そこそこ終わっている人間と新しいトースター

随分前に、家で使っているトースターが壊れた、という話をしました。あれから少しして、
「いやあれみたけど流石にヤバいよ」
と恋人(公式ではない)に念まで押された私は、新しいトースターを買いました。
新しいトースターは真っ黒で、さらさらしていて、とても素敵です。真っ黒なので、一見すると、“バルミューダのパチモン”に見えないこともありません。“バルミューダ”のパチモンでは決してなく、“バルミューダのパチモン”であるところがポイントです。
何より、新しいトースターは、パンがちゃんと焼けます。焼くということだけに特化したものを購入したため、早いのもいいです。気を抜くとすぐに真っ黒こげ。温度の設定なんていうものはなく、焼くか焼かないかの2択。なんて気持ちのいいトースターでしょう!まさにお値段以上です。

私がそんなトースターに感動しているとき、壊れてしまったトースターを片付けながら恋人が、
「今度のはちゃんと受け皿出して、こまめに掃除するんだよ」
と言いました。私は、
「ん?」
と、声を出してしまいました。
受け皿?とは?です。
その様子を見た恋人は、壊れたトースターを流しに持っていき、下の部分をすっと引きました。パンくずが、煙幕みたいに、わさわさ散らばりました。
「…知ってたの?」
と私は恋人に聞きました。トースターの下の部分が外せるなんて、取り出せて洗えるなんて、私は夢にも思っていなかったのです。明らかに今焼いているパンからではない煙が上がり始めたときも、チーズが下にでろーんと落ちたときも、最悪とは思うものの、どうしようもないものだとばかり思っていました。
「逆に何で知らなかったの?」
それにはもう、我が家にそんな斬新な発想のあるものはいなかったから、と答えるしかありませんでした。最早、何で教えてくれなかったの、という気持ちでいっぱいです。

あの瞬間、必ず、必ずこのトースターはきちんと使おう、定期的に受け皿を掃除して大切にしていこう、と思いました。その決意をしたのは春にもなっていない頃。
そして今にいたるまで、私は1度たりとも受け皿に触れていません。流石にそろそろ重い腰を上げなければならないので、本日はこの辺で終了とさせていただきます。

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