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列車旅で気づいた あんなこと… こんなこと… 〜冬の松江〜


思い立った時に旅に出かける。
そんな当たり前の日常が戻ることを願いながら
この文章を書き始めた。

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【列車で向かう松江市】

一年前の冬、コロナが下火になりこのまま収束するかもと期待を抱いていた頃に、列車の旅を思い立った。車で行くかどうか少々迷った。車の快適さと引き換えに運転する人の疲労と風景を楽しむ余裕のなさを考えて、列車の旅を選んだ。

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目的地は島根県松江市。日本海に面した静かな印象のある街をいつか一度訪れてみたいと思っていた。友人と特急「やくも」に乗って松江に向かった。

この特急は、1972年3月に山陽新幹線が岡山まで延長された時に誕生したもので、伯備線経由で岡山と山陰地方を結ぶ。カーブでも高速で走れる振り子式の車両で運転している。

【列車の旅で思うこと】

列車の旅での気づきはいろいろある。例えば初めての駅に降り立った時、自分の知らない世界が無数に存在することに改めて気づかされる。この駅を毎日乗り降りしている人がいる、この駅を使い日常生活を営む人がいる、それぞれの人の生活や人生がある、そんな当たり前のことに心が動かされる。

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【なぜか旅がしたくなる】

一旦仕事をやめて、これまでしたくてもできなかったことや思いつくこと、好きなことをしようと思っていた。いざ仕事をやめてしばらくすると、世の中はコロナ禍で日常的なことがいくつもできなくなり非日常が日常になっていった。

いつかしたかったことはいくつもある。国内旅行も海外旅行もしたかった。仕事をやめれば時間だけはたっぷりある。たくさんの時間を活用して日本以外の国を訪れ、人々の生活や土地の風景、言語や習慣の違う人との触れ合い、食べたことのない食べ物、初めて知る習慣…興味は尽きないだろうと想像は膨らんでいった。

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【国内に目を向けると】

そのうちに収まるだろうと思っていたコロナ騒動は、いまだ収束の兆しが見えず今後の行方も不透明である。規制を緩めることによって再びコロナ感染が再燃している国も少なくない。そんな状況の中、自宅や一人でできることはそれなりに進めてきた。しかし、海外旅行は当分は難しそうである。国内に目を向けるしかない。

これまで仕事中心の生活の中で、国内旅行もあまりしていない。海外といえば飛行機での移動が中心となるだろうが、国内旅行は車、電車、バスなどの交通機関が活用できる。時間だけはあるのだから、ゆっくりと列車に揺られて旅するのもいいかもしれない。海外旅行に抱いていた期待は、国内の旅で味わうこともできるだろう。

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行きたいところはたくさんある。かつて行った場所であっても、訪れる季節、旅の長さ、同行者が異なれば、全く違うものになる。旅は、同じ場所でも一度きりのもの。誰かのお奨めを参考にしたり、旅行ガイドで十分予習して出かけても、旅の中身を決めていくのはその時の自分自身の心身と周りの状況との偶然の絡み合いの結果で、一度きりの瞬間や経験になっていく。予測できないのも旅の魅力である。

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【新大阪→岡山→松江】

新大阪から岡山まで新幹線に乗り岡山駅から「やくも9号」に乗って松江に向かった。平日だったので車内はあまり混んでいなかった。車窓の景色は、初めて見るが見慣れた日本の風景である。新鮮な気持ちと懐かしさが入り混じった安心感が胸中で交錯した。しばらく景色を楽しんでから岡山駅で買った駅弁を食べる。

駅で停車するたびに人が動く。冷たい空気が車内を流れる。声も交わさず特段のやりとりもなくすれ違っていく。空いている席に客が座り、また降りてゆく。駅も時間も静かに過ぎる。人と人との出会いが偶然であることを再確認するのも列車旅の気づきの一つである。松江駅に降りたら午後になっていた。


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【松江から境港】

今日滞在する宿は松江の街の中。荷物を携えながら駅から旅館までの道を歩く。

ゆっくり歩いて旅館に向かった。車がよく通る広い道で横断歩道の手前に立つと、何台かの車が渡り出すのを待ってくれた。信号機がない場所なので車が通り過ぎてから渡ろうとしたが、そのまま待ってくれている。松江の人がそうなのかたまたま出会った人がそうだったのか、街行く人は大らかでその表情は優しく穏やかだった。旅館に繋がる商店街を歩くと、人通りは多くないが様々な店が並んでいた。

その日泊まった旅館は「皆美館」。明治時代に建てられた旅館で準日本家屋である。ホテルとは一味違う趣があった。建物も部屋も従業員の方々も旅行者を温かくもてなしてくれた。

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旅館に荷物を置き松江美術館を訪れた。室内展示作品を鑑賞して外に出ると、12羽のうさぎのブロンズ像があった。前から2羽目のうさぎに西を向いて優しくふれると願い事か叶うらしいと、後から旅館の人が教えてくれた。

二日目は、レンタカーで鳥取県の境港まで行き「漁港」「水木しげるロード」を巡る。
三日目は、足立美術館に行き、夕方には安来駅から帰路に就いた。
旅の詳細は、書こうと思えばいくらでも書ける。心に残る多くの記憶と写真に撮った風景を手がかりにすれば、思い出はいつでも取り出すことができる。そんな三日間だった。

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【列車旅の帰路】

帰路に就いた夕刻、車窓の景色は少しずつ薄暗くなっていく。通過する駅のホームでは、電車を待つ人が椅子に座ったり誰かと話したりしている。目的地は人それぞれだろうが、仕事や用事を終えて家路に向かう人が多いように思う。

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そのうち車窓から見える家々の窓には灯が灯りだし、外の寒さと対照的に家の中の暖かさが少しずつ増していくように見えた。列車から眺めるこの景色は、幼い頃友達といっぱい遊んで、もう少し遊び足りないけれどそろそろ家に帰らなくてはならない時の寂しさや家の温もりを思い出させてくれる。あるいは、学校や職場であったいろいろなことを何とかうまくすり抜けて自宅に帰る時の疲労や安堵感など、過去のぼんやりした記憶の数々が一瞬くっきりと蘇ってくる。

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【旅で得たもの】

冬の松江を目指した今回の旅は、春を待つ山陰の風景の美しさ、松江の歴史や暮らしの中に息づく豊かな自然や産業に出会えた。同時に、列車に揺られながら過去の経験や人に話すことのなかった記憶がもう一度心の中心に運ばれてきた。今の自分と過去の自分を比べながら、たくさんの時間が過ぎたこと、成長した自分、成長していない自分、変わらない自分、変わっていく自分に気づくことができた。

松江市はとても素敵な街だった。日本中にまだまだそんな街がたくさんある。
思い立った時に旅に出かける、そんな当たり前の日常が戻ることを、改めて強く願う。

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