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12 sisters who tick away time

CASE OF No.0 プロローグ

12の姉妹の女神達は人の心から産まれた。
彼女達は心の内から人を自分達の使命のために導く。


CASE OF No.1 空白の揺り籠 アスターピース

 どうしてアナタは苦しんでいるの?そんなに未来が不安なの?苦しんでいても明るい未来はないわ。
だから今はただ思い出して。目を閉じて、ゆっくりと、最近のことから昔のことまで。ひとつ何かを思い出せば、ほらまたひとつ何かを思い出す。そうやってどんどん色々な事を思い出していきましょう。未来へ続く歩みを止めて、今はただ立ち止りましょう。上も前も見なくていいの。何も見なくていいの。
 思い出を手繰り寄せ続けて、思い出の中だけ生きましょう。現実なんて辛いだけだもの。だから今は思い出の揺り籠で眠りなさい。思い出だけがアナタを満たして守ってくれる。思い出して思い出して、最後には何も思い出せなくなって、真っ白な追憶がアナタの心を溶かして、消してくれるから。だから今はオヤスミナサイ。
それが出来たら、アナタはもう前には進めないわ。思い出に絡みつかれて、身動きもとれず純白の闇に堕ちてくの。追憶という闇に。


CASE OF No.2 夢は蜜 カモミデ

 どうしてアナタは泣いているの? とても辛い思いをして心が傷ついたのね? アナタに涙は似合わないわ。
だから今は目を閉じて、楽しい思い出を思い出しましょう? ほら、あの日あの時感じた想いが溢れて来るでしょう? 愛し愛された日々、あの人と共に育んだ思い出がきっとアナタを強くしてくれるわ。満たされていた日々が傷ついたアナタの心を癒して、もっと満たされるようになれる。それが出来ればあなたの心の傷口は塞がれて、もっと楽しい未来を描くことが出来るの! だから今は思い出に甘えましょう? 
 思い出はいつだって優しくアナタを迎えてくれる。冷たくなってしまった心も、乾ききってしまった心も、傷だらけになってしまった心さえも優しく抱きしめてくれる。今は思い出にすべてを委ねていいの。
 思い出は甘い罠、一度その甘さを知ったら人はもう抗えない。ずっと思い出に縋って、甘い思い出を啜り続ける。もうアナタは思い出から抜け出すことなんてできないわ。甘い闇に堕ちていきなさい。


CASE OF No.3 喪失の行方 グラジオラス

 キミは何に嘆いているの? とても悲しい思いをしたんだね。だったら忘れちゃえばいいよ。
 苦しいことも悲しいことも、何もかも忘れて新しい思い出を作っていけばいいんだ。そうすればそんな嫌な想いをする必要なんてなくなるんだよ。だからさっさと忘れて次に行っちゃいな。新しい思い出をたくさん作って嫌な思い出を塗りつぶして、書き換え続けるんだ。みんなそれをやっているし、そのほうがとても人間らしい。都合の悪い事を忘れて、自分の都合のいいことばかりの思い出を作っていけばキミはずっと満たされて、幸せに生きていけるんだ。
 忘れることは悪い事じゃないんだよ。嫌な思い出を溜めこんだっていいことはないし。だから何もかも忘れちゃって良いんだよ。
 何がダメだったのかも、自分の都合の悪い思い出も全ては忘却の彼方。だからキミは何も変わらないし、変われない。過ちを恐れ、目を背け忘れた先でキミは何度も同じことを繰り返すんだ。いくら前に進んでも、何も変わらないのなら未来を歩んでる事にはならない。もう、既にキミは過去の人間だ。


CASE OF No.4 栄光のみの世界 グロリオサ

 お前の顔、とても疲れた顔をしているな。昔を思い出してみろよ。前のお前はもっと輝いていただろ。もっと頑張っていたじゃないか。
 幼い頃の輝かしい栄光から、最近あったいいことを思い出してみろ。自然と自信が付いてくるだろ? 当り前さ、お前が歩んできた道じゃないか。誰もがお前を羨んでいるぞ。小さな幸福から大きな幸福までも。でもな、思い出に浸ってるだけじゃ本当の自信は出てこない。思い出を口にしてみろ。誰かに言いふらすぐらいしなくちゃ、本当の自信なんて出てこないんだ。もし、不安になったなら昔の話をしてみろ。誰もがお前を褒めて、慕ってくれる。過去を隠すだなんてもったいない。もっと前面にだしていけ。
 だが、その時点でお前は過去に執着している。もうお前は過去の栄光にしか自信を持てない。お前が口にする栄光なんて、所詮は過ぎ去った過去の産物。色褪せたガラクタ。誰もお前を尊敬しないし、羨んだりもしない。一生その過去の栄光だけを眺めてな。


