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サカナは釣り具を学習できる?

科学論文を釣り情報へ還元する第22回目の投稿です。

今回のテーマ:サカナは釣り具を学習できる?

今回ご紹介するのはこちらの論文です。
Takahashi, K., & Masuda, R. (2020). Learning for angling: an advanced learning capability for avoidance of angling gear in red sea bream juveniles. BioRxiv.

今回は様々な試験を通してマダイ稚魚が釣り餌や釣り針を学習し、回避できるのかどうかを調べた論文をご紹介します。

この論文を一言でまとめると、
サカナは、数回釣られるだけで釣り具(釣り針やそれに付いている餌)を学習し、2か月以上後でもその記憶は保持されている、ということでした。

1回釣られたサカナは釣られやすいかというのは我々釣り人にとって多いに興味があるところです。
以前、ニジマスの試験で実は1回釣られても1/3の確率で再度釣れる可能性があることをご紹介しました。

さて、今回はマダイの稚魚を対象に、サカナがどれくらい釣り具を学習し、その記憶がどのように保持されるのか解き明かしていきましょう。

サカナは学習できるのか?

今回の試験は下記のような手順で行われています。

① マダイ稚魚にペレット(飼育時の餌)を与えて、そもそも餌を食べる気があるサカナどうか確認
② 釣り具(釣り針とラインのセット)にオキアミを餌として付け、釣れるか試験(釣れたサカナを”学習グループ”と命名)
③ 学習グループと何もしていなサカナたち(対照グループ)に「釣り具+ペレット」「ライン+オキアミ」「オキアミ(まき餌)」の3パターンで釣れるか試験
④ ③の1時間後、何も知らない釣り人8名に「釣り具+オキアミ」で釣れるか試験
⑤ ④から2か月以上後に「釣り具+ペレット」と「ライン+オキアミ」で釣れるか試験

少し複雑ですが、下記のイラストのようなイメージです。

手順①でサカナの”やる気”を確認していますので、そもそも”食べる気がないサカナ”は排除されています。

②の試験自体は28日間続けて実施していますが、徐々に「釣り具+オキアミ」だけでは釣れなくなっていたようです。

その上で、③の結果をみていきましょう。

③の結果、学習させた直後に試した3種類の試験では
学習グループの結果:
「釣り具+ペレット」:100%釣れる
「ライン+オキアミ」:9.1%釣れる
「オキアミ(まき餌)」:100%釣れる
対照グループ(全て100%釣れる)

つまり、経験していないパターン(釣り具+ペレット)ではサカナは回避できなていませんが、ラインの先に付けたオキアミは針がない状態でも回避していることがわかりました。

学習していない対照グループは「ライン+オキアミ」で100%釣れていますし、どちらのグループも撒き餌のオキアミは食べていますので、学習グループがきちんと「学習→回避」しているのがわかります。

また、③の試験1時間後に行った④の結果では、学習グループは18.2%が釣られ、対照グループでは81.8%釣られたということですから、
学習グループはの約8割はすでに釣り具を学習している可能性がありますよね。

しかも、何度も釣り試験を繰り返した結果、釣り具を避けるだけでなく、釣り針に引っかからずに、餌を捕食できるようになった可能性もあるようです。
このような例はテッポウウオでも似たような観察結果がありました。

どれくらい記憶保持が可能なのか?

学習グループは、1回か2回の経験で釣り具を避けることを学習できました。実際の自然界では、魚類は数回の経験で急速に学習することができいるそうです。
例えばナガヅカの仲間は1回の条件付けで捕食者からの避難場所を学習することが知られています。

では、どのくらい記憶の保持が可能なのでしょうか?

②の試験で28日連続で「釣り具+オキアミ」のパターンを学習させた学習グループはその2か月以上後に、⑤の試験を行った結果、
「釣り具+ペレット」は100%釣れたのに対し、「ライン+オキアミ」は50%しか釣れないことがわかっています。

つまり、学習グループの約半分は、釣り具の記憶を保持することに成功したと言えるわけです。
ちなみに、過去の別の試験の結果でも1年間は記憶を保持できる可能性があると報告されています。

筆者は、捕食者の情報など生命の危機に関わるような記憶は今回のように長期的な記憶として保持されるとしていますが、
餌場の記憶はほとんどの場合2か月も保持されないという研究結果もあるようです。

とは言え、とは言え・・・・・

さて、今回の研究は「サカナは釣り具を学習できるし、記憶の保持も長い」ということでおしまいかと思ったのですが
そうではありませんでした。

実は28日間連続した②の試験ですが、学習したとは言え、すべてのサカナが28日間の間に何度か再捕獲されたようです。
つまり、学習自体はできるようですが、完全に避けることはできないということです。

特に、釣り人の多く入る場所、いわゆるプレッシャーの高い場所はやはり何度も釣られやすいことがいえそうです。

また、以前の記事でもご紹介しましたが、釣られやすいサカナは、性格的に大胆であることがわかっています。

さらに、学習までの回数も当然個人差がありますから、人間と同じように忘れるサカナもいればすぐに覚えることのできるサカナもいるわけですね。

さて今回は少し複雑な試験ではありましたが、なかなか興味深い結果でした。
それではまた次回お会いしましょう。


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