僕は_子ども好き_ではなくなったらしい_

僕は「子ども好き」ではなくなったらしい。

自由ってやつは 楽しいもんだぜ
僕も昔は 縛られてた
(映画『ピノキオ』より)

昨日、自分がもはや「子ども好き」ではなくなっていると気づいて驚いた。

僕は長年、自分のことを「子ども好き」だと思って生きてきた。

身内であるめいだけでなく、ショッピングモールや地下鉄の車内、エレベーターの中なんかでよその子を見かけても、自分から微笑みかけてしまうくらいの「子ども好き」だった。

そして、僕は誰よりも子どもに好かれたがった。
子どもに好かれると、自分がまともな人間として生きている感じがしてうれしかったからだ。

でも、ある時からその感覚が消えた。

いまは、めいっ子や時々見かけるかわいらしい子どものことは「すきだな」と思うけれど、それ以外の子を「すきだな」とは思わない。子どもに好かれるかどうかを気にすることもなくなった。

どうして消えたのかというと、自分の中の「子ども」像が消えたからだと思う。

児童館に勤める前、僕には「子ども」に対する強いあこがれがあった。

純真、天真爛漫、無垢、自由で無邪気、あるいは、悪いなら悪いなりに自然で奔放。

自分にはないそうした資質を「子ども」が持っていると信じていた。
そして、映画『ピーターパン』のように大人である自分を嫌い、できれば子どもに戻りたいと思っていた。

僕は「子ども好き」ではなく「子どもになりたい大人」だったのだ。

でも、児童館で実際に出会った子どもたちは、僕の想像する「子ども」ではなかった。

彼らからは、ティンカーベルの粉を浴びて飛び立つ軽快さよりも、むしろ不自由さを感じた。

学校に行かなければならない。
家に帰らなければならない。
働くことができない。
自分の気持ちをうまく言葉にできない。

そして、どんな時でも最終的には、親や先生といった大人に従わざるを得ない。

もちろん彼らには大人にはない活発さがあるし、声も大きい。感情表現も豊かで元気だ。でも、彼らはいつも「ひま」と言いながら、ゲームでもマンガでも人の悪口でもいいから、退屈を刺激してくれる面白いことを探していた。

それは僕の目からみると、それほど面白くもなさそうなことをしてエネルギーをくすぶらせているように見えた。思い描いていた自由で気ままな「子ども」像とは、ずいぶん違った。

最初は、児童館の子たちが特別なのかなとも思ったし、いきいきとした資質をよみがえらせることはできないものかと考えたりもした。けれど、次第に「こっちの方が子どもなのかもしれない」と思うようになった。

いつも「ひま」と言いながら、ゲームでもマンガでも人の悪口でもいいから、退屈を刺激してくれる面白いことを探している。

それが、子ども。

そうして、僕の中の「子ども」像は幻滅した。
実際の子どもには、あこがれもしないし、なりたいとも思わなかった。

その代わりに、僕は大人に対して「すきだな」と思うことが増えた。

大人は面白い。
なにに悩み、どんなこじれ方をしていても、そこに時間をかけてきただけのリアリティとオリジナリティがある。

使う言葉も独特だ。
よく聞いていると、その人が、その人なりに大事にしてきたこと、信じてきたことが結実したような言葉が出てくる。

それに大人同士は互いに語り、聞き合うことで、豊かな時間を過ごすこともできる。仕事だってつくることができる。

僕は子どもよりも大人にずっと、自由を感じるようになった。
それは大人になりたくなかった僕には、ありえない発想だった。

たぶん、それでいいんじゃないかと思う。

子どもは、ひまならひまなりに時間をつぶすし、無為な時間があったって構わない。そもそも不自由なのだ。僕がその時間の使い方に、いいとかよくないとか口を出す筋合いもない。ほっとけばいい。

子どもには子どもの、大人には大人のすることがある。それ以上のことは、縁がなければ、しようとも思わないし、してあげたいとも思わないし、実際何もできない。

児童館で働く前、僕は自分のことを子どもの気持ちがわかる稀有な大人だと過信していたが、実際のところ、子どもの世界や気持ちはわからなかった。そして、それでいいと思っている。

働くことが好きになり始めていて、大人についても肯定的になって「子ども好き」ではなくなった自分。

ずいぶん人が変わってしまった。
それは概ねいいことなんだろうけれど、まあびっくりはする。

でも「すっかり大人なんだ」という立場から子どもに出会ったとき、僕のすること、したいことは以前とは違ってくるような気がしている。

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