語りの中に星座をみる_

語りの中に星座をみる。

物語と星座とは関係があるでしょう。あんな星を七つか八つ、ぱっと見ただけで、あれが物語を生み出してくるわけです。人間の心というものは、このコンステレーションを表現するときに物語ろうとする傾向を持っているということだと私は思います。

モーツァルトが、自分は自分の交響楽を一瞬のうちに聞くんだと言っていますね。だから、モーツァルトがぱっと把握した、これというコンステレーション。それをみんなにわかるように時間をかけて流すと、二十分かかる交響楽というふうになってしまった。

それと同じようなことで、星の姿というものを話そうとすると、ギリシャ神話のような話になってくるというふうに言うことができます。

この文章に照らされたことで、自分がどんなふうに人の話を聞き、『あなたのうた』という仕事において、何をしているのかが分かった気がした。

冒頭に引用したのは、河合隼雄さんの『こころの最終講義』という本の中の一節だ。

この講義は、先月、動画でみて二本の記事を書いたが、

まだ惹かれるところがあって、本のかたちになったものを図書館で借りてきて読んだ。

編集のしかたもあるのだろうか、いくつも聞き逃していた大事なことに気づかされた。

そして、先のフレーズに出くわした。
前後も含めると、こんな語りになっている。

ぱっと見たことというのは、まさに共時的、一つの時間に共時的に把握されたことをみんなに伝えようと思うと、時間がかかって、これは物語になってくるということを言いたいんです。

だから、コンステレーションというのは、一瞬のコンステレーションとしてぱっと見せられるんだけれども、これを展開していくと物語になる。そして、物語ることによってこそ、コンステレーションは非常にうまくみんなに伝えられるのではないか。

そして、皆さん、すぐおわかりだと思いますが、物語と星座とは関係があるでしょう。あんな星を七つか八つ、ぱっと見ただけで、あれが物語を生み出してくるわけです。人間の心というものは、このコンステレーションを表現するときに物語ろうとする傾向を持っているということだと私は思います。

モーツァルトが、自分は自分の交響楽を一瞬のうちに聞くんだと言っていますね。だから、モーツァルトがぱっと把握した、これというコンステレーション。それをみんなにわかるように時間をかけて流すと、二十分かかる交響楽というふうになってしまった。それと同じようなことで、星の姿というものを話そうとすると、ギリシャ神話のような話になってくるというふうに言うことができます。

だから、われわれの人生も、言ってみれば一瞬にしてすべてを持っている。例えば、私がいま話しているこの一瞬に、私の人生の過去も現在も全部入っているかもしれない。

これを読みながら、僕は女の人の話し方のことを思い浮かべた。

女性の話はしばしば「飛ぶ」と言われる。
そのことを苦にする聞き手もいるようだし、ご本人から「とりとめなくて、すいません」と言われることもある。

けれど、僕は昔から男性よりも女性の話し方のほうが好きだった。

河合先生の文章に照らされて、それはこういう理由だとわかった。

女性の話はたしかに「飛ぶ」。でも、脈絡がなさそうに見えるからといって、つながりがないわけではない。

びゅん、びゅん、びゅん。
と、ワープを繰り返す軌跡を眺めているうちに、女性の話の中に「星座」のような全体像が浮かび上がってくる。

僕はこれを面白がっているのだ。

そして、『あなたのうた』という仕事においては、その「星座」を歌のかたちにして物語っているのだと思う。

モーツァルトがぱっと把握した、これというコンステレーション。それをみんなにわかるように時間をかけて流すと、二十分かかる交響楽というふうになってしまった。

最近、『あなたのうた』は、Aメロ、Bメロ、サビといったポップソングの枠組みを離れ、次々に場面が変わるオペラやミュージカル、交響曲のような構成になっていっているが、これもその「星座」を描こうとしているからかもしれない。

こうして考えてくると、別々の芸術と思われている絵、歌、物語が一つのものであることがわかる。

ぱっと把握した「絵」を「歌」のかたちにして「物語」る。
それは、一瞬のうちに空間に起きた出来事を、時間のかたちにして伝える営みだ。

そして、歌や物語に変換されたそれを受け取ることによって、人は「絵」を自らの心象に復元させることができる。

それは、日常会話とはまったく違うコミュニケーションと言える。

『あなたのうた』の現場では、語られていないこと、分かるはずのないことが歌の中に現れて、参加者さんと一緒になって驚くことがある。

この現象も「語られたこと」ではなく、そこに現れた「星座」を伝えようとしているから起きていることなんだろうな、と思った。

もっと言えば、歌にすることで、その「星座」の中を僕自身が生きてみせることができる。

そんな演劇のようなところもあるから、余計にこの仕事は面白いのかもしれない。

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