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宮古島の農業を未来へつなぐ、ヤギとアロエの密な関係ーニッポンのヒャッカ沖縄編5ー

見渡す限りさとうきび畑が広がる、宮古島の風景。
そんな風景の一角に、そのピラミッドは突如現れる。

カラフルなピラミッドの上に乗っているのは「ヤギ」。

ここ「しろう農園」は、宮古島で最大の面積を持つ、有機アロエ農園だ。
なぜアロエ農園に、このようなヤギピラミッドが鎮座しているのだろうか?

その理由を探ってみると、島を想う人々の、ある「願い」が見えてきた。

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▲(左から)しろう農園 砂川さん、酒井さん


しろう農園の代表・砂川さんがアロエの栽培を始めたのは、2003年ごろのこと。

きっかけになったのは、当時、役場が主体となって行った、あるプロジェクトだ。それは「宮古島の気候で育てやすいアロエの栽培を普及させ、地域の農業を盛り上げよう」という地域おこし計画だった。開始にあたっては生産農家の募集が行われ、これに手をあげた農家のひとつが、しろう農園だった。

しかし、開始早々、プロジェクトには暗雲が立ち込めた。
生産したアロエは工場が販売を請け負うことになっていたが、工場側で売り先を見つけることができず、作っても結局売れない状態になってしまったのだ。

「こうした状況を受けて、ほとんどの農家はアロエ栽培から撤退していきました。でも、私は諦めたくなかった。なぜならアロエは宮古島にとって、大きなメリットのある作物だと思ったからです」

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アロエには防虫作用があるため、無農薬でも栽培できる。生活用水を地下水に依存している宮古島にとって、土壌を汚染しないで済むのはありがたい。

また、宮古島では農家の高齢化が進んでいるが、アロエ栽培には繁忙期がなく、モノ自体が丈夫であまり手間もかからない。そのため、高齢者でも無理なく栽培ができる。

そして、温かい環境ですくすく育つアロエにとって、沖縄本島から約300km南東にあり、一年中温暖な気候を持つ宮古島は、最適の生育環境だ。猛烈な台風に見舞われやすい欠点はあるが、好都合なことに、アロエは暴風に強い。だから宮古島では、ハウスでなく露地でアロエが栽培できる。

アロエは宮古島にとって、相性がとても良い作物なのです。宮古島の自然な風を受け、光をいっぱいに浴びたアロエは、大きくて肉厚に育ちます。消費者にも嬉しく、作る私たちにとっても嬉しい、宮古島にとってこの上ない作物なのです」

そんなアロエの販路を開拓し、なんとかしてこの取り組みを続けることはできないだろうか——。

そう考えた砂川さんが着手したのは、ECサイトでの販売だった。

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▲主力商品である、アロエベラドリンクと、多用途に使えるアロエベラ原液


幸い、東京で機械関係の職についていたので、パソコンを使うことには抵抗がなかった。試しにホームページを作成し、大手ECサイトに出店をしてみると、思った以上にいい反応を得ることができたという。

農薬や化学肥料などに頼らない、有機栽培を行っていること、日本で多く流通する「キダチアロエ」より肉厚で食用にも適した品種「アロエベラ」を扱っていること、そしてなにより、宮古島の太陽の光をたっぷり浴びて力強く育ったアロエの、品質の良さが認められたのだ。

特に人気になったのが、アロエの生葉。料理にアレンジして使ったり、自分で化粧水を作ったり、肌トラブルのある場所にパックのようにして使ったり、「便利に活用できる点が嬉しい」と、多くの注文を受けるようになった。

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▲しろう農園が販売する生葉は、一番厚みのある部分で7cmほど。端を持ってもヘタらない肉厚さが自慢だ。


販売先の問題はひとまずクリアしたものの、これはひとつの通過点でしかない、と、語るのは、しろう農園の事務部長・酒井さんだ。

「私たちだけがうまくいっても仕方がないのです。島の農家さんと手を取り合って、みんなで力を合わせてやっていくことが、良い商品の開発につながり、結果的に島の生活が守られ、豊かになっていくと考えています」

現在、宮古島の主要作物はサトウキビだ。しかし、サトウキビは年によって取れ高が大きく変動するため、収入にも響いてしまう。その点、アロエは安定的に収穫でき、農家の暮らしを支える礎となる。

「現在、島のなかでアロエ栽培を行っている農家は30軒もありません。宮古島の一番の基幹産業である農業を絶やさないためにも、まずは兼業からでも、アロエを栽培する農家を増やせたらいいなと思っています」

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▲手入れをしないと、すぐにアロエが見えないほど雑草が生茂ってしまう


そのためにも、なんとかしなければならなったのが「雑草の処理をどう軽作業化していくか」という問題だった。有機栽培は農薬を使わないため、すぐに雑草が生い茂ってしまう。

そこで砂川さんが思いついたのが、「ヤギ」。

草を主食とするヤギをアロエ農園に放牧すれば、雑草を食べてくれるかもしれない。
幸い、ヤギは沖縄で最も身近な家畜であり、入手もしやすかった。

「最初、ヤギたちがアロエまで食べてしまうのではと心配しましたが、うまいこと雑草だけ食べてくれたので安心しました」と砂川さんは当時を振り返る。

こうしてしろう農園の、ヤギとアロエの循環型農業が確立したのだ。

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ちなみに、あのヤギピラミッドは、沖縄で台風のときにつかう「トン石」にヤギが飛び乗る様子を見て思いついたそうだ。

試しに積んでみると、思った通りヤギたちは喜んで飛び乗った。すると、その様子を見た通行客が次々とSNS投稿をし、あれよあれよという間に観光スポットへと成長してしまったのだという。

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「今、私たちが目指しているのは、この循環をさらに大きな輪にしていくことです」

と、砂川さんは今後の展望を語る。

アロエの花に着目した養蜂、
ヤギのミルクを使った商品展開、
これまで使い道のなかったアロエの皮の再活用・・・

など、もうすでに、いくつかの事業に取り組み始めているという。

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現在、ヤギ人気から始まったふれあい観光牧場の横に、新たにパーラーも建設中だ。オープンした暁には、そこで、しろう農園が作ったアロエや、ヤギのミルク、蜂蜜を使って作った商品を展開する。

彼らの歩みは、着実に前に進んでいる。

もしかしたら、ヤギとアロエの関係が宮古の農業を支える未来も、そう遠くないうちに実現するかもしれない。


しろう農園:公式サイト

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