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「休職者166人のアンケート結果から考える、今仕事を休んでいる人に伝えたい話」レポート

2023年2月15日、キャリアブレイク研究所の北野貴大さんをゲストに迎え、オンラインイベント「休職者166人のアンケート結果から考える。今仕事を休んでいる人に聞いてほしい話」を開催しました。


平日にも関わらず、オンライン上に80人、会場には12人、合計で100名弱の参加がありました。ありがとうございます! 今回はその一部をダイジェストでご紹介します。


登壇メンバーの自己紹介と「しごとの間借りプロジェクト」の全貌

登壇者による自己紹介からはじまり、NIMO ALCAMO(ニモアルカモ)代表の古市邦人が就労支援の分野で仕事してきたこと、2年半前に退職し、独立後に大阪市東住吉区でカレー屋をはじめたこと、営業の合間に就労支援のプログラム「しごとの間借りプロジェクト」を行っていることなどを語りました。


一般社団法人NIMO ALCAMO代表 古市邦人

「しごとの間借りプロジェクト」については働けなくなった人が小さく働ける選択肢! アルバイトとボランティアの間を中間的支援でつくる、「しごとの間借りプロジェクト」の事業報告会レポートが詳しいのであわせて読んでみてください。

古市「仕事を辞めたあとにいきなり全力で働けない状況の人が多い実感があります。ただ現実はアルバイトでも全力を求められてしまう現状があります。だから週一回でも『私はこの仕事をしています』という状況をつくれば『最近何しているの?』と言われたときに、『期間限定でこういう仕事してるんだ』と言えるものがつくりたかったんです。」

古市から「2022年度下期のプロジェクトはチャイを開発するチームと彫金をつくるチームの2つの選択肢があり、それぞれのチームからひとりずつ登壇していただいた」と紹介がありました。


左がゆきのさん、右がもりちゃん

彫金チームのもりちゃんは次の予定を決める余裕もないまま8月に離職して、プロジェクトに参加しながら今後のことを考える時間をとっていることを前置きとして語りました。

もりちゃん「離職後は今まで会えなかった人と会えた部分もあれば、自己肯定感が下がり自分を責めたりと、気持ちの波が激しい状態でした。しごとの間借りプロジェクトに参加して、みんな同じような境遇だからこそ話せることもあり、気持ちが落ち着いてきました。普段であれば人前で話すのは苦手です。よろしくお願いします。」


ゆきのさんは東京で栄養士の仕事をしていたこと、休みが少なくて体調を崩すようになり、通勤電車に乗れなくなったりしたことを語りました。

ゆきのさん「だんだん職場に行けなくなって、上司と相談して休職をしました。半年くらい休んだのですが、一度復職して同じ職場で2回休職を経験しました。会社の規定でその期間以上は新入社員は休めないので早期退職をしたんですが、その後どうするかユキサキチャット(詳細記事/週に1回行ってもいい場所ができるのが嬉しい。休職中に出会った新しい働き方。 | D×Pタイムズ)に相談したところ、古市さんのプロジェクトを紹介してもらったんです。学生時代にチャイをつくるのが趣味だったのでワクワクして応募しました。プロジェクトの中では自分自身のことを見つめ直したりとか、今後の人生を考える時間を持てました。また管理栄養士の仕事を頑張ってみようと今は就職活動中です。」



キャリアブレイク研究所 北野貴大さん

北野さんは古市とともに休職者の実態調査に取り組んだこと、ご自身のキャリアブレイク研究所の活動を話しました。

北野さん「欧州では仕事を辞めたり休んだりすることで人生の転機を主体的につくっていくキャリアブレイクという文化があり、 日本のような後ろめたさはほとんどなくて、主体的に人生の転機をつくる考え方の違いがあります。私はこのキャリアブレイクの文化がもし日本にあったら、もっといろんな働き方とか生き方が広がるのではと思って広める活動をしています。」

古市から北野さんへ「仕事を休んでいる人達と関わりどんなことを感じていますか?」と質問がありました。

北野さん「周囲の人たちの心配や不安が大丈夫かなと、思うときはありますね。親御さんも子供が自分と違う体験をしてる人を心配しちゃう。その心配や不安が少しずつ当事者の人に突き刺さってしまうので、人生の転機だよねという考え方を文化に変えていきたいと思っています。」

