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ヘアブラシは美容アイテムだと知る衝撃  ーニッポンのヒャッカ第7回ー

 どこの家庭にも少なくとも1つはあるヘアブラシ。
しかし、毎日何気なく使っているそのブラシが何でできているのか、意識している人はそう多くはないだろう。「ヘアブラシでのブラッシングの仕方ひとつで、髪本来の健康や艶の状態は全く違ってきます。こめかみからグッと頭頂に向かってマッサージするようにブラシを動かしていただくと、お顔の美容にも効果があります」と教えてくれたのは、大正時代から続く老舗ブラシメーカー・林健商店の三代目社長の林利津子さんだ。ヘアブラシは「ヘアスタイルを整えるための道具」としか考えていなかった感覚には、なかなか衝撃的な話の始まりだ。

 100年以上の歴史を誇る林健商店が、老舗の技術を凝縮したヘアブラシ「愛葵aoi」を誕生させたのは、初の女性社長となった利津子社長のこだわりだった。「刷毛の卸売りから創業した当社は、二代目も小売りはせずにOEMでブラシ類を製造してきました。三代目となった私は女性ならではの商品開発を考え、毎日自分自身の観点で向き合えるヘアブラシを商品化したのです」と利津子社長。
創業以来の技術を生かした商品をつくりたい。
作り手側からだけでなく、お客様側からの視点も加えた商品づくりがしたい。「女性にとってヘアスタイルはとても気になることですが、私自身が若い頃に気づかなかった髪の健康について考えるような年齢になってきました。頭皮と顔の皮膚はつながっていますから、頭皮をきちんとケアすることは髪によいことはもちろん、血行を促し、顔色や皮膚のたるみ予防などの美容効果もあるといわれています。実際にブラシの使い方をご説明すると、『こんな使い方があるとは知らなかった』『髪は上から下に整えたことしかない』と多くのお客様がおっしゃいます。『愛葵aoi』には、皆様に髪や頭皮のケアを通じて健康になっていただきたい、という思いも込めています」。

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頭皮を刺激するためにはブラッシングの方法も大切


1本のブラシの1ずつの毛を、職人が手仕事

 今、ヘアブラシは100円ショップだけでも数種類あり、値段も材質もデザインも実にさまざま。そうした中で、いったい、どんなヘアブラシを選べばよいのだろう。

「髪にダメージを与え、抜け毛の一番の原因も静電気と言われています。ナイロン素材は獣毛に比べ、8倍も髪に負担がかかるとされています」と利津子社長。

 では「愛葵aoi」の素材はいったい何でできているのかというと、獣毛の中でも毛足の良さで評価の高いインド産の猪毛、持ち手の部分はバイオリンの名器として知られるストラディヴァリウスの指板にも使われている黒檀だ。

「16、17センチ程度ある猪毛の硬い毛根部分だけをカットし、1本の毛を2つ折りにして使っています。猪毛は根元部分から1切り、2切りと長さの単位があり、毛先に行くほど柔らかくなります。長さと硬さで値段も違います。日本人の髪質は直毛で、実は欧米人の1.5倍ほども太いとされ、猪毛の中でも硬い部分が適しているのです」。

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長さの違う猪毛を丁寧に揃えて植毛していく様子

 猪毛も黒檀も、現在国内では手に入らないため輸入し、職人が手作業で1本ずつ丁寧に植毛しているため、一日に生産できる本数は限りがある。緩やかなカーブにすることで使い心地を保っている持ち手とヘッド部分に合わせて、植毛の角度を調整するには熟練の職人の手作業が一番適していると利津子社長は考えているからだ。

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熟練の職人が1本ずつ手作業で植毛していく様子

「良いものを伝えたい、継承していきたいのです。良さを知っていただき、使っていただくことで職人の技術は維持され、次世代に受け継がれていきます。努力を続けたいですね」。


心まで整えてくれそうな毎日の始まりに

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 「愛葵aoi」のブラシには高いものでは1万円の品もある。「1本1万円のヘアブラシ」は、簡単な買い物ではないのが現実。その良さを十二分に引き出すためにはコツもあるようだ。利津子社長によると、まずは水洗いをしないこと。

「水を含むと木が膨張し、植毛してある穴に隙間ができて毛が抜けてしまうのです。1本の毛を2つ折りにしていますので、一度に2本抜けることになります。また逆に、毎日正しく使っていただければ5年は持ちます」。

5年も…!!1万円のブラシを5年使えば1年間は2000円。1カ月だと166円程度。365日で割ると…。このヘアブラシで頭皮が健康になり、血行が良くなりアタマの中も気分もスッキリ、顔のたるみまで改善できると思えば、もはや超お得な美容アイテムのようなもの。下手なヘアクリームよりも獣毛でのブラッシングの方が、本来の艶を実感できるかもしれない。そう考えれば1万円は高くない!と伝えると「高ければよい、安い物が悪いというわけではなく、その方に合ったブラシをお選びいただくことが一番大切です。例えば髪が細く、量の少ない方には猪毛でも毛根部分ではなく、柔らかい部分を使用したブラシがおすすめです」。

 自分を知る、毎日の健康に少しだけ気を配ってみる。納得した品を大切に使おうと心がけると、なんだか心まで整ってくるような気分になれる―。毎日手に取るヘアブラシ選びは、そんな「気づき」の良い機会になりそうだ。

林健商店:公式サイト

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