和泉という矢印の逆をつける選手がいるので、この2人がボールを持てば、相手の守備を外す事は出来ていましたが、他の選手がボールを持っている時は、相手の矢印を避けるのが精一杯で、ボールが横か後ろに動いていました。

そして、「背中を取る」動きが出来ないと、縦方向にパスを出せませんし、相手の守備を崩して、シュートチャンスを作ることが出来ません。永井がいれば、相手の背中を取るような動きをしてくれるのですが、この試合は永井がいないので、DFの背後でボールを受けようという選手がおらず、常に京都サンガFCの守備者の視野の中でプレーしていました。

もうすぐ「矢印の逆をつく」「背中を取る」達人がもとってくる

ただ、幸運にも名古屋グランパスには、「矢印の逆をつく」動きと、「背中を取る」動きの達人がいます。それは佐藤です。佐藤が負傷から戻れば、今の名古屋グランパスはある程度ボールを保持することは出来ているので、もっとよい攻撃が出来るはずですし、開幕当初に比べたら、佐藤の動きが活きるチームになっています。もうすぐ佐藤が負傷から戻ってきます。凄く楽しみです。

京都サンガFCの守備もよかったですが、今の名古屋グランパスの力を考えると、崩せない守備ではなかったと思います。開幕当初に比べれば、チームは凄いスピードで進化しています。そもそも、開幕当初のままだったら、京都サンガFCの守備につかまり、パス交換もままならなかったはずです。ただ、まだまだ課題だらけです。出来ていない事もたくさんあります。まだまだJ2は1/3も消化していませんし、首位とは勝ち点差2。発展途上のチームとしては、悪くない結果だと思います。

新しく生まれ変わろうとしているチームが、少しずつ成長している姿は、勝敗に関係なく楽しいです。次の試合も楽しみです。

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