古市「2人は休み始めた頃はどんなことを考えてました?」

もりちゃん「やっぱり体調を崩してしまったが故に求められる仕事ができるのか不安すぎて、どこかに就職するのは厳しいなと感じていました。」

ゆきのさんは休んでいる間も持たされていた社用ケータイの通知によって、同じ会社の仲間が働いているのに自分だけ休んでいることがつらかったといいます。

ゆきのさん「ギリギリまで両親に状態を告げられずにいたんですけど、伝えたら伝えたでもっと頑張れと言われたり、その後腫れ物扱いされたのがしんどくて、外からの刺激が辛く、自分の妄想も気になって自分を追い込むことが多くなり、思考がマイナスで毎日寝てばかり過ごしていました。」

また、東北から離れて東京での一人暮らしで、お金がどんどん減っていくこともさらに追い打ちをかけたと話します。


休職者アンケートの結果と登壇者による感想の時間

後半はアンケートの話題へとうつりました。アンケートの目的は休職中の方や過去に休職を経験したことのある方を対象に、休職中の過ごし方や不安に感じたことなどを聞いた実態調査であり、回収数166件(有効回答数163件)をもとに実態が紹介されました。

古市いわく、対象者は20代後半から30代前半の方が多く、女性の方が多く回答しているため、少し偏っていると注釈を加えました。

休職時の雇用形態は9割の人が正社員に回答されており、そもそもパートや契約社員で休職制度を使う人が少ないという背景がありそうなこと、休職の理由の大半はメンタルヘルス不調だったことなどが古市から語られました。


また、15%の人が相談できる相手がいない状態だったことがあげられました。

休職して良かったこととして一番大きいのは心身の回復ができたことが多く、古市はこの休職期間中の過ごし方が気になると言います。


古市「外出する人もいるけれど、3割ぐらいは家からほとんど出ない人もいて、真反対にわかれました。もう少し詳しくみてみると精神疾患などの診断が出た方とそうじゃない人にわけてみると、精神疾患の人は交友機会が減っています。ふたりはどうでしたか?」

もりちゃん「私は交流の機会が増えました。無意識に話を否定せずに聞いてくれる人を選んでいたと思います。ただ、誰にも会いたくない日もあり、外出の機会が減った人の気持ちもわかります。」

ゆきのさんは外出する機会が減り、当時会っていたのは会社の同期ひとりと大学時代の友人ひとりと中学時代の友人の三人ぐらいで、それも半年に一回程度、多いときで月に一回で、「出かけるエネルギーがない」というアンケート結果に共感すると語りました。

ゆきのさん「いま休職していることを打ち明けるのも体力を使うし。親元から離れて東京で一人暮らしをしていたので、生活費もかかりお金もなく、帰省する回数も減って家族とのつながりが薄くなった時期でもありました。」

北野さん「その状況からどういうふうに変わっていったんですか?」

ゆきのさん「最初に休職している状況を伝えた人たちの感触が、私にとっては心地いいものだったので、そこで味を占めたわけじゃないですけど、自分の伝え方とか状況とかをより細かくいろんなことに対して伝えたりとか、ちょっとそれは言われたくないから、この時間だけ言わないでほしいとか、相手にうまく伝えることを自分なりに考えて伝えるようにしたらわりと理解してくれる同世代が多くて、勇気も必要だったけれど、言えばわかってもらえることが大きかったです。」

その後、少しずつそのやりとりが増えて、会える人も増えていったと、ゆきのさんは語りました。中でも「私には何ができる?」と助けてくれる人の存在が貴重だなと感じたそうです。
 
古市「アンケートは休職期間どうでしたか?という聞き方ですが、その期間が半年であれば前半と後半では過ごし方がぜんぜん違うと思うんですね。休む期間が長くなってくると休んでいるだけで不安がつのると思います。ゆきのさんみたいに、少しずつ話せる人が増えて安心できる環境を自分なりに見つけられる人とそうじゃない人とでは過ごし方が変わってくると思います。ゆきのさんの場合は前半後半はどうでしたか?」

ゆきのさん「ぜんぜん違いました。前半はほぼ寝て、ご飯を食べて、歯磨きするぐらいでした。夜も寝れないから生活リズムがおかしかったです。」

その後、3ヶ月ぐらい過ぎたあたりからゆきのさんの生活は整い出し、買い出しに出るようになったそうです。前述の友だちに会ってみるフェーズにうつり、後半は休職できる残り期間の確認からはじまり、復帰するまでのタイムリミットを理解しながらも、「どうしよう」という期間を過ごしたと言います。

