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しっかり者の代償

小さな頃から私はいつも強がりを装ってきた。
母は私に「お姉ちゃんだから、頼りにしてるわ」と言ってくれた。
だから私はいつも、泣きたくても泣かないし、怖いと感じても弱音を吐かなかった。

弟が、肺炎で入院することになり、私は祖母の家に泊まることになった。
小さな私にとって、祖母の家は不思議な場所だった。
玄関を開けると、古びた木の香りが漂う和室が広がっていた。
壁には年季の入った掛け軸が掛けられ、床には美しい絨毯が敷かれていた。
日本人形は様々な部屋に飾られ、その目が私を見つめるかのように感じた。
特に夜になると、掛け軸の模様が不気味な影を落とし、人形の影が壁に映し出されると、それはまるでお化け屋敷のようだった。

母には「大丈夫?」と聞かれても、本当の気持ちを言えなかった。
私はいつものように「泊まりたくない」とは言えなかった。なぜなら、母は弟の看病で忙しいから迷惑をかけてはいけない、母に認められたい気持ちが強かったからだ。
その日の夜、祖母の家での眠りは容易ではなかった。でも、私は耐えた。朝になれば、母が褒めてくれると信じて。
寝る前、一人でお化けが出ないか心配になりながら布団に潜り込んだ。暗闇の中で、何かが出てきそうな恐怖を感じ、眠れない夜を過ごした。

そして、夜を越した次の日、母の言葉は私を包み込んだ。驚くほどの褒め言葉と優しい言葉が降り注いだ。私の心はほっとした。
でも、同時に深い孤独感がこみ上げてきた。
私は自分の本当の気持ちを語れず、それを隠して生きていることに苦しみを感じた。
母の誇りのために、自分を犠牲にすることは価値があるのだろうか。
自分の弱さを認めれば、母の愛は失われるのだろうか。不思議な感情が芽生えた。

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