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姉の家庭教師

 国葬が行われた安倍元首相の、学生時代の家庭教師は
当時現役東大生の平沢勝栄氏だった。

  昭和30数年、些か旧い話だが・・・
私が小学生の時、中学生の姉の家庭教師として、
現役の東大生が来ていた。
英語や数学を週に3回教えてもらうのだが、一緒に食事をし、
私も諸々の相談ができる、頼れるお兄さんだった。

  彼は典型的な文武両道で、東大野球部の中心選手、
一貫して1番ショート、それなりの成績を残している。
当時の六大学リーグは立教に長島がいたりして人気だったから、
テレビ中継にも時々登場していた。

  体型は、特別に大きくはなく、どちらかと言うと細身、
感情を露にするような事はなく、淡々として気負いも衒いもない。
母はそのへんが気に入っていたようで、
姉が無事に入試を終えた後も時々家に招き、彼も気軽に訪れて食事し、
たまには私のキャッチボールの相手もしてくれた。

  中学生の時、彼に
駒場祭(東大の学園祭)に連れて行ってもらったがある。
中学生の男の子の案内など、さぞつまらないだろうとは思うが、
そんなそぶりも見せず、丁寧に案内してくれた。
母は、姉を好きなのでは、などと言っていたが、冗談の範疇だろう。
当家とのお付き合いは仏文科の大学院時代も続いたが、
その後フランスに留学し、帰国後は大学教授となり、
今は文筆業をしている。

  余談ながら、後年、東大に入った次男の空手演舞会を見ようと、
駒場祭に行ったことがあるが、
中学生の自分を連れて歩いた彼を思い出し、
息子の空手演舞を見ている今の自分を思い、
40年の年月が、長くにも、短くにも思えて感慨にふけったものだった。

  彼は私より13年上だから、(ご存命なら)現在89歳。
フランス文学、特にサルトルの研究者として知られている。
翻訳が多いが、著書も少なくない。
「戦後が若かった頃」「かくも激しき希望の歳月」
「祖国より一人の友を」など真面目なものが大半だが、
20数年前に、軽いエッセイ風の「シングルライフ」が当たり、
ベストセラーになった。

 「シングルを続けてきた僕にとってさびしさはまったくない。
もともとさびしさや弱さを自覚したところで出発したわけだから。」
だそうだ。

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