天下一学習会。
今週水曜日、夜の児童館で「天下一学習会」というイベントが開かれた。
内容は「受験さながらの緊張感の中、過去問を解いてもらう」というもの。
普通のことじゃないか、と思われるかもしれない。
けれど、うちの学習会ではイベントになる。
なぜかというと、この場に強制ではなく、子どもたちに進んで参加してもらいたいと思っていたから。そして、真剣に勉強する場に参加してもらうためには、十分な関係構築の時間が必要だったから。
以前も書いた通り、うちの学習会は大学生を中心としたサポーターが運営している。「勉強してほしい」「息抜きをしてほしい」それぞれのメンバーがそれぞれの立場そのままに子どもたちに関わっていく。
いい気分も不快感も分かち合いながら、毎回のミーティングで思いを語り合ううちに、それぞれのメンバーは微妙に、時にドラスティックに立ち位置を変えていく。それに応じて、場全体のバランスが変わる。まるで波を受けて大きく揺れる船のように。
そんなふうにして進んできた学習会で「受験を控えた中三生のためにもっと勉強時間を」という声が上がりはじめたのは、40℃を超える気温が続いた夏の頃だ。
最初の声は、大学生サポーターからだったと思う。
「家でなかなか勉強する気になれない子のために、学習会の時間を追加してほしい」そんな要望があった。
そうして、通常の火曜・水曜のほかに、児童館の開館時間を使って行われる「学習会プラス」が開かれるようになった。
でもまさか、当の中三生から「もっと勉強したい」「テストをしてほしい」という声が上がるとは思わなかった。ある大学生が彼らの面倒を見ていたのだけれど、それだけの強い信頼関係を築いた証拠と言える。
今回の「天下一学習会」は、その大学生による企画だ。
「受験の緊張感に慣れてほしい」「きっちり勉強する時間をつくりたい」と同時に「勉強することをいやになってほしくない」という彼の思いが企画の隅々に現れていた。
僕たちはワクワクしながら机を配置した。
いつもと違う「いかにも受験会場」という並びだ。
注意事項を書いた紙も用意されていた。それを一人一人の机の上に置いた。
「おお、受験だ」と思った。なつかしさすらある。
やがて、子どもたちが教室に入ってきた。
事前に予告していたこともあってか、いつもと違う雰囲気にしっかり適応していた。
それぞれ自分の席につくと、落ち着かない様子で黙っている。
最初の科目、国語の試験開始時間は、18時40分。
彼らは18時30分には入場していたから、その十分間は重い沈黙が流れた。
この「いやな沈黙」も大学生の彼が経験してほしいと言っていた要素の一つだった。
彼にとって誤算だったのは、試験監督を務める彼自身がとてつもなく緊張してしまったこと。伸びをしてみたり、キョロキョロしてみたり。僕はその十分間、彼の落ち着かない様子も楽しむことができた。
「はじめ」と彼が宣言して、みんなが一斉に問題を解きはじめた。筆記具のカツカツという音だけが響く。
あのにぎやかな学習会が、こんなふうになるなんてね。
休憩時間には、バスケットボールをやる声も一段と大きかった気がした。
試験が終わった後には、感想を書いて振り返る用紙が用意されていた。
さりげなく悟空が入っていることも心憎い。
そして、この悟空は一人ひとりに励ましの声を書くのだ。
なんという行き届いた配慮だろう。
子どもたちへの熱い思いが伝わってくる。
僕はこの企画に関して一言も発言していないし、何の指図もしていない(そもそも自主運営なので、職員とはいえ、僕には何の権限もないのだ)。だからこそ、そのクリエイティブの高さに素直に感動できた。
場を育んで、若い人のクリエイティブを見るのは楽しい。
学習会運営を通して知ったこの楽しさは、おっさんならではの楽しさだなあと思った。
ちょっとやみつきになりそうな予感がしている。
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