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初秋というより晩夏みたいな9月の長野旅(2)


前回のあらすじ

長野県に行ったよ!
お牛さんと会って、アホみたいな量のご飯を食べました。覚えろ、加減を。

2日目早朝

2日目の早朝。5時半に起床。宿近くの美ヶ原高原美術館の方面に車で向かう。目的は日の出と雲海のセット。美ヶ原高原美術館とは、その名の通り、美ヶ原高原にミロのヴィーナスを始め様々な彫刻作品がレプリカ含め屋外に展示されている施設で、美術館のあるエリアは標高が高いため、日の出は拝めるとか拝めないとかそんな話を聞いていた。朝ウキウキしながら起きたのだが、先に結論から書いてしまうと雲海は見られず、前日から引き続いて天候が悪く雲海は臨めなかった。

美ヶ原高原美術館脇の道から。

宿から車で向かうも、まず前方後方すべてが霧。視界が悪すぎて、対向車も恐る恐る車を走らせるほど。ヘッドライトが海底を進む潜水艇くらい頼りない。
なのに実際に美ヶ原高原美術館の駐車場に停めると、悪天候にもかかわらず、こんな朝早くからめちゃくちゃに車が停ってるしめちゃくちゃ若者が多い(一応私も若者ではあるのだが…)。何が楽しいのか、霧なのか靄なのかわからない天候でもはしゃぎまくり朝っぱらから嬌声を上げている。何が楽しいんだか…
などと毒づきながらも、私は私でテンションが上っていて、ヴィーナスライン脇を歩けるようになっている歩道を霧の中探り探り歩いては、『ミスト』じゃん!!と嬉しくなっていた。単純。
山本小屋に戻り、車から降りて宿の自室に戻る前に、駐車場近くにある牛伏山に懲りずに登ってみるも先と同じく霧で全く何も見えずてっぺんまで行く前に引き返す。途中登っているおじさんと仲良くなった。どこから来たんですか?え、徳島ですか?今年のお盆に行きました!自分ですか?奈良なんですよ。え?いやいや、奈良なんかそんな徳島なんかに比べたら何も無いっすよ、鹿だらけで…といつも通りの奈良県民に許された奈良県卑下トークで盛り上がりながら、そのまま牧場に行くその人と別れて、部屋に戻る。
部屋に荷物などを降ろして、早朝のツアーに参加。山本小屋さんは夜も朝もツアーを企画されていて、お宿だけで十分に最高なのにさらに無料でツアーまでついてくる。ぜひ行かれるべし。
さて、気を取り直し、晴れて雲海を…と一縷の望みに賭けるも、またも結論から書いてしまうと雲海の「う」の字も見られなかった。もうこればっかりは仕方ない…
とはいえ、ツアーはめちゃくちゃ楽しかった。
まず、牧場近くのポニーちゃんに昨日から引き続き餌やり。もうぶっちゃけこれだけで楽しい。私の知り合いの知り合いくらいの人が、以前旅行先の宿の近くにポニーの餌やりコーナーがあって、時間がないのにあまりにその馬の愛くるしさから離れがたく、あとのスケジュールを遅らせてしまった、という話を聞いたが、その気持ちめちゃくちゃわかる。この食べっぷりと愛嬌。清々しい。食べ盛りのラグビー部員に大量のチャーハンやら唐揚げを食らわせる食堂のおばちゃんの気持ちもわかった。こんな体験でわかるな。

レンくん(もう一頭いる母ポニーの息子)

