本場のひじきは食べた人間の嗜好を変える
先日「本場のオレンジは食べた人間の嗜好を変える」という記事を書いたが、もうひとつ同じような体験がある。
本当は前回、オレンジのくだりのあとに書くつもりだったが、長くなりすぎるので省略したのだった。今回は、前回省略した同じような体験について書きたいと思う。
突然だが、皆さんはひじきに対して、どのようなイメージを抱いているだろうか。
私は、
・チェーン居酒屋の無料のお通しで登場する。
・田舎の祖母が鍋いっぱいにゆでているが自分では買わない。
・消しゴムのカス。
・色が地味なのをにんじんなどの力を借りてごまかしている。
・味が分からない。調味料に負けて存在感ゼロ。
・定食に小鉢でちょろっと登場して品数を増やすための数合わせ要員。
・2つ前の時代(昭和)の食べ物。
・サーキット場のコースに落ちているゴム片。
というイメージである。
ここまでは私個人の見解なのでひじき好きや生産者様は怒らないでほしい。
このように、私は正直なところひじきを軽く見ていた。
だが、今はひじきが好きだし一目おいている。
どうして評価が一変したかというと答えは単純で、旅行中にひじきを食べておいしいと思ったからだ。
大分県・姫島を訪れた。
イザナギとイザナミの国産み神話に登場したり、朝鮮半島の皇子の求婚から逃れてきたお姫様が神として祀られて島中に逸話を残していたり、貴重な灰白色の黒曜石がゴロゴロしていたりと、不思議な島である。
口をゆすぐ水がなかったのでお姫様が手を打ったところ温泉が湧き出てきたという。そんなことのために奇跡を起こすんじゃないよ。
飢える民を救うために池を埋めて田んぼにしたところ、誤って大蛇を埋めてしまい、ゆれる田んぼになってしまったといわれる場所。行動的なドジっ子。
通常の色とは異なる灰白色の黒曜石。普通に落ちているが取ってはいけない。
そんな不思議の島の名産がひじきだ。
前述のように私はひじきを軽く見ていたのだが、名産と呼ばれているので、一応土産に買っておこうと思った。
島のいたるところにひじきが干してあり、ちょうど収穫の時期のようだった。
土産屋に入ると、老夫婦がひじきを袋につめていた。
売ってくれるか訊ねると「ちょうどよかった」といわれ、袋に賞味期限の書かれたシールを貼って渡された。
収穫して乾かして目の前で袋につめられたばかりの、これ以上ないくらい新鮮なひじきだ。
土産に持ち帰って、親(今は一人暮らしだが当時は実家にいた)が煮こんだひじきを食べた。
ひじきといえば、見た目通り味や風味に存在感がない。ひじきの味や香りといわれてもピンとこないし、歯応えもないイメージだ。
だが、そのひじきは存在感が際立っていた。新鮮な昆布やわかめのように、一口かむごとにショキショキとした歯応えと磯の香りを感じる、生き生きとしたひじきだった。
これ以来、私はひじきへの評価が変わった。
このひじきが特別おいしいのは確かだが、普段の何でもないひじきも磯の香りと食感を感じ、おいしく食べられるようになったのだ。
私は「食」に無頓着な方だが、いいものを食べると「食」の楽しみ方が広まっておもしろい。
これからも知らない土地を訪れたら、取りあえずその土地でおいしいとされるものを食べてみたいと思う。
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