CASE OF No.5  すり抜けるもの エーデルワイス

 最近ついてない、なーんて思ってる? それは間違いだよ。それは幸せが当たり前になり過ぎて気が付いてないだけなんだよ。思い出してごらん。色んな景色を見れたり、知らなかった音楽に出会えたり、誰かと楽しくお話出来たりする。それは君だけの幸せのカタチでしょ? 結婚することが幸せじゃないし、子供を産むことが幸せだとは限らない。幸せっていうのは色もカタチも人それぞれなの。みんなが勝手に「幸せっていうのはこういうのだ」ってカタチを作っちゃっているから実感出来ないだけ。
 だから自分だけがって落ち込む必要はないよ。気が付いていないだけ、人とは違う自分だけの幸せのカタチが必ずあるんだから。
 でも幸せは永遠じゃないんだよ。始まれば終わるように、人が生まれて死んでいくように幸せに気が付いたら失われていくんだ。さびしいね、ずっとは満たしてはくれない。永遠はやって来ないし、カタチあるものは壊れるんだよ。幸せを失うことを恐れ、君はこれから終わりまでの時間を惨めに怯えながら過ごすんだ。どんなに幸福を大事に握りしめてもその指の間からすり抜けて落ちてくのにね。その手にあるのは幸せなんかじゃなくて、絶望への片道切符だよ。


CASE OF No.6 現在を創るもの カメリア

 後ろを振り向くなって、誰が悪い事だって決めたの? よく考えてみて? 過去というのは今までアナタが生きてきたという事実を証明するもの。あなたの父と母が出会ったという過去、愛し愛しあったという事実。その果てにあなたという命が誕生したという過去があり、今のあなたがあるの。自分が今ここに存在しているという事実を見ちゃいけないなんておかしいでしょう? 
 どうして自分の歩んだ道を振りかえってはいけないの? 今あなたが好きだと感じるのも、嫌いだと感じるのも今まで歩んできた過去のお陰なのに。過去の積み重ねの上に今があって、未来もある。未来に向かって歩くのも大切だけど、過去を振り返るのもとても大切なことなんだから。
 いくら過去を否定しようとしても、過去は既に起きた事実。揺らぐことのない真実。そしてすべては過去になる。こうしている間にも時間は流れて、現在は常に過去へと移ろい未来さえも過去になる。過去の否定、それはすなわち“あの日の未来”の否定につながる。あなたがこれから歩む未来も、未来のお前は否定しているんだ。


CASE OF No.7 満たされぬ思い出 ライラック

 誰にだって輝いていた時間がある。アナタもそうだった時があるでしょう? あの甘酸っぱくて、苦くて、それでいてどこか満たされていた時間が。目を閉じて思い出してみよう。胸をきゅっと締め付けられるけど、それさえも心地よくて、大変だったけど満たされていたよね。今もそれと変わらないんだ。毎日何かに追われる日々に心が少し乾いてしまっただけ。だからその乾いた心に水をあげて上げるんだ。たまにあの頃に戻って何かするだけでもきっとあの時みたいに輝くことが出来るはずなんだ。
 閉じてしまったその扉をもう一度開いてみよう。
 そして始まるのは思い出の飢え。心はあの日の輝きを求めるが、身体がそれについていくことが出来ず、他者に自分を重ねて満たされようとする。しかし、その飢えは満たされることはない。あの頃に戻りたい、あの頃のような輝いた恋愛をしたい、青春を謳歌したいという想いは日に日に増していく。そして始まるのは自分の偽装だ。満たされることのない想いを埋める為に自分を見失い、いつか道を踏み外す。過去に囚われたばっかりに。


CASE OF No.8  一本道の分かれ道 リリー

 人は生きているうえで常に選択肢を迫られているの。あれを食べるかあっちを食べるか、あの店に行くか行かないか、まだ起きているのかもう寝るのか、あれをするのかこれをするのか。迷ってしまうことばかりだけれど、それらは必ず未来へ続いて未来のアナタを創るの。もしもの数だけアナタが存在しているの。つまりアナタには無限の可能性が秘められているの。例えどんなに歳をとっていても、生きている限りその可能性はみんな平等に与えられている。その可能性の選択肢で可能性を信じて動くかすべてを諦めて選択することすらも放棄するのか。決めるのは全部アナタ次第なんだよ。
 でも、選択肢の選んだ先は結局同じ所に行きつく。それは後悔。その時どんなに最善の選択をしても人間は必ず後悔する。「あの時ああしていれば」「やっぱりしていればよかった」と。そもそも人生が選択肢で成り立っている以上、後悔のない人生などあるはずがない。後悔していないんじゃない。後悔したことに後悔しないように「仕方ない」と心のどこかで諦めて、妥協で後悔を誤魔化しているだけに過ぎない。そうやっていつまでも自分を誤魔化し続けていればいいの。どんな選択をしても、辿り着く場所は“後悔”という一つの道なのだから。


