彼は彼だけど彼じゃない(四阿シキ)

友達が転生した。幼なじみだったそいつは、わたしの3個上で、わたしが小学3年生の時、12歳の若さで亡くなった。そしてわたしが小学6年生になった春、1歳になって抱っこされている奴はわたしに声をかけた。正しくは、犬を見かけたように指を指して名前を言った。はう!!

わたしの名前は遥だ。はうじゃねえ。

というツッコミはとりあえず置いておいて。初めて声をかけられた時は全くわからなかった。何しろ別人だから。彼のお母さんは焦っていた。
「何言ってるの、けんちゃん。知らない人でしょ? すみません……」
わたしに頭を下げてくる。そんなこと言われても小学6年生がスマートにフォローなんてできない。あ、はい……程度に答えて早くその場から抜け出そうと、

「はう!!! おえ! さとう!」
「けんちゃんどうしたの?」
「あかさいさとう!」

死んだ幼なじみは、赤崎悟、あかさきさとるだった。
驚いてどうしたらいいかわからなかったけど、わたしは言ってしまった。

「あかさき、さとる……?」
「はうか!!さとう!!!」

でも信じられなくて、というか状況が飲み込めなくて、あとお母さんの不審な顔が怖くてしょうがなくて、わたしはその場を離れた。走って。

次に会ったのは、かなり時間が経ったあとだった。わたしが高校2年生の時、小学1年生となった悟、もといけんちゃんは声をかけてきた。

「あの、遥、……サン」
可愛い顔をした少年になっていた。
「えと、あの、俺、いや僕、桐山賢一って言います。ええと、あの……」
印象的だったから覚えていた。
「賢一くん、君、5年前にはうって言ってきた子でしょ」
「あ、あの、ごめんなさ……」
「本当に、生まれ変わりなの?」
わたしの初恋だった。悟はいつもかっこよかった。今このもじもじしている正直かなり頼りない少年が悟だとは思えない、というか思いたくないけど、今の彼は当時の彼よりずっと年下で、それを理解している本人が一番会いたくないだろうとも思う。それでも、会いにきてくれた。
「僕が覚えているの、小さい頃、、、今も小さいけど、昔よりもずっと少ないんです。ちょっとは知識もあるし、好きなものも親しかった人のことも覚えているけど、普通の年相応の子供です。声をかけた時は多分、赤崎悟の方が強かったけど、今はただの桐山賢一です。でも、今の、僕を、あの、えと、会いたくて」
年相応、とかいう時点で大人びてはいるけど、本人が一番ギャップを感じているんだろうな。悟は賢い子だったし。近所でも有名だった。
「賢一。友達になろう。わたしと、遥と。悟も賢一も、わたしの友達だよ」
「あ、遥さ……」
「遥。いや、はるって呼んで」
「……練習しときます」
彼は悟だし、やっぱり賢一だった。

賢一は、多分相当な努力を積んだんだろう、まるで悟に負けまいとしているようだった。わたしと再会したときの頼りなさは幻だったかのように、快活で賢い少年だと評判だった。小学校6年生では児童会の会長だったし(既にそのときわたしは大学4年生だったけど)、中学、高校も生徒会と部活とボランティアと、たくさんのことを両立させていた。もちろん成績も良かった。そして私たちはよく、悟と一緒に遊んでいた公園で話していた。

高校2年生になって生徒会長になったとき、賢一は少し、今まで見せなかった本音を見せた。
「俺もう、あんまり、悟だったときのことが思い出せないんです。あるのはただ、悟が凄かった、負けるわけにはいかないっていう、強迫観念みたいなものだけです」
「賢一は悟より、」
「それは俺が悟より生きたからです。悟の影があるから俺は頑張れるけど、」
「そうだとしても、わたしは、悟だった人だから友達なわけじゃないよ。自分が生まれ変わったこととか