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ぼくの家、わたしの家。

面白い話をきいた。
家を建てる時に、むかしは「肘から手首まで」というように家主の身体の長さを単位にしたのだという。家の修繕ができないからというのがその理由らしい。

それを聞いて、一人ひとりの身長や腕の長さを基準にした家が建ち並んでいる光景を想像した。まちまちの、いびつな高さのでこぼこな街並み。すごくいい。

身体が物差しというのもいいなと思った。牛乳をいっぱい飲むとか補助手段もあるけれど、基本的に身体の長さは偶然の産物だ。そういう努力とは無関係のものが住まいの単位になるというのが、なんだか痛快に思えた。

この話をきくまで、自分の身のまわりのものをオーダーメイドにするなんて考えたこともなかった。それらは高級品であり、既製品にじぶんを合わせるのが普通だと思っていたからだ。でも自分の身体の細かい寸法に合わせてつくられる世界が、少なくともすこし前にはあったのだ。

ほんの少しでも、「ぴったり」じゃない違和感ってある。ないことにすることが当たり前になっている微細なずれ。でも、それはいつだって有る。「細かいことにこだわるな」と煙たがられても有る。

そういう、人の本当の輪郭にふれるような仕事がしたい。自分の中にそのような思いがあることに気がついた。たった一人のその人のかけがいのない個性のひだを尊ぶような。

僕が手がける『あなたのうた』という仕事がそれに達しているかはわからない。けれど、その人との間に現れた一回きりの語りを歌にしていくことは、そのときのその人のみならず、過去も未来も、表層も深層も、体も心も魂とひっくるめて写真のように映してしまうような営みでありたい。どうやったらそんなことができるのかは分からないけれど、心意気としてはそんな感じでいる。

その人がその人であること。
その人であるがゆえにどうしてもそうなってしまうこと。

それが一番面白い。

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