CASE OF No.9 螺旋の淵 エリン

 後悔しているのね? あの日のことを今もずっと。後悔することは悪いことではないの。生きているが故の必然なのだから。後悔していない人間なんてこの世界にどこにもいない。後悔は後悔を呼び込んでしまう。後悔したことに後悔して、どんな選択をしても後悔してしまう。後悔に負けない強い心を持つことが出来れば、きっとアナタは後悔に打ち勝つことができる。諦めないで、後悔に。
 でも後悔し、実感した時点であなたの負け。後悔を感じ、実感し、言葉にした瞬間にあなたは終わりのない後悔の螺旋へと転がり落ちてしまった。後悔は後悔を呼んで、どれだけ足掻いても足掻いたことに後悔する。後悔を妥協で誤魔化すことなんてできない。人間はそう単純な生き物ではない。後悔にあらがうな、すべてを受け入れろ。後悔することこそが人間であり、後悔していることが人間の本来の姿。後悔こそが未来を生み出すのだから。後悔だけがあらゆるものを創造出来るの。


CASE OF No.10 帰れない日々 クロ

 幼き日のことを覚えている? 人を疑うことさえも知らないあの日のことを。あの日を懐かしむことは恥ずべきことじゃない。愛も知らずにせがみ何度も読んでもらった物語の数々、好奇心に胸を躍らせ生き物を追いかけまわした日々、大人達を困らせ叱られた日々、物言わぬ人形を連れて回した日々。すべてはアナタが経験してきたこと。心がアナタの今を形成するすべてを覚えている。だから思い出して懐かしむのは必然なこと。
 帰っておいで、心のふるさとに。心はあの日に帰りたがっている。静かに瞼を閉じて、辛い毎日を手放してあの日に導かれて眠りなさい。いつか心が癒されたら、帰ればいいの。
 そう、心の求める場所は過去なの。心が過去を覚えている。心は未来を知らない、だから唯一心が覚えている過去を求め、縋りたくなる。いくら求めても帰れないあの日々に。
追憶から産まれる懐かしさと覚めた時の虚しさに挟まれた心は何を求めるか。いっそ何も感じなくなれば、それを心は願っている。


CASE OF No.11 幾千の顔 幾万の嘘 シネレ

 あなたは今までついて来た嘘の数を覚えているかしら? あなたは何回その心を押し殺してきたのか覚えているかしら? 覚えていない、無理もない。嘘はあなたを守ってくれる手段のひとつ。偽る事は人が生きる為に必要なものであり、目を背ける手段でもある。悲しいことから目をそむけなさい。自分を偽り得られるものがあるのならば、偽ることは悪ではない。
 あなたは嘘を吐き続けた。それはまるで今まで訪れた幾千の夜空のように。あなたは仮面をいくつも持っている。それはまるで夜空に輝く幾万の星々のように。本当のあなたはどこにいて、何をみているの? 小さな嘘はまた嘘を呼び、その嘘を嘘で誤魔化し、気が付けば一欠けらにも満たない小さな嘘が隠しきれない大きな嘘に膨れ上がっている。自分の気持ちを偽り、心を偽り、あなたは何を得た? もし、なにかを得られたのであれば、それは、そう。それもまた『偽り』だ。
 でも、過去は『偽り』さえも真実にしてくれる。あなたが『偽ったという真実』が過去に刻まれる。誰かが覚えている限り、永遠に。


CASE OF No.12 逃げられぬ過去 ヘリクリサム

 すべては過去となる。現在も未来も、時が流れ続ける限り過ぎ去り思い出となる。思い出、すなわち過去。所詮、人間は過去に囚われているのです。なぜ生きているのでしょうか? それはこの世界に産み落とされたという過去があるからです。変える事の出来ない、生まれたという事実が。そして未来を描くことさえも過去におこった自分の出来ごとが必ず影響される。そう、誰も未来は経験したことが無いから、今までの経験すなわち過去を参照して未来を築く。あなたが今感じている感情も、行動理念も、未来を描くその夢も、過去の産物。いくら言葉を変えようと、元をたどればすべて過去。普段何気なく発している言葉も、何気なく使う文字も、身近にあるものはすべて過去から産まれたもの。未来から産まれたものなど一つもないのです。
 それなのになぜ過去を否定するのか。常に過去に移ろう世界に生き、身の周りには過去の産物で溢れているのに。それはあなた達が既に過去の鎖に繋がれた人形でしかないからなのです。人形故に、己を操る糸に気が付かない。
 過去はいつまでもアナタを追いかけ、捕え続ける。あなたに過去がある限り。


CASE OF No.i エピローグ

人々が思い出を振りかえると1が生まれた。
1は追憶を司った。

人々が傷つき涙すると2が生まれた。
2は甘えを司った。

人々が思い出を塗り替えると3が生まれた。
3は忘却を司った。

人々が自分の過去を語ると4が生まれた。
4は固執を司った。

人々が幸せを想うと5が生まれた。
5は不安を司った。

人々が未来を描くと6が生まれた。
6は否定を司った。

人々が青春を求めると7が生まれた。
7は飢えを司った。

人々が決断をすると8が生まれた。
8は選択を司った。

人々が後悔すると9が生まれた。
9は悔恨を司った。

人々が帰りたいと想うと10が生まれた。
10は虚しさを司った。

人々が思い出を偽装すると11が生まれた。
11は嘘を司った。

人々が時間を認識すると12がいた。
12は過去を司っていた。

人々が過去を受け入れると、彼女たちは消えた。

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