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沼地を漂う森で私は気づいた
和歌山県の新宮に「浮島の森」という奇怪な森があると聞いて、訪れたことがある。
これが浮島の森だ。一見沼地と隣接した普通の森に見えるが、何とこの森、沼に浮いている。
簡単に説明すると、腐った木が折り重って軽い泥炭になり、そこに木が生えた結果、沼に浮く森と化してしまったのだという。
やわらかい泥炭の上に木が生えているだけのため、本来であれば人が立ち入れるほどの強度はない。だが現代では歩道が作られ、森の中を歩けるようになっている。もし歩道をそれたら、底なし沼みたいに沈んで上がってこれなくなりそうだ。
この森の不思議なところは、浮いていることだけではない。10分ほどでぬけられる小さな森の中には130種類もの植物が生い茂り、なぜか北方系のヤマドリゼンマイから亜熱帯系のテツホシダまで共存している。北方系と亜熱帯の植物が同時に生えることはめずらしく、1927年の時点で天然記念物に指定されたという。
なお、この浮島にはある伝説が残されている。
昔、この辺りに「おいの」という美女が住んでおり、浮島の森に、父親と薪取りに来ていた。
「おいの」は休憩してお弁当を食べることにしたが、箸を忘れたことに気づき、浮島の森の中に箸になりそうな木の枝を探しに入っていった。
しかししばらく待っても帰って来ず、怪しんだ父親が浮島の森へ足を踏み入れると、大蛇が「おいの」を飲みこむところだった。大蛇はそのまま沼の中に姿を消したという。
大蛇が消えたのがここだ。木がなくて泥の穴のようになっており、「蛇の穴(じゃのがま)」と名前がつけられている。
私は浮島の森をぬけた。10分ほどでぬけられる小さな森だが、不思議な話ばかりで興味深かった。
帰る途中、ふと思ったことがある。
「おいの」はやわらかい泥炭に足を取られて沈んでいっただけで、その話に尾ひれがついた結果大蛇の伝説になったのではないか。
もしそうだとしたら、
あの下には、今でも「おいの」がいる。
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