お寿司バスボールからたまごが出てきた話

ましこです。
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 私はお寿司が好きだ。
新鮮で艶やかなネタとそれを引き立てるために管理された質のシャリの融合。
鮮魚と米の組み合わせは日本の誇りと情熱と魅力の全てを挟み込んでいる。

私はそんな寿司の魅力に惹かれたものの1人である。

もちろん私はしがない困窮学生なので高級な寿司といえば精々スシローの黒いお皿程度しか知らないが、
それでも寿司という文字を見れば無意識に近付き手に取ってしまう。

 


そんな私がつい先日見つけたものが、
お寿司のフィギュアがランダムで湧いて出てくるバスボールである。
パッケージには齢30にして修行していた鮨屋ののれん分けを許された活気のある割烹着を着た若大将が笑顔で鮨を振舞っている。
それを目にした私は一考する間もなく手に取り、気付けば購入していた。


 その帰り道、私の心の中はとても高揚感に満ちていた。
ただでさえ楽しく癒されるお風呂に入ることでお寿司までいただけてしまうなんて。
そんなワクワクを胸に、普段一番風呂を殺してでも奪い取る私は家族が風呂を入り終えるまで待機し、ついに私の番が来た。



急いで脱衣の儀とシャワーを終え、ついに《入浴》が始まる。今日の《入浴》はいつもと違う。それは決して家族3人分のダシが取れてしまった湯だからではない。

私には、
お寿司が出てくるバスボールがあるのだ。

パッケージの若大将の脳天を引き裂き、まるで脳髄のように飛び出すバスボール。
この脳髄バスボールから若大将が誠意を込めて握った渾身の一作が産まれるのだ。



 シュワシュワと溶けていくバスボール。
細かく触れると少しピリピリとする泡と風呂を染め上げる色。
私はその間、どんなお寿司がやってくるだろう、
どんな逸品が浮かんでくるだろうと心躍らせていた。
マグロかな。エビかな。シークレットだったらどうしよう。え、それだとすっごい嬉しいな。でもでもシークレットは何かな、赤貝かな。ちょっと嫌だな。

そんな気持ちに包まれていた私の前にやってきた寿司とは


たまごであった。

マグロかな。エビかな。シークレットだったらどうしよう。え、それだとすっごい嬉しいな。でもでもシークレットは何かな、赤貝かな。


たまごであった。




私は今何が起きたのかわからなかった。

私はお寿司が好きだ。
新鮮で艶やかなネタとそれを引き立てるために管理された質のシャリの融合。
鮮魚と米の組み合わせは日本の誇りと情熱と魅力の全てを挟み込んでいる。
そんな私の前に現れたのが……え、たまご………?

え、たまご…………?



そう。目の前に現れた寿司は
たまごであった。
私は思わずパッケージ裏面に表記されているコールセンターに電話をかけたくなった。
お宅の商品から、たまごが出た、と。
たしかに、パッケージのカタログにはたまごが載っている。数ある鮮魚達の中にまるで主役の1人であるかのようにたまごが載っている。
例えパッケージにたまごの記載がなく、シークレット枠がたまごだったとしても私はコールセンターに電話をかけたくなっていただろう。



パッケージに載っている満面の笑みを浮かべた若大将に問う。
貴様が私に握ったのは、たまごなのかと。
脳をかち割られ絶命したためか、若大将は何も答えない。何も応えない。
いや、若大将は敢えて無言を通しているのか。
そうだ。お前に握ったのは、たまごである、と。
無言の圧でメッセージを伝えているのか。



私は目の前が真っ暗になった。
それはのぼせたとかでもなく、
よりにもよって、よりにもよって、たまごが出てきたことへのショックだった。



なんでたまごなんだ。なんでたまごなんだ。なんで海苔巻いてるんだ。

そもそも中からおもちゃが出てくるバスボールの名前って「びっくらたまご」だよな。
なんでたまごからたまごが出てくるんだよ。



卵が先か鶏が先かの問いに新たな説がいま生まれた。
後にも先にもたまごなのである。
だってしょうがないよな、若大将がそうしたんだもん。
もはや後先のことなどどうでもいい。いま私は目の前の現実という名の地獄に翻弄されているのだ。



私は無心で浴室内のリモコンのうえにそれを置くと、
風呂から上がり、全てを忘れ、今までの日常に戻っていった。




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