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葬送のフリーレンをSFにしてみた。SFとファンタジーの境目

「空間を折り畳む魔法?」
フリーレンがあまり表情は変えないが微かに訝しげに訊く。
「そう。折り畳めば二点間の距離を縮めることができるでしょう?ほら、紙にインクを落として、それで紙を折れば折り方次第で好きな場所にインクの染みを移すことができる。ただの高速移動ではない、真の瞬間移動だよ。」
ガブリエラはインク壺に浸したペンから紙上にインクを滴らせてから、その紙をピシリと折り畳む仕草をした。
「紙は紙でしょ。それに平面と空間は違うと思うけど?」
フリーレンは続きを促す。
「それは、平面と空間の違いを絶対的に捉え過ぎなんだな。線と平面と空間は違うものではあるけど、四本の線で囲めば平面になり、六つの平面で囲めば空間になるように、存在として互いに独立してるわけじゃない。現に私達は平面の世界を立体空間の世界から自在に操れる。」
ガブリエラは頭を振る。
「その論法だと空間を折り畳むには空間の上がいるよね?それを何と呼んでいいのかは分からないけど。」

「フリーレン達がなに言ってるか分かる?フェルン。俺にはさっぱりだよ。」
「シュタルク様、私にもさっぱりです。」

「そりゃあそうだよ。平面から平面は折り畳めないだろ。折り畳むってのは上下の動きだからね。平面には前後左右しかない。」
ガブリエラはニヤつきながら何を当たり前のことをという仕草をする。教壇の上の講師のように左右に往復しながら、学生からのつまらない質問にでも答えているかのように。
「頭の体操としてはわかるよ。でもあんた自身が空間の中の存在じゃないか。空間を折り畳むならその上の存在にならないと。それにそれが具体的に何なのかをお前は示せていない。」
「あんたは世界最強の魔法使いだろ?何で分からないかな~。魔法ってのはイメージの世界だよ。」
「おまえは空間の上をイメージできるの?どうやってそれが存在すると信じられる?見たことも聞いたこともないそれを具体的にイメージできるの?」
「逆に何でイメージできないのかな、魔法使いなのに。炎だか嵐だか花畑だか、何にせよ無から有を、熱や力を生み出すのが魔法だろ。無から有を引き出せると信じられるのなら空間くらい曲がるさ。」
「おまえの話には未だ具体性がないね。」
フリーレンは微動だにせず目線だけでガブリエラを追っている。
「そうだね。絵を書いた風船が膨らむと絵が歪む時のような歪みが、残像のように空間同士が重なり合っている状態といえばいいかな。勿論知覚は出来ないよ。イメージの世界さ。」


「さっきのガブリエラの話だけど、あれが本当ならあいつは魔王すら超越している。やつがワープしているのは観測された事実だが、やつはその理論を構築した上で実証した事になる。だって魔法は起こり得ないことを起こすことは出来ないからね。」
「でもフリーレン様。ガブリエラが言っていたように、私達魔法使いは無から有を生み出しています。起こり得ないことを起こすのが魔法であり奇跡なのではないですか?」
「フェルン。それはヤツのレトリックだ。このことはあまり口にしない方が良いけど、私達は無から有を生み出したりなんかしていない。魔力を消費して何処かから引き出しているんだ。」
「その何処かというのはつまり…」
「それをガブリエラは仄めかしていたのかもしれないね。」
「そのような理論を独自に構築したと・・・恐ろしい魔法の高みですね。しかし彼女からは高い魔力は感じませんでしたが。」
「並外れた想像力で最高の効率で魔法を使えば、高い魔力はいらないんだろう。夢想家が転じて学者肌の理論家になったのさ。力押しはきっと嫌いなタイプだよ。」
「しかし、空間を折り畳むのに少量の魔力で足りるとはとても思えません。流れ星に挑むくらいの魔力に思えます。」
「多分こういう事だと思う。平面の例えに戻ると、平面のある点から、一本引かれた線、つまり壁を越えようとすれば、平面上では壁の端まで迂回する必要がある。でも私達は立体だからこんなふうに飛び越えていける。」
フリーレンの人指と中指が歩いて壁を超えた。
「これは壁がどんなに長くても関係ない。平面上では壁が魔王城まで続いていても、壁の向こうは私たちには指先一つの距離だ。何の労力も要らない。」
「でも、魔王城へ行く場合はどうなるのでしょうか。折り畳むにしても一度は魔王城に行く必要があるのでしょうか。」
「そこは奴の弱点になるかもしれないね。距離そのものを短絡するには一度は折り畳まなきゃいけないし、どこに何があるかは把握しておく必要がある。それに行き先がどうなっているのか把握しておく必要がある。立体の私達は行き先の平面から影響を受けないけど、やつは立体空間に行くわけだから、例えば行き先の高度を誤れば生き埋めか落下死だ。平面でいえば、赤いインクの魔法使いが、空間をイメージして平面を曲げたは良いが、青い紙にワープしちゃったようなものかな。しかし、やつがどこまで折り畳んでるかは知りようがないね。」


 おかあさん本邦初公開のSF小説いかがでしょうか。二時間もかかった。ファンタジーとSFに明確な境目は元よりありませんが、しかし異なるものであると一般には定義されています。一つの切り口として、技術的、理論的には実現され得る(あるいは頭の体操としては考え得る)けれど未だ実現されていない自然科学的な想像をSFとすれば、そのような理論の存在を示さずに全く別な自然法則の世界に基盤を置いた想像をファンタジーと言うこともできるでしょう。
 今回はファンタジーである葬送のフリーレンに自然科学的要素を付け加えることでSF化する実験をしました。次元を折りたたむという発想自体は珍しいものではありません。また魔力自体が何なのか説明していないので中途半端ですが、小説としての面白さというよりかは、ファンタジーとSFの境界を乗り越えようとする過程を面白く感じて欲しいなという気持ち。

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