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働けなくなった人が小さく働ける選択肢! アルバイトとボランティアの間を中間的支援でつくる、「しごとの間借りプロジェクト」の事業報告会レポート

2023年2月9日に育て上げネットの工藤啓さん、Co-Work-Aの田中成幸さんをゲストに迎え、オンラインイベント「「働けなくなってしまったとき」にどのような場が必要か。 〜小さく働く選択肢、「アルバイトとボランティアのあいだ」の取り組みから〜」を開催しました。平日にも関わらず100名近くの申し込みがありました。ありがとうございます! 今回はその一部をダイジェストでご紹介します。




きっかけは、3割ぐらいの力で働ける職場?

最初に20分程度、NIMO ALCAMO(ニモアルカモ)代表の古市邦人から、自身の活動内容について話題提供がありました。


一般社団法人NIMO ALCAMO代表 古市邦人

・しごとの間借りプロジェクトは飲食店等の定休日が舞台であること
・週1日だけ1人分の仕事を3〜4人でシェアしながら働く取り組みであること
・アルバイトより負荷は少ないけれど、ボランティアにはない適度な緊張感があること
・このような一般的な就労へ向けた準備のための就労を「中間的就労」と呼び、団体によって中間的就労の捉え方が微妙に違うこと

などを語り、活動のきっかけとなった印象的なエピソードを話しました。


古市「自宅をDIY的に改装して店舗にする取り組みを手伝いにきてくれていた大学生が、元ひきこもり状態だった人なのですが、『アルバイト先でめちゃくちゃ怒られたんです。世の中厳しすぎますよね、煙草を吸いながらとか音楽を聴きながら3割ぐらいの力で仕事できないんすか』と発言したことがきっかけでした。それを聞いて、確かに3割ぐらいの力で働ける職場は日本に少ないかもしれないと思ったんです。というのも最近のアルバイトは正社員並のスキルが求められることも多いと感じていて、それだったらアルバイトより負荷は少ないけれど、ボランティアにはない適度な緊張感があるような、アルバイトとボランティアのあいだの働き方がつくれないかなと思ったんです。」


また、この10年ほど精神的な理由での休職者、離職者が増えていることに注目していると付け加えます。30年ほどで最低賃金が1.64倍に増え、フルタイムの社員側にアルバイトのポジションが近づいていることにも着目していると語ります。

そして「3割ぐらいの力ではじめられる仕事をつくりたい」と考え、2022年度、休眠預金活用事業の助成を受け、休職者・離職者向けの就労支援プロジェクト「しごとの間借りプロジェクト」を実施しました。4ヶ月のプログラムであり、商品開発と、接客技術を学ぶなどの実践経験の2本立てになっています。

古市「実践を通して自分の価値観や特性を知って、これからの働き方を整理することが一番の目的だと考えています。なので飲食店で働きたい人だけを募集したわけではないし、飲食店を立ち上げて運営する中に、いろんな職種の仕事が混ざっているので自分のやってみたいと思うことを選択してやってもらうようにしました。だから苦手なことをわざわざやらなくていいし、デザインをやりたいと言うならデザインをお願いしてやっていきました。」

古市は「中間的就労の運営で特に気をつけたこと」と前置きし、「言葉の定義が曖昧なので誤解を招きやすいので詳しく解説したい」と続けます。


古市時給300円ぐらいで働ける職場をつくりたかったのですが、それだと雇用契約を結べないので業務委託契約にしました。ただ弁護士さんに聞いたところ、これは中間的就労です、といっても実態として社員と同じような仕事と判断されると契約書の内容に関わらず労働基準法が適用されるので、ほぼ社員並の仕事であれば最低賃金以上を払わないと違法になるそうです。そうならないように注意しました。」


合同会社Co-Work-A 代表社員CEO 田中 成幸さん

モデレーターの田中さんはその話の流れで「少し深堀りしたいポイントがいくつかある」と語り、工藤さんに感想を求めました。


認定NPO法人育て上げネット 理事長 工藤 啓さん

工藤さん「いろんな中間を必要としている方々がいる中で、古市さんは『ボランティアとアルバイトのあいだ』に着目されましたが、それ以外に何かと何かの間がもっと必要なんじゃないかという視点があったと思います。他にどんなことを考えて、そこに行き着いたのでしょうか?」


