小説 俺が「君を愛す方法」第6話
全話約23.000字
第6話約 2.500字
1話〜5話までのあらすじ
俺は、誰もが想像もしないような復讐を絶対に達成させる!
計画は滞りなく、進んでいる。
もうすぐだ。もうすぐだ…。
高校教師の俺冬賀隼也は、復讐のために近づいた女子高生有栖サナと偽恋愛を続けていた。有栖はそんな俺に微塵も疑いを感じていない。
亡き娘、柚良が生前に通っていたピアノ教室で同じく学ぶ小田拓真と崎田真子。この2人の存在を知り、俺が知らなかった妻と娘のことが徐々に明らかになる。
一方、有栖は、俺に対し、純真な気持ちをぶつけてくる。そんな有栖に心が揺らぐが、やはり、亡き妻と娘のために復讐計画をやめることはない。
そして次の段階へと行動を移すべく…。
第6話
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高橋の希硫酸事件については、誰がいつ胸中の闇を爆発させてもおかしくない。
この高校は、進学校が故に生徒達は皆、暗示にでもかけられたかのように必死に勉強する。
有栖も、もちろんその中の一人だ。
だからこそか、高橋希硫酸事件は、時間と共に皆の記憶から簡単に消えた。
俺と有栖も特に何ごともなく淡々と時が流れた。
そんな中、俺のアパートに一通の手紙が転送されて来た。『崎田真子の母』からだった。
俺が家族3人で住んでいたマンションからの転送だ。今頃になって何でだろうと思いながら封を開けた。
冬賀柚良ちゃんへ
あのときはほんとうにありがとう。
おばちゃんね、北海道からもどってきたのよ。
また柚良ちゃん達と同じ街で暮らすことになりました。
柚良ちゃんと、柚良ちゃんのママにお礼がしたくてお手紙を書きました。会ってくれるかな。
真子は、長く入院してたんだけどね、5ヶ月前に亡くなりました。
柚良ちゃんのピアノ聴きたいな。柚良ちゃんがあの連弾を真子に譲ってくれたおかげで本当にいい思い出が出来たって喜んでいたのよ‥‥。
連弾を譲る?
そうか、だからあのプログラムに小田拓真との連弾相手が柚良ではなく、崎田真子になってたのか。
俺は、この手紙の差出人に会わなきゃいけないと思った。
会って聞かなければ。
俺が知らなかった、麻美と柚良の事を確かめなければ。
そして麻美にも柚良にも、もう会うことができないんだと告げなければいけない。
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「冬賀さんですか?」
うちのアパートから、少し離れた街のカフェで待ち合わせた。数人のビジネスマンがパソコンを広げ指を器用に動かしている。
静か過ぎない店内が丁度いい。
「はい、冬賀隼也です。」
「はじめまして。崎田真子の母、崎田道子です。」
「柚良ちゃんのお父様……。今日は、何故お父様おひとりで?柚良ちゃんと麻美さんは‥‥?」
「まぁ、座ってください。」
しばらくして店員がおしぼりと水を運んできた。
「ホットで」
落ち着いた口調で注文をした道子に俺は言った。
「二人とも死にました。3年になります。」
「えっ?!‥‥。」
「‥‥‥‥。」
「麻美も柚良も俺にとって、全てでした。
今、抜け殻みたいに暮らしています。
今日は、俺が知らない麻美と柚良の事を教えて欲しくてお呼びしました。」
「……………」
「あ…。あ、あ、な、なんてお悔やみ申し上げたらいいのでしょう。私は、お二人に改めてお礼を言いたくて‥‥。」
口元に持っていった崎田道子の手は、小刻みに震えていた。
「何故、柚良は、発表会で小田くんと連弾をしなかったんでしょう?何故、あなたのお子さんである真子ちゃんに譲ったんでしょうか?」
その問いに対し、
震えた手をゆっくりとおろし、道子が言った。
「‥‥当時、うちの娘は、心臓を患っていました。北海道の大きな病院で手術を受けるために入院することが決まっていたんです。
簡単な手術ではありませんでした。 私のつらい胸の内を麻美さんによく聞いてもらっていました。
たぶん柚良ちゃんは麻美さんから真子の入院の事を聞いたんだと思います。
真子が小田くんと連弾するのを強く望んでいたので、優しい柚良ちゃんは病気の真子に譲ってくれたんです。」
「俺、小田くんのピアノ、聴いた事があるんです。ショッピングモールで商品のピアノに触っていました。そして『星に願いを』のワンフレーズをサラッと‥‥。なんだか心に響くものがありました。」
「そうなんですか…。小田くんは、ピアニストの小田最造の息子さんです。誰もが皆、小田くんとの連弾を夢見ていました。」
「あ、あの子、ピアニストの?