古市は「終わりが近づいてくるにつれて焦りも出てくる」と語りつつ、別のアンケート結果を紹介しました。


休職時に勤め先の会社が行ったサポートは十分な対応であったと感じるか、というアンケートで、半分ぐらいは会社の対応がネガティブな印象を持たれた方が多いことがわかります。

ゆきのさん「私も同じ部署の人はすごく気を遣ってくれたけれど、産業医さんのサポートはよくわからないものが多い印象があり、人事部の人からやめろと思われているのかなという謎の勘繰りをしてしまったりしました。」

古市からは「定期的に連絡してくれるのがうれしかった」という回答もあるので、「連絡してくる人がどんな人なのかもよりそうだ」と語り、オンライン参加者からのチャットを紹介しました。「産業医に冷淡な印象を受けました。行動記録を提出させられたけど何のアクションもなかった」「そもそも産業医に会ったことがない」という人の意見も出ていました。


参加者からの質問と感想の時間

ここからは会場やオンラインからの質問や感想を受ける時間となりました。少しダイジェストで紹介します。

・僕ら夫婦は休職中ですが聞きに来れてよかったです。
・僕は今心療内科の復職プログラムに週5日通っているんですが、そこには年齢も仕事もバラバラの人がいて、今日ふたりの話を聞いていると自分が休職していることを肯定的に捉えることができて、有意義な時間になりました。
・企業の産業保健スタッフをしています。休職者に信頼されるスタッフであるためには普段
から、私たちのこと知ってもらう必要があるんだなと実感しました。休職中の一番しんどい時に面談に来てほしいと言われても無理ですよね。
・退職して時間が経つにつれて何かしなければという焦りの気持ちが大きかったですが、ひとりじゃないことがわかり、今日参加できて良かったです。
・ゆきのさんと同じ道を辿ろうとしています。人と会いたいけど、お金の不安はつきまとう。休職期間ももうすぐ期限切れで退職になりそうです。

参加者から「しごとの間借りプロジェクトも気になります」という方が多く、古市から「助成金をもらってつくっている事業なので一旦一年で終わりますが、継続できるようクラファンなどにも挑戦しています」と状況を伝えました。


イベント当日はチャイチームがつくったチャイも配られました

イベント当日はチャイチームがつくったチャイも配られました

また、最後に登壇者からも感想がありました。

もりちゃん「仕事辞めたことも続けられなかったことも残念なことではなくて、その選択は自分を守るためには必要だったことだねとか、肯定してくれる人がいたから自分も許せるようになり、たぶん立ち止まらずに仕事から離れてなかったら、もっと体調も壊れてただろうし、ちゃんと離れて良かったなっていうのはすごく思います。」

ゆきのさん「当時は自分を責める時間が多くて、その時間を経た上で今思うのは、仕事から離れる期間は決してマイナスなことではなくて、自分の心も体も健やかな状態で生きていけるようにするための見直す期間と思えるようになったのは、いろんな人の支えがあるからこそなんですけど、やはり環境とか、自分のことを責めるのはわかるのですが、一旦それよりも今の自分の状態もちゃんと愛してあげることに目を向けて、幸せな休職期間がみんなできたらいいなと思いました。」



北野さん「こういう場があることを今仕事を休んでいる人に伝えたいですね。休んでいることをネガティブに感じることも必要ないと思いますし、無理にポジティブに捉える必要もないと思っています。人生の転機って簡単なことばっかりではないんですけど、日本中に皆さんと同じように悩んでる人がいて、なんとかしようとしてる人たちがいることをまず知ってもらうのが一番いいんじゃないかと思っています。」

古市からは元々就労支援をしてきた背景があるものの、本人との対話で安心の場がつくれても、社会に出た瞬間に厳しすぎる環境があるので、それなら全力で働けなくても働ける環境をつくろうと期間限定でやってきたこと、そういう場が世の中にぜんぜん足りていない実感を語りました。

古市「微力ですけど、来年度も頑張って募集できるようにしていていきたいです。頼ってもらえる団体になれるように頑張ります。」

構成/狩野哲也


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