古市「うちのカレー屋でいろんな職場体験を受け入れていて、いろんな方の声を聞いた印象では職場から求められることができなくて自信をなくしている人が多く、僕は自分の足りない部分をスキルアップするのではなくて、今その人ができる分だけをできる職場が必要なんじゃないかと思いました。だからUber Eatsのような配達サービスが出てきたときに感動したんです。シフトがなくて、今日働きたいと思ってスイッチを押せば仕事がはじまりますから。いろんな職種で今できる分だけ働ける仕事があればと思っています。」


プログラム参加者の輪郭と、アンケートから見えてきた意外な事実

「ここからはプログラム参加者の輪郭を聞いて、事業をさらに立体的にしていく時間にしたい」と工藤さんが語り、それを受けて古市が2021年年度にプログラムの前身となった活動として自身の店で東北の郷土料理の芋煮をつくったエピソードを話しました。


芋煮モアルカモ

古市「20歳の子がアルバイト採用に応募してくれて、将来飲食とかで働きたいというけれど、うちのお店はワンオペなので未経験では雇えないと言って断ってしまったんです。でも経験を積みたい人が経験を積む場から断られるのは矛盾していると感じて、経験のない子たちが3人集まってお店をやる形にしました。最初にお話したのは2022年度の上期の話だったのですが、7人参加したうちの2人は働いたことがないメンバーでした。」

集まった7人は大学卒業後に就職しなかった方や、引きこもり状態だった方、またニモアルカモの運営するカレー屋のお客さんだった方などもいて、いろいろな属性があるといいます。そのときのチラシがこちら。


「小さく働いて、それから考える。」というコピーが添えられたチラシ。「これは私のことだ!」と響いてきてくれた人もいる。

「随所で思うんですけど、ニモアルカモさんのクリエイティブセンスは抜群ですね」と田中さん。「大事なポイントは支援の構造を匂わせないクリエイティブだ」と続けます。


工藤さん「『お気軽に相談ください』という言葉をよく見かけますが、気軽に相談できないから困っているはずの部分をニモアルカモさんは取り除くのが上手で、支援の関係性の構造を匂わせない形というのはご本人のスティグマ(差別、偏見の意)の問題を解消するために大事です。逆に『支援しますよ』ということだから来る人もいるので必ずしも支援臭さがないことだけが全てではなく、ただこういう形のメッセージというのは今までだったら認知できなかった人に出会えるためのすごくいい工夫のひとつです。」

参考として、工藤さんの団体では高校生に食料支援をする中で、「お腹が空いていたらどうぞ」ではなく「食べるボランティア」という言い方をして、もうすぐ賞味期限が切れるので、SDGsを学ぶ上で大事という伝え方をしていて、言葉を大事にしていると語っていただきました。


田中さんは「アンケート調査を実施されたそうですね」と話題を広げました。

古市が休職経験者にアンケートをとった内容がこちらです。


古市「最初の仮説としては仕事を辞めたあとにふさぎ込むと思ったんですが、ここに関してはけっこう割れて、休職時間に人に会う機会が増えた人もいるし、減ったという人もいます。」


古市「メンタル不調などで休職した人の中でも、精神的な疾患など診断を受けた方かそうでないかを分けてみると、診断を受けた人は人との出会いは減っているんですよね。休んでいるんだから時間があるんでしょうと考える人も多いけれど、時間があっても有効活用できる状態ではなくて、何もできなくて落ち込むとか、そういう日々をわりと過ごされていることがわかりました。」


工藤さん「むしろ休んだことで人と会う機会が増えたとかポジティブなコメントを出している人たちが推奨される環境や空気は大事なんですけど、こういう小さな取り組みがたくさんできてくることで結果、空気も変わってくるのが大事なんだろうと思います。」


