ラクトバチルス属乳酸菌とは?その働きや、菌を増やす食べ物についても解説します
ラクトバチルス属乳酸菌について
「ラクトバチルス属乳酸菌の働きや妊娠との関係について詳しく知りたい。」
アイジェノミクス・ジャパンにも、ラクトバチルス属乳酸菌についての疑問や悩みが多く寄せられています。そこで今回は、子宮内環境を整えて妊娠をサポートしてくれる乳酸菌、ラクトバチルス属についてまとめてみました!
発酵食品などでよく知られる乳酸菌は、糖を分解して乳酸を産生する細菌の総称です。その乳酸菌群の中でも代表的なのがラクトバチルス属。「乳酸桿菌」と一般に呼ばれる場合にはラクトバチルス属をさしていることが多いです。
ラクトバチルス属には200以上もの多様な菌種が分類されています。
細菌というと一般的には病気の原因というイメージですが、実はヒトの体内には特定のタイプの細菌が存在して活動している状態(フローラ、細菌叢ともいいます)があり、そうした細菌を常在菌と言います。さらに、常在菌の中には体の働きを助ける役割や、病気の原因となる他の細菌の活動を抑える役割をしてくれているものもあります。ラクトバチルス属というグループに分類される細菌の仲間は常在菌の代表的な存在です。
ラクトバチルス属の働き
ラクトバチルス属の仲間は主に小腸に住み着き、食物の分解を促進したり、タンパク質やカルシウムなどの栄養素の吸収率を高める働きをしています。
下痢・便秘などの有害な症状を引き起こす微生物を抑えるほか、糖から乳酸を作り腸の働きを正常に保ちます。
また、健康な女性の腟・子宮内においても、ラクトバチルス属は細菌叢を構成する中心的な細菌のグループであり、カンジタやその他の感染症の原因となる細菌の増殖を阻害する物質を産生し、腟内・子宮内の環境を正常に維持する働きをしてくれます。
ラクトバチルス属の働きの乱れは様々な疾患と関係することが研究で報告されてきました。ラクトバチルス属の細菌の働きを利用した治療が試みられてきた病気には、胃痛・花粉症・下痢・便秘・湿疹・アレルギー・糖尿病・高コレステロール・むくみ・口腔粘膜炎・上気道の感染症・関節リウマチなどがあります。
妊娠との関係
ラクトバチルス属の働きは妊娠においてもとても重要です。
特別な原因がないにもかかわらず、不妊治療(体外受精)を行ってもなかなか妊娠しない方や流産を繰り返してしまう女性では、子宮の中に慢性子宮内膜炎と呼ばれる状態が生じていることがあります。そうした女性の約40~60%に慢性子宮内膜炎が確認されたという報告もあります。
慢性子宮内膜炎の原因は完全には解明されていませんが、子宮内の細菌やウイルスの異常な活動が原因であるという説があります。それらの病原性の微生物により、子宮内膜に持続的な炎症が起こることによって活発化した免疫システムが、受精卵を攻撃してしまうという可能性が指摘されています。
正常女性の子宮内に存在するラクトバチルス属は、そうした子宮内に持続的な炎症を引き起こす細菌の活動を防いで子宮内環境を整える役割があると考えられています。
実際に、子宮内の細菌叢(子宮内フローラ)の、90%以上をラクトバチルス属が占めている女性は、そうでない女性に比べて妊娠率が大幅に高くなることが分かっています。
ラクトバチルス属の乳酸菌を増やすには?