どうりで上手いわけだ。ほんとは、うちの柚良が連弾するはずだったんですね‥‥。」
「はい、そうです。
本当にありがとうございました‥‥。」
「いえ。真子ちゃんが喜んでくれたのならそれでいいです。」
「真子は、最期に柚良ちゃんの優しい心をお土産に天国へ旅立ちました。もう一度、ちゃんとお礼が言いたかったんですが、今になってしまいごめんなさい。」
言葉を途切れ途切れ押し出すように話す道子の背景が、最愛のひとを失った自分自身と重なった。
「真子ちゃんの病気、大変だったんですね。」
「はい、とても難しい心臓の病気で何人もの医師に匙を投げられました。
北海道には心臓病の権威の先生が居て、その先生なら助けてくれるのではないかと訪ねてみました。でも、先生はとても忙しく、その先生の治療を受けたい患者さんが何百人も溢れているほどの名医でした。順番を待っていたら、真子は死んでしまいます。
ですが、私達のような名もなき人間は、どうすることもできませんでした。
しかし、そんな腕のいいその医師に治療していただけることになったんです。
私と真子は、北海道へと入院準備をして向かいました。」
「そんなすごい先生が何故‥‥?」
「あっ!そ、それは‥‥。」
「‥‥‥‥‥。」
「話していただけませんか?」
「‥‥‥私の主人は医師でアリス永生総合病院に勤務して‥‥」
「ア、ア、アリス?!」
「はい、アリス永生総合病院です。」
「ま、まさか、崎田ってあの、崎田?」
「ご存知なんですか?」
「当時の医師だ!」
「当時?」
「あ、あさ‥‥‥み‥‥‥麻美とゆ、ゆら‥‥柚良が大怪我をして運ばれた時、当直医だった当時の‥‥‥。」
「えっ!ま、まさか‥‥!!あの時のおふたりが!!
主人に聞いた事があります。院長に指示され、無理矢理転院させてしまったと‥‥。
私は、当時、もうアリス永生総合病院の看護師を辞め、真子を連れて北海道へ行っていたのですが、
その話は、泣きながら主人が電話で話してくれました。今でも、よく覚えています。」
「看護師?あんた、アリスで看護師してたのか?
あっ、ごめん、『あんた』だなんて‥‥。」
「いえ、あんた以下です。私達夫婦は。
‥‥‥。
アリス院長がその北海道の名医に口を利いてくれたんです。だから、真子は、優先的に心臓の権威であるその先生の治療を受ける事が出来たんです‥‥。
でも、それからのアリス院長は、事あるごとに、主人を自分の思い通りに操った‥‥。おふたりの転院も院長の命令です。逆らうと真子が北海道で治療を受けられなくなるよ、と脅されました。‥‥‥。従うしかありませんでした。」
「クソっ!どこまで汚い奴なんだ!有栖浩介の野郎!」
「ほ、本当にごめんなさい。許される事ではありません。
許されるわけありません。‥‥許されるわけ‥‥‥。うぅっ、‥‥。」
「もう。いい!あんたも被害者だ。
‥‥。手を組まないか?」
「えっ?手を組むって?どういう意味で‥‥」
俺は、席を立った。帰りぎわに道子に小さく耳打ちした。
「復讐してやるよ‥‥。」
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to be continued
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