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【小説レビュー】麦本三歩の好きなもの


作品:麦本三歩の好きなもの
作者:住野よる
読了:2020/05/17


◆あらすじ

ぼうっとしている、食べすぎ、おっちょこちょい、間抜け
麦本散歩は、ごはんのことを考えると頭は"しあわせ"でいっぱい
愛らしい彼女は図書館のにおいが大好きで、そこに勤務する20代女の子
無意味な日々も、意味ある瞬間もどっちも大切で、彼女の日常を通して魅せてくれる短編小説
三歩の日常は今日も、好きなもので溢れている。


◆感想

あっけにとられた

「本当に住野よるの作品か?」と2話ほど読み終えて、口から漏れた。
それが第一印象。

今までの主人公は、控えめな性格で、自分に自信がなくて、世界から蔑まれていると思っている、
どちらかというと暗めな設定でした。
それが今回は、真反対の直球を放ってきました。

そして一冊を通して物語を完結するわけではなく、
12話に区切られた短編小説ということにも驚きを隠せませんでした。
※主人公や登場人物は一緒です。

驚きが上回るも住野よるの作品を心底楽しみたいので読み進めました。



何より目がいってしまったのが、言葉の選定。


「彼女のむーは本に対するむーじゃなかった」
「そのまま昼寝をしてしまった。すやー」
「なんとも返しづらい言葉をかけられあうあうしてしまうなんてこともしばしば」
「三歩は可愛い後輩の可愛いミスでしょーだなんて、舌を出すのであった」
そのほかにもよく噛むところや先輩方との会話のやり取り


ふつうの作品で使用してしまうと稚拙さが滲み出てしまい、作品の世界観を壊してしまうところを、
"麦本三歩だから許される"いい塩梅なのである。
もうこう感じている時点で、三歩ワールドに片足を突っ込んでいるのであった。



僕が心に残ったはなしは、「麦本三歩はファンサービスが好き」

ほかのおはなしも胸があったかくなる作品ばかりで甲乙つけがたかった。


三歩の親友である美人な友達と温泉旅行にいくおはなし。
美人な親友は、小説家と一緒に仕事をしていて激務であった。
ふたりはゆっくり羽を伸ばし旅行を楽しむも、やはり仕事の話が持ち上がる。
親友が酔いつぶれて寝てしまったときに、三歩はファンサービスをするのである。


ごめんなさい。これしかかけません。
なぜなら壮大なネタバレになってしまうし、この感動はみなさまが初読したときに味わっていただきたい。
今僕は仲間に支えられて今の自分があるから、このおはなしに感銘を受けたのだと思います。

「いつも支えてくれてありがとう。みんながいるからここまでこれたし、この先ももっと成長していきたい。
 だからこれからもよろしくね。この前の誕生日のお祝いすごい嬉しかったよ。ありがとう」



そろそろ宴たけなわでござぇます。

打って変わって、僕はこうだと決めたことにまっすぐに向かっていくタイプ。
だから、今までもたくさんの本に触れたりいろいろな方とお話しましたが、
やはりどうしても三歩のような人柄の思考が本当に汲み取れませんでした。

でも、読み進めているうちに、
この作品は内からも外からもアプローチしているので、
なんでそういう結果(行動)を招いたのかを、教えてくれる。
だから、「そんな考え方もあるんだ」ってこの作品を読み終えるまでに何回、口に出していっただろうか。

詰めて詰めて何かをやり遂げたり、行動するのは大事だけど、
今、目の前に起きていることに"しあわせ"を感じる大切さをこの本、麦本三歩を通じてはつかみました。

この本を読み終えてから、
以前と同じことを取り組んでいても、こう、心のありかたが軽いというか、
とにかく落ち着いていられるようになりました。

この世界にはたくさんの人が生きているし、生きかたや性格もその通りだけある。
「あなたはそれでいいし、それもよくない」
なんて三歩に言われている気がしました。


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P.S.
散歩はそんな難しく物事を考えないか(笑)



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