古市「そうですね。こういう場が広がっていってほしいですね。」


今後は同じ思いの団体や企業ともご一緒したい

工藤さんから今後の目標を聞かれ、古市は「このプログラムを単発で終わらせずに雇用を生む場として続けていきたい」と話しました。


チャイのギフトから始まる支援の構想

古市「プログラムの下期はインドのスパイスミルクティであるチャイづくりと彫金づくりをすすめています。鬱などで朝起きられるかどうかわからない人にとってシフトで働く仕組みは恐怖でしかないので、冒頭にお話したUber Eatsのような働きたいときに働ける仕組みの『製造業版』をつくりたいと考えています。ちょっと働きたいと思ったときに製造工房に来てゆっくり働けるようにしたいです。」


工藤さん「このモデルの難しさは理解者と資金提供者がどこかで必要になり、資本主義的な観点だけで取り組むには難しいので、確実に売れるときが必要です。例えば社員数の多い会社で年に何回か大量に注文があるなど、売上の山場が必要で、いくつかの売上の山場を社会と連携してつくることが結構肝になると思います。


古市「ある程度、高単価の商品じゃないと利益がつくりづらいので、ギフトとして贈れるもの、手土産にはほしい商品というのを考えています。また自団体の中でこういう仕事の場がつくれると支援の幅が広がるので、そういう取り組みがしたいという団体とご一緒したいですね。例えば社員が数十名いるような会社のランチをつくる、社員食堂を一日限定で開くとか、そういうことをいっしょに考えられたらうれしいです。」


参加者からの質問の時間

後半からはチャット欄に寄せられた質問に応えていく時間となりました。いくつかダイジェストでご紹介します。

社会福祉協議会の職員の方からの質問「最近中高年の離職者・求職者の方も多いですが、今後の働ける期間が短い人であっても中間的就労から始めても良いのかどうか?」を受けて、古市は「ありだと思います。そのステップが必要だと思う人はたぶんいらっしゃると思いますし、その人がもっている、できることが最大限発揮できる場所づくりが僕は必要だと思っていて、そのために中間的就労という手段がいいのであればやったらいいと考えています」と語りました。モデレーターの田中さんも同感だと言います。


NPO職員の方からの質問「受益者の方々との対話で工夫していることは何ですか?」に対して、古市は「味方であるというスタンスは常に持つようにはしてるんですけど、その方の希望要望が社会的に批判されるようなこと、例えば冒頭で話した『煙草を吸いながら3割ぐらいの力で働きたいんですよ』という話は一般的に怒られて当然かもしれないですが、そう思うんだったらその場をつくってみようというスタンスです。そうするとルールを変える必要が出てきて、どんなルールを変えればわがままと言われそうなことが受け入れられるようになるんだろうか、という発想で取り組んでいる」と語りました。


最後にイベントのクロージングの言葉がスピーカーのふたりからありました。


「正社員にたどり着けない人がみんな不安定になる構造に問題がある」という構造をふまえ、工藤さんはカーブカット効果という「段差があるところを通れない人のために滑らかにしたら荷物を運んでいる人もみんなが通れるようになった」という論文について紹介しました。

工藤さん「これまでは段差をたくさん細かくつくって、ステップを踏んでいったけれど、今回の場合は、段差ではなく、坂道のスロープのイメージでつくられたと思います。今までそのルールで困ってなかった人たちから、何でわざわざルールを変えるんだと言ってしまわれるかもしれないんですけど、やっぱり滑らかになると、今まで働きづらかった人がこんなにもいて、みんな通りやすくなるのが、すごく重要だと改めて思った事例だったと思います。古市さんの事例から後ろ側の難しさをもっと勉強させてもらいたいと思った1時間半です。ありがとうございました。」


古市「僕は対人支援・本人支援をずっとやってきた中で、どうしようもないと思うこともあったので、本人支援から仕事づくりの方に行って実践してみたのですが、今回助成金をいただいたからこそできたことなので、それを今後もちゃんと続けられるように頑張っていきたいですし、ぜひみなさんと何かご一緒できるきっかけになればうれしいです。ありがとうございました。」


構成/狩野哲也


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