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アンパンマンに見る正義と悪

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国立国会図書館に通い詰め、大学で優秀論文に選ばれた真面目な論文です。原稿用紙100枚弱あるので暇な方のみどうぞ。
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記事一覧

アンパンマンに見る正義と悪(第2章 第2節〜3節、終章、引用・参考文献ほか)

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第2節 キリスト教とアンパンマン
 ここでは、キリスト教の視点からアンパンマンを考察する。やなせはクリスチャンである。アンパンマンとイエス・キリストを比較すれば、やなせの中の絶対的正義がより明確になるのではないかと考えたからだ。
 アンパンマンをイエス・キリストと重ねた時、多くの共通点が見つかる。
 特に似ているのは、すべての人への無条件の「献身」と「愛」を持っている点だ。アン

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アンパンマンに見る正義と悪(第2章 第1節)

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第2章 正義は悪とどうつき合うべきか

第1節 脇役からやなせたかしにとっての「正義と悪の関係」を考察する
 次は脇役を考察することにより、やなせの考える正義と悪の関係についてさらに考察していく。
 ここまでの時点で、顔をちぎり食べ物として飢えた人に与え、その結果弱体化するアンパンマンは絶対的正義そのものだということは分かった。また、絶対的正義であるアンパンマンと敵対しているば

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アンパンマンに見る正義と悪(第1章 第6節〜7節)

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第6節 やなせたかしによる「絶対的正義」の実践
 やなせたかしは絶対的正義を「自己を犠牲にしながら、『明らかに困っている人』を助けること」と定義づけた。そんな彼が「絶対的正義」を行っている実例を発見したので、「絶対的正義」の具体例として紹介したい。
 二〇一一年三月一一日、東日本大震災が日本を襲った。当時やなせは九二歳であり、すでに難聴が進行し、内臓の病気で何度も手術をくり返し

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アンパンマンに見る正義と悪(第1章 第3節〜5節)

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第3節 アンパンマンのモデルから正義について考える
 次に、アンパンマンのモデルについても考察したい。なぜ絶対的正義であるアンパンマンにそのモデルが採用されたのかを考えれば、さらに絶対的正義とはどういうものかが分かりやすくなるからだ。
 先行研究が少ないアンパンマンだが、「なぜアンパンマンはアンパンでなくてはいけないのか」についてはすでに論じられている。
 福田育弘は『早稲

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アンパンマンに見る正義と悪(第1章 第2節)

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第2節 正義に適している人とは
 「絶対的正義」以外の正義が曖昧で逆転しやすいものだというのは分かった。では、人が「絶対的正義」に近づくにはどうすれば良いのか。また、どういった人が絶対的正義に向いているのだろうか。絶対的正義である「他人の幸せのために自己を犠牲にして、他人の幸せを心から喜ぶ」ことができる人間はそうそういないだろう。

 だがやなせは、絶対的正義は一部の特別な人し

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アンパンマンに見る正義と悪(第1章 第1節)

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第1節 やなせたかしの考える正義とは

第1章 正義と悪について
 ここではやなせの作品や書籍、そして経歴を通して、やなせの中の正義像を考察していく。やなせの作りだした代表的な作品と言えば、言うまでもなくアンパンマンだ。これを主に考察していくことにする。
 アンパンマンについて考察する前に、まずは彼の中の正義像に影響を与えたであろう戦争体験から考察していきたい。
 やなせは逆転

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アンパンマンに見る正義と悪(序章 第3節〜4節)

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第3節 アンパンマンはどう生まれたか
 そもそもアンパンマンはどういった作品で、どういった経緯で誕生したのだろうか。アンパンマンというとアニメを思い浮かべる人も多いが、もともとは絵本である。さらに映画化したり、かつては演劇として上映されたこともある。
 ここで、アンパンマンが誕生し、今日知られるアンパンマンに行きつくまでの経緯を整理してみよう。
 一九六〇年代半ばごろ、やなせは

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アンパンマンに見る正義と悪(序章 第1節〜2節)

大学生のころ『アンパンマン』にはまって、国立国会図書館に通いつめて本気で考察した結果、「優秀論文」に選ばれた論文をここに掲載します。

非常に長い(原稿用紙100枚弱)ので、いくつかに分けます。ここでは序章の第1節〜2節を掲載しています。

序章 考察の前に

第1節 はじめに
 正義とは何か? 悪とは何か?
 これは非常に難しい問題である。やなせたかしの言葉を借りると「正義は或る日突然逆転する」

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