もう一つのホテル、王ヶ頭ホテルの方面にバスを走らせる。
ツアーにはホテルの従業員2名が引率していただいたのだが、おしゃべりが上手で朗らかな沖縄出身の方はコロコロして可愛らしかった。もう片方の運転をされていた人は、小柄な女性の方で、割と最近にMT免許を取得したのだとか。しかも一発合格。なんともすごい度胸と実力だが、その度胸と実力に見合う安定した運転を視界が悪すぎる上に凸凹な悪路で披露していて、頼もしかった。なせばなるのだな、とも思った。
王ヶ頭ホテルでトイレを借りる(王ヶ頭ホテルのオーナーは山本小屋ふるさと館のオーナーとご兄弟なのだそう)。
前日の美ヶ原牧場を散歩していたときにも、広がった高原の向こうに見えていたテレビ塔。実際に見るとなかなかに大きく、インパクトがある。ホテルの従業員(明るい沖縄の方)の解説によると、NHKやらSBC信越放送やらはこのテレビ塔がないと松本市あたりの人は見られないという話であったが、濃霧の中見上げると、私以外の人類はもう滅びてしまって、この巨大なテレビ塔だけが一人でどこに送るでもない電波を送り続けている…的な、『渚にて』的夢想に耽ってしまう。グレーの水蒸気でぼやけた視界で見るそれは、ヨハン・ヨハンソンの映画『最後にして最初の人類』を思い浮かべたりもした。

近くに2034mを示す石碑があったので写真を撮っていただく。浮かれダブルピースをしているが、実はこの写真の後ろはすぐ崖のようになっていて、まあまあ迫力があった。20代男性の浮かれダブルピースほど醜いものはない。

バカ面下げおって…
まだ9月で関西は近年屈指の酷暑というのに山の上はBarbour大活躍の寒さでした。

王ヶ頭ホテルをあとにし、運転手さんの巧みなハンドルと軽いハプニングにハラハラさせられつつ、王ヶ鼻までやってくる。

晴れていたらきっとアルプスの山並みが見せる大パノラマが…(日本百名山の3分の1を見ることができるらしいんですよ、だって)という思いは胸にしまいつつ、標高2008mに静置された地蔵数体におののく。そのうちの穏やかな顔をした1体は「福耳地蔵」というらしく、触られまくって福耳なのかどうかもやや怪しくなっているが、それがかえってありがたい感じを出している。ツアー参加者全員が触るので私は遠慮してたが…

画像右が福耳地蔵だったような気がする

江戸の頃から山岳信仰が盛んだとかで、この石仏たちは御嶽山の方を向いているらしい。まあ何も見えませんでしたけど!!(諦め)
帰りの道中で、ヤフオクで除雪車を買おうとした話、近くのレトロと言うには古めかしい小屋で松本清張先生が缶詰になったとか、そんな話を聞きながら宿に戻る。
それにしてもツアーガイドをされた従業員始め、山本小屋ふるさと館の皆さんは本当に楽しそうに働かれていることが伺えて、なんかそれだけで天気とか景色とか後半はどうでも良くなって楽しかった。
霧雨で髪はびしょびしょになったけれど…

2日目朝食 世界一美味い朝食(暫定)

宿に戻り、そのまま朝ご飯。
前日の夕食がとんでもなく美味しかったので、ハードルが上がりまくりの状態での朝ご飯であったが、悠々とハードルを超えてきた。全部美味しい。100点満点中1億点の朝食。最近すっかり主流になったグルメ番組の「〇〇ホテルのシェフが手掛ける世界一の朝食」みたいな紹介を見ては、どれも美味しそうだなあ…と思うのだが、これを食べてしまうと、これ以上の美味しい朝食はないんじゃない…?と思う。どれだけ手を尽くそうと究極食材が全てなのだな…
以下、順番に。

