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おみくじの話

皆さんは神社で参拝したときにおみくじを引く派ですか?
世の中にはおみくじをひく派とひかない派、境内に結ぶ派と結ばない派、大吉が出るまでおみくじロンダリングをする人、等々様々な派閥がいます。

おみくじの内容や付属のご縁起物等に気にかける方は多いですが、おみくじの記載内容について信憑性や出典を確認する声は大きくありません。
現代に残るおみくじ内容の出典の多くは「神様からの道標」を記載しているのではなく、故事成語や漢詩の一節を抜き出しているのが実情です。

おみくじの内容と意義を確認することで、おみくじの結果を正しく受け止めることは、人生の見方を少しだけ変えてくれます。
今回はそんなおみくじの話をしたいと思います。

①おみくじの成り立ち
現在の御已供爾(おみくじ)に近いものの原型は、平安時代の天台宗の僧侶・良源に遡るとされています。観音菩薩より授かった仏の教え100個をそれぞれ蛇の皮に書き写し、毎日自分で1枚ずつひくことで、自分自身のその日1日の進むべき道や行いの指針としたのが原型とされています。
それ以前にも呪術的な面でおみくじに近いものはありましたが、仏の教え、番号と吉凶を占うものとして体裁を整え、おみくじとなったのはこれが最初の例とされています。

天台宗はおみくじの一大派閥として大流行し、次第に比叡山周辺で蛇の皮が不足しだすと、安価に入手可能な紙製のおみくじへと移行していきます。
また、おみくじの作成には専門的な知識を要することから、寺社が庶民に対して専売的におみくじを販売するようになります。

②神仏習合によるおみくじの移行
おみくじは江戸時代まで長らくその伝統を守ってきましたが、国学の隆盛により仏教に対する神道の優位性が説かれるようになると、おみくじは寺社によるものから神社によるものへとバトンタッチしていきます。

明治時代に入ってからの廃仏毀釈(国策として仏教の教えを棄て、神道を広める運動)により、寺社の地位低下は決定的なものとなり、おみくじは神社の代表格として象徴的なものとなりました。

寺社によるおみくじには仏の教えが書かれていましたが、廃仏毀釈の関係から国学派により統制を受けたことで、神社によるおみくじは仏の教えを書くことができず、漢詩や和歌、短歌、偉人の言葉などに吉凶を占わせるようになります。

おみくじとしての体裁はこの頃に整えられ、明治時代末期には現代とほとんど同じようなおみくじが出現することになります。

当時の廃仏毀釈を免れた浅草寺や比叡山延暦寺は、現代でも以前の伝統を受け継いだ蛇の皮のおみくじを巳年の元日に限定して作成しており、毎年おみくじを目当てに、元日に数多の参拝客が押し寄せます。

③おみくじには何が書かれているか
蛇の皮によるおみくじには、仏の教えとその番号、教えの解説、吉凶が書かれていました。蛇の皮は小さく、印刷技術もないため手書きで、多くの情報は書き込めなかったのです。当時は僧侶が手書きしていたため、仏教の教えに対して僧侶の解釈や気分で書き記されており、厳しい決まりもなく自由に書かれていたようです。
比叡山に伝わるおみくじでは、蛇皮製のおみくじ初期のものとして、ラッキーアイテムや今日のおすすめの食事などが書かれたものも見つかっております。

廃仏毀釈によるおみくじの神社への移行と合せて、木版・活版印刷によるおみくじの生産が始まります。
書き込める分量が増えたこと、活版印刷によるため内容の画一化が図られたことから、神職が和歌や短歌から内容を自由に解釈する余地が失われ、項目に分かれた現代のおみくじに近いものが誕生します。
全体の吉凶に加えて、健康や転居、恋愛など各項目それぞれに指針や善悪が書かれるようになったのはこの頃です。

明治時代当時に発足した「女子道社」は大規模な活版印刷を活用した効率的なおみくじ生産で一躍名を馳せ、現代でも国内おみくじシェアの7割を占めています。

④おみくじのマナー・作法について
おみくじは先人たちの教えが記されており、不適切に扱うことはご先祖様に対して不敬であるとの見方から、自然発生的に大切に扱う風習が広まります。

代表的なものを列挙すると
◯左手ではなく右手でひく
日本では「左」を上座とみなす考えがあり、先人たちを敬う意図からおみくじをひく人は右手でひくことがよいとされています。

◯おみくじは土に埋める
古来のおみくじは蛇の皮で出来ており、それ自体を神様に還すという発想から、ひいたおみくじは吉凶に関わらず土に埋めていました。天に還った蛇は竜となり、また現世におみくじとして神の言葉を持って返ってくると信じていたのです。
歴史ある寺社では周囲から多数の蛇の皮や紙が出土しています。

◯おみくじはかき混ぜない
かつては蛇の皮でおみくじが作られていたため、強くかき混ぜるとおみくじが千切れてしまう可能性がありました。おみくじは箱にいれる段階でよく混ぜているため、上から順番にひいていくものだったのです。

おみくじのマナーや作法は様々ありますが、現代では厳格に守られているものでもなく、人に迷惑をかけない程度に各々自由にひくようにされています。

⑤ペーパーレスの推進と現代のおみくじ
蛇の皮が貴重となった平安時代と同様に、現代では環境負荷の軽減を謳って紙の削減が要請されます。
また、金融機関による硬貨の両替手数料の高騰から、おみくじのために大量の硬貨をやりとりすることが望ましくなく、電子媒体と電子マネーを活用したおみくじサービスが勃興します。
大規模な神社では、コロナ禍により混雑を防ぐためHP上で電子みくじを提供することで、参拝せずともおみくじをひくことができる環境を整えました。

また、多くの神社ではおみくじによる売上を確保するため、恋みくじやコンプリート要素を加えたおみくじ、10回分の料金で11回ひけるおみくじなど、様々なおみくじを考案します。

現代ではおみくじを信じない人も多い世の中ではありますが、かつての人々は、先行きの見えない未来に希望を持つべく、神様や先人の教えを道標に日々を生きていました。
おみくじに対して不遜な態度をとるのではなく、かつての人々のように内容を真摯に受け止めて、自分のこれまでの行いを顧みることがおみくじの本来の意義なのです。

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