子宮内のラクトバチルス属細菌を増やす方法はいくつかあります。
最も効果的な方法は、ラクトバチルス属の菌そのものを含んだプロバイオティクスを使用することです。
プロバイオティクスとは、微生物(善玉菌)を含む食品やサプリメントのことで、子宮内環境の改善を目的とする場合には、腟座薬を用いて腟内のラクトバチルス属を増やすのが最も効果的とされています。
腟内と子宮内の細菌叢は必ずしも同じではないことが分かっています。しかし、子宮に最も近い、腟内にラクトバチルス属を増やしてあげることは、結果として子宮内環境の改善に繋がります。
ただし、悪玉菌が多い環境では、ラクトバチルス属の増殖が阻害されてしまうことがありますので、子宮内環境の検査・治療を受けてからプロバイオティクスの利用を開始されることをおすすめします。
子宮の中の細菌の状態を調べて、不妊治療に役立てたいとお考えの方には、EMMA検査がおすすめです。
子宮内の細菌叢において、特定のラクトバチルス属が優勢であることは妊娠を助ける重要な要素です。しかし、一方で、かつて子宮内は無菌だと考えられてきたように、そもそも菌がほとんどいないという状態も考えられます。つまり子宮に菌がほとんどいない状態だと、妊娠を助けるはずのラクトバチルス属もほとんど存在していないということが言えます。
EMMA検査では、ラクトバチルス属とその他の菌の「割合」だけでなく、子宮内の菌全体の「量」も考慮したうえで、最も効果的だと思われる治療法が推奨されるので安心です。
菌の割合ばかりに注目してしまうと、菌がほとんどいないにも関わらず抗生剤による治療が推奨されてしまったり、ラクトバチルス属がほとんどいない状態でも、ラクトバチルス属優勢であれば結果が良好だと示されてしまうため注意しましょう。
悪玉菌が多く存在していてラクトバチルス属の割合が少ないような場合は、抗菌薬(いわゆる抗生物質)での治療が推奨される事があります。抗菌薬を使った治療では、全身の細菌バランスに影響してしまうような広域な抗生剤の処方がされることもありますが、EMMA検査では、検出された菌の種類に合わせて最適な抗菌薬を推奨してくれるというメリットもあります。
ラクトフェリンとの違いは?
ラクトバチルス属に似たラクトフェリンという言葉があります。どちらも腸・腟・子宮内の細菌の環境を整えるという効果を期待して利用されていますが、この両者は全く異なっており、ラクトバチルス属は上に記載したように細菌そのものの種類のことであり、ラクトフェリンは細菌の活動に影響を与える多機能性タンパク質の一種です。
ラクトフェリンは、母乳や子宮頸管粘液に含まれるタンパク質で、鉄と結合することにより悪玉菌の増殖を押さえます。ラクトバチルス属は増殖に鉄を必要としないためラクトフェリンによる細菌増殖抑制の影響が少なく、結果的にラクトバチルス属だけが体内で増殖し、腸内・腟内の常在細菌の活動ネットワーク(フローラ)が改善する、という関係があります。
しかし、子宮内の場合は、もともと非常に菌の量が少ない環境である、ということが重要なポイントとなります。ラクトフェリンはラクトバチルス属を直接増やす作用はないため、ラクトフェリンの効果が子宮内では十分には発揮されない場合も考えられます。
アイジェノミクス・ジャパンでも、長期間ラクトフェリンを服用し続けているのに子宮内フローラの改善が見られなかった、という問い合わせをいただくことがありますが、EMMA検査をご利用いただく女性には、子宮内にラクトバチルス属がほとんど見当たらない、という方も少なくありません。
この場合も、子宮内細菌の「量」をしっかりと見極め、子宮内が無菌に近いような場合は、プロバイオティクス治療で直接的に菌を増やしてあげるほうが効果的である、という判断ができると良いでしょう。
子宮内フローラを調べるなら、やはり菌の量と割合の両方に着目し結果をお届けするEMMA検査がおすすめです。
EMMA検査について相談できるクリニックの一覧はこちら。
ラクトバチルス属の乳酸菌を多く含む食べ物
ラクトバチルス属の細菌は、発酵食品に多く含まれていると言われています。
・乳酸菌飲料
・ヨーグルト
・チーズ
・麹菌を含む味噌
・醤油
・ぬか漬け
・納豆
ラクトバチルス属の細菌のエサとなる食べ物は水溶性の食物繊維とオリゴ糖を含んだ食べ物とされています。
・人参
・さつまいも
・大根
・大豆
・玉ねぎ
・にんにく
・牛乳
・はちみつ
・ごぼう
これらの食品から、ラクトバチルス属乳酸菌を積極的に摂取していきましょう!
乳酸菌ラクトバチルス属についてのまとめ
今回の記事では、ラクトバチルス属とはどのような菌なのか、また働きや妊娠との関係などについてまとめてみました。
ラクトバチルス属とは悪玉菌の増殖を抑える働きをする善玉乳酸菌の集団である。
ラクトバチルス属乳酸菌が増えることで、膣内・子宮内・腸内環境の正常化に期待ができる。特に子宮内フローラでラクトバチルス属が優勢な女性は妊娠率が高くなることが最近の研究によって明らかにされた。
ラクトバチルス属乳酸菌を増やすには、プロバイオティクスの使用が最も効果的である。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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監修
永松 健 先生
東京大学大学院医学系研究科 産科婦人科学講座 准教授
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医|日本周産期・新生児医学会 周産期(母体・胎児)専門医 ・指導医|日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医|日本超音波医学会 超音波専門医
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