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ゆっくり、ゆっくり、登ってく。

今日の名古屋は夏空、快晴。
長かった梅雨ももうすぐ終わるかと予感させる日だった。

この長い長い下り坂を君を自転車の後ろに乗せて、ブレーキいっぱい握りしめて、ゆっくりゆっくり下っていくのは、ゆずの『夏色』だが、バイト先の障がい児デイサービスの子どもたちは逆にゆっくりゆっくり登っていく。

ある子が、算数の宿題をしていた。
「8を足す足し算」とあり、1+8 から12+8 までの問題がランダムに並んでいる。

彼は問題の下にマルを八つ書いて、それを一つずつ数えながら足し算をしていた。「5、6、7、8、9!」元気いっぱい数え終えると、こちらの顔を見て答えが合っているかを確かめる。僕がうなずくと嬉しそうにガッツポーズをする。

こんなに純粋に一生懸命問題を解く子がいるだろうか。僕は感心する。

彼は13才、学齢でいうと中学一年生である。
解いている問題は幼稚園くらいのレベルだろうか。

彼は他の人の進む速さよりゆっくり、ゆっくり登っている。その代わり、速く進む人が失くしてしまうきらめきをいまも残している。ちょっとうらやましいくらいに。

小中高大学、サラリーマンと "一般道" を歩んだ後、僕は会社を退職して "けもの道" を歩むようになった。その中でいままで会ったことのなかったいろんな人に会った。

中でもデイサービスの彼らは、一番ゆっくり人生を歩んでいて、一番キラキラしていた。ここで働くようになって、僕は彼らのことが大好きになってしまった。

だから思う。ウサギもいれば、カメもいるように、チーターもいれば、ナマケモノもいるように、この子たちに合わせた「長い目」を多くの大人がもてないものだろうかと。

「せまい日本、そんなに急いでどこへゆく」という名コピー(なんと交通安全標語らしい)が生まれたのは、1973年。

それから半世紀近く経ったいまでも、社会はあいかわらず急いでいて、 "一般道" を歩む人たちの中には、そのスピードに振り落とされて落伍する人が大勢いる。

ゆっくり、ゆっくり。

デイサービスの学習室に響く「5、6、7、8、9!」という元気なかけ声の中に、なにか大事なヒントがある気がするのだけれど、うまく捉えられないまま、問題が解けて満面の笑みを浮かべる彼をみている。

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