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新潟時代11.厚生地区を貸す

 当社は新潟駅から車で10分程の市街地にあり、精密部品の工場としては、分不相応に広大な土地を持っている。主要な県道に面し、商業地や物流拠点として土地を借りたいとの話が頻繁にあり、工場の空き地をパチンコ、ショッピングセンターや倉庫などに貸していた。好調な本業に土地の賃貸料も加わり、文句なしの業績を維持して財務体質も万全だ。
 
 工場と道を隔てたところが、厚生地区になっており、広々とした敷地に独身寮、体育館、社宅が点在し、200ヤードのゴルフ練習場もあり、一般向けに営業している。私は、家内と共にその社宅に住み、連日夕食前に30分程ゴルフ練習で打っていた。
 
 その頃、新潟市が巨費を投じて、信濃川河口に地下道が建設されて、当社に面している県道が、下町の繁華街に直接繋がった。県道の交通量が急増し、当社の近辺は格好の商業地域となった。当然の帰結として、新潟では最有力の某スーパーが厚生地区の土地を貸してくれと、当社に攻勢をかけてきた。社宅、独身寮、体育館、ゴルフ練習場を撤去し、スーパーと家電を中心としたショッピングモールをつくるとのこと。道路を挟んだ当社の工場敷地内で別のスーパーが、営業中だが、全く気にしない。
 
 厚生地区を貸すとなると、社宅や独身寮の、入居者に近隣の賃貸に移ってもらわねばならない。体育館を使っている近隣の人たちはどうするのか、個人的にも、ゴルフ練習場がなくなったら、腕が落ちる。貸せば、それなりに利益は増えるが、今は、業績に何の問題もなく、慌てて貸すほどのことではないと、返事を先延ばししていた。
 
 当社はNO2の常務が窓口で、私と相談しながら対応していた。当社が返事を延ばしていると、某スーパーは徐々に値段を上げてくる。その頃、大店法の期限が迫り、ある時期を過ぎると、大規模店舗の開発が出来なくなるのだが、それを持ち出して、スーパーは貸せと迫ってくる。こっちは貸さなくてもかまわないと、放置していると、これが最後とばかり、破格の賃貸料を提案してきた。そこまで言うなら仕方がないと了解した。考えていた通りの展開だった。
 
 社宅は老朽化して人気がなく、10家族程度しかいないから、補助を出して民間に移ってもらうのは簡単だった。私も直ぐ近くのマンションに移った。練習場がなくなり、ゴルフの腕が落ちたが、仕方がない。1年後、風景は一変し、10数店のショッピングモールが出現した。
 
 開店以来、結構な繁盛だが、近所の某スーパーは閉店し、個人商店も少なからず影響を受けたようだ。元々新潟市の人口が増えてはいないのだから、全体の購買量も増えるわけではない。あちらで買っていた分をこちらで買うに過ぎないから、新たなショッピングモールが、地域経済に貢献しているわけではない。
 
 開発などせずに、潤沢な空き地に植わっていたヒマラヤ杉やゴルフ練習場の緑の芝生を残したほうが、地域の環境保全になったのではないかと思う。体育館で剣道の練習をしていた子供達はどうしているのか、気にはなるが如何ともしがたい。

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