野菜サラダも普段スーパーで食うものとは比べ物にならない鮮度なのは当然。
フルーツにはメロンまでついていて、ちょうどいい食べ頃。
この後にも様々出てくるのだが、牛乳のあまりの美味しさに目を丸くしてしまった。西川きよし師匠ばりに目をひん剥いていたと思う。ぶっちゃけ今回の旅のハイライトはこの牛乳との邂逅と言っても過言ではない。
よく「新鮮な牛乳は臭くないし何も入れなくても甘い!」「牛乳苦手だったけど飲めるようになりました(^^)」なんて話を見たり聞いたりしては、小学生の頃から牛乳だけはどうしても苦手で、給食の時間はぬるくなった瓶牛乳を戻しそうになりながら涙目で一生懸命飲んでは、義務教育課程の理不尽、教育の名を借りた教師の独裁、全然美味しくないコッペパンなどに怒りを燃やしていた私からすれば「嘘こけ、お前そんないくら牛の乳やぞ。いや牛さんには悪いけど、そないなもん調理加工せずに直で飲むのが正気でないのであってやな…」と不信の目で疑ってかかる言説であった。
しかし、どうだ、この今目の前の白い陶磁器にお上品に入れられたこのミルク様は。
一口口に含むと、乳の甘みというのか、爽やかで、添加されていないやさしい大地の、自然の甘みがサーッと舌から喉へ流れていく。な、なんだこれはあああああ…んまいっ!!!!!
嘘じゃなかったです、ホンマでした。マジの牛乳はマジで美味しいです。そして俺が今まで牛乳やいい聞かされて飲んでいた白い液体は、牛乳やなかったです。なんやねんあれは…
などと感動しているうちに、ものの数口でほとんど飲み終えてしまった。おかわりしようかしら…とキョロキョロするも、いやきっとこんな美味しい乳は貴重なものやもしれぬ、などと謎の遠慮を発揮し、聞くのを躊躇った。でも、今思えば聞いておかわりもらえるか聞けばよかったな…
前日のソフトクリームでも体感したことだが、全然普段いただくミルクとモノが違うのだ。圧倒的鮮度。

ピザがまた朝からいただけて贅沢。チーズたっぷりでたまらない。てかデカい!!しかも写真にはないのだけれど、デザートのりんごのピザまで。多いよ!!嬉しい!!

パンもね、くるみのやつも、白いまるまるしたやつも美味しかったし、バターがね、普段ちょっとお高い値段出して買うバターなんか比にならないくらい濃厚なバターでね……完敗です。
世界一の朝食、決定です。
いつかまた、絶対に来るここ!!
そんな誓いと持ち帰り用のパン(!!)を手に名残惜しく朝食の席から立った。
部屋に戻り、チェックアウトまで時間があったので、貸切状態のお風呂を占有しながら浴場で大の字になって浸かる。幸せ。人間のかたちから溶けそう…

チェックアウト~2日目の宿まで

チェックアウトする頃にはまた牧場周辺にへそ出しルックやらストリートファッションに身を包んだ、アウトドアファッションと無縁な若者たちが集まっていた。よくわからない文化である…
そんな若者たちを尻目に、山本小屋ふるさと館の従業員の方に「めちゃくちゃ良かったです!」と別れを告げ、おみやげに牛乳パンとスモークチーズとワインを買い売上に少しばかり貢献する。
早朝より霧が晴れていたので、美ヶ原高原美術館へ再び。
駐車場から日本一高い道の駅を物色し、チケットを購入。
霧の中に浮かぶ彫刻群はGANTZのイタリア編を思い出した。
シュルレアリスム絵画の中に自分がいるようなそんな錯覚すら。

さて、文章が息切れした感じがあるのだが、これは別に今書いている私が息切れしているのではなく、実際道程のこのあたりでガクッと疲れてしまい、次の宿まで運転してもらう間、ほとんどうつらうつらしては、車で寝ていた。そのため、正直あまり記憶に残っていない。
本当は『逃げ上手の若君』やってるから、諏訪大社とか行きたかったのだけれど、惜しいことをした…また次回の旅で行こう。
なので、白樺湖や御射鹿池に寄ってるんだけど、天気もどんよりして見栄えもぱっとせず、ほとんど感動もなく(実際にかなり閑散としていた)、ポイントポイントで立ち寄りつつ車中で微睡んでいるうちに、次の宿に着いていた……
<つづく>

おまけ

2日目のお昼はどないしたんや、と思われるかもしれませんが、なんと山本小屋の方が野沢菜刻んだのがぎょうさん入ったおむすびをたくさんもらっていたので、ちょこちょこつまんでいたのでした。
至れり尽くせりすぎる。ありがてえ……



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