蛇は化け物になりがち
日本各地を歩いていて、一つ気がついたことがある。
――蛇って化け物になりがちなのでは?
日本各地をまわっていると、人智を超えた奇妙な生物の伝説に出くわすことがある。
そして、蛇が登場するとそれは大抵、人にとって脅威となる存在として描かれている。
なぜ日本において蛇イコール恐ろしい脅威とされがちなのかを解いていくのも面白そうだが、長くなるし私の専門外になるので、その疑問は皆さんへの宿題として、私は具体例だけをあげていきたい。
①成相寺の大蛇
天橋立の成相寺。
ここには底なし沼があり、大蛇が住んでいたという。
これが底なし沼だ。
昔々、ここに大蛇が住みつき、次々に小僧を飲みこんでいたという。
ついに小僧が残り一人になってしまい、困った和尚は、小僧に似せた藁人形に火薬をしこんでおいておいた。
それを飲みこんだ大蛇は爆発して退治されたという。
大蛇の恐ろしさより、小僧を消耗品あつかいしたり大蛇に火薬を飲ませたりする和尚のサイコパスぶりが印象に残る伝説だ。
成相寺の大蛇はサイコパス和尚により退治されたが、他の土地にはこんな大蛇の伝説もある。
②浮島の森の大蛇
これは和歌山県の新宮駅近くにある浮島の森。
森にも関わらず沼地にイカダのように浮いており、しかも北方帯と亜熱帯の植物が同時に群生しているという、奇怪なスポットだ。
沼地に浮いているものの、遊歩道が整備されているので森の中に入ることができる。
浮島の森の中。北方帯と亜熱帯の植物が同時に沼に浮いているこの不思議な空間にも、大蛇が住んでいたという。
昔、この辺りに美しく親孝行な「おいの」という娘が住んでいた。
「おいの」は父と一緒に浮島の森へ薪取りに来ていたが、お弁当の箸を忘れてしまったことに気づく。
浮島の森の枝を折って箸代わりにしようと思った「おいの」は森の中に入っていく。
だが、いつまで経っても「おいの」は帰ってこない。
不審に思った父が森の中に入ると、大蛇が「おいの」を飲みこもうとしているところだった。
大蛇は父の前で「おいの」を飲みこみ、姿を消したという。
ちなみに、大蛇が姿を消した穴が今でも残っている。
理不尽な脅威が襲いかかってきてなす術なく殺され、その痕跡が今でも残っているという、一番怖いパターンの伝説だ。
私がこれを見た時周囲に人はいなかったので、もしここから大蛇が出てきたら私は誰にも知られず何の手がかりも残せないまま行方不明になってしまう。
ただ、ここまでの2つの伝説は、大きな蛇が出てきただけの話にすぎない。ここから登場するのは本当の化け物である。
③大谷寺の毒蛇
京都、和歌山の次は栃木県の宇都宮である。
宇都宮にある大谷寺にも蛇の伝説が残っている。
昔、宇都宮の谷には毒蛇が住んでいた。毒蛇は毒水を流し、鳥や獣を殺し、草木を枯らしていた。人間ですら毒水にふれると病になったり死ぬほどであった。そのため、その谷は地獄谷と呼ばれていた。
そこで弘法大師が現れ、秘法で毒蛇を退治した。
毒蛇は改心し、大谷寺にある弁財天に仕えるようになったという。
人を食らうのではなく、毒を流してあらゆる生命を死に追いやりその場所を地獄と化してしまうという、恐るべき蛇の登場である。
どこかのサイコパス和尚とは違って、爆死させるのではなく改心させて神の使いとして生かしてやるあたり、弘法大師の徳の高さがうかがえる。
日本各地には、蛇に限らず化け物じみた生物の伝説が残っているので、旅行の際には意識して探してもらえたら幸いである。
ただ、浮島の森の大蛇のように退治されず逃げ延びた連中もいるので深追いはほどほどにした方が良いかもしれない……。
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