もうコイツと一緒にいるのは嫌だ!(4)
クリスマス休暇 お世話になった シリルの友達の家を出て
旅を続けることにする。
海岸線にある 観光名所を回りながら 次の目的地はメルボルンだ。
あの狭い車で寝泊まりして
朝はどこかの公園か海岸で 水シャワーの日々が続く。
朝はクッキーをかじって 昼はどこかファストフードで外食
夜はチョコレートだけ。
自炊道具を持ち歩いていないシリルとの旅は
食生活レベルとしては かなり貧困だった。
食べたい米も食べることができず すこしずつ 澱のように
悶々とした感情が 溜まってくる。
そんな中 決定的に 「もうこいつとは一緒に居られない!」と
思う事件が勃発する。
移動途中には 数々の国立公園があって
ここに行きたいな思ったところには 行ってみることにしていた。
その日は 未舗装の道路が延々と続く森の奥の奥にある
国立公園が目的地だった。
ほとんどすれ違う車もない 砂利のガタガタ道を進む。
車が入れる場所の突き当りに駐車場があり そこに車をとめると
あとは 徒歩だ。
その森の遊歩道を 3~4時間歩いて 滝を見たり
珍しい植生の森を見たりして 帰ってきた。
結構疲れていたし あんまり観光客が来ていない
大して見どころのない 「美しい手つかずの自然の森」
は、パッとしなかったから 二人は会話もなく静かだった。
とりあえずまた 未舗装の道路を走って 森を出よう。
と、シリルは何を思ったのか
本当に人っ子ひとりいない道で 気持ちが大きくなったのか
猛スピードで走って 急にブレーキをかけて回転する
「ドリフト遊び」を始める。
何をかんがえてるのか良くわからないこの人は・・・と
思いながら ドアの取っ手に必死にしがみつく。
「ねえ、ちょっとぉ そろそろやめようよぉ・・・・」
全然面白くない私は助手席で必死に身を固定しながらつぶやく。
ほんと、やめてくれ!そろそろ耐えられん!
と思っていると
白い煙が 車の後ろから立ち上っている。
え・・・・え・・・・え・・・・
「ちょっと!ちょっとぉ~~!!!」
ドリフトシリルをやめさせて 車の外に出てみる。
見事に前後のタイヤがパンクしている!
前後のタイヤって・・・
たしかスペアタイヤって 積んであったとしても
ひとつじゃないかな・・・
人っ子ひとり通らない 森の奥の砂利道で
一体この人は なにをしでかしてくれたのか。
夕方にはここを出ないと
たぶんこのままここで夜を過ごさないとならない。
でも どうやって ここから出たらいいんだろう。
そのまま数時間 誰かが たまたま通ってくれないかな・・・と
沈黙の底に沈みながら待っていた。
雨も降ってきた。
そこに 信じられないことに 車が一台通りかかった!
必死で止めて、神にすがる気持ちで事情を説明する。
その車に乗っていた親切な女性は 一番近くの町までシリルを乗せて
往復一時間もかかるのに タイヤを買って帰ってくる 手助けをしてくれたのだ。
雨の降る 夜を間近にした 薄暗い道を。
そんなことがあって 私の中でフラストレーションが
どんどん膨らんでいった。
毎晩寝る場所を探して神経をすり減らすのは嫌だったし
急にガソリンが切れて走れなくなって
小さなのガススタまで歩いたのに従業員がいなくて
朝まで待ったり・・・
(田舎のガススタは、あの給油機みたいなのがぽつんと置いてあるだけ)
自炊して米が食べたかったし
チョコレートだけの夜ご飯はうんざりしていたし
もう嫌だなあ
普通のバックパッカーみたいに
長距離バスに乗って宿に泊まる 旅がしたい。
と 思い始めたその頃。
疲れてきたんだと思う、珍道中を超えて
もう珍しくもなくなってしまった すべてのハプニングに対して。
わくわく感も感動もなんとなく消えていっていた。
そんな気持ちをかかえたまま
とりあえず メルボルンで年越しをして
そのままシドニーまで走る。
街の景色は
世界中どこにいってもそんなに変わらない景色なのは
どうしてだろう?
なんとなく街に居てもそれほどわくわくすることもなく
シドニーまでたどり着く。
シドニーに着いたら シリルと別れて
一人旅に戻ろう。
そう決めた心はだんだんと コンクリートのように
しっかりと固まりつつあった。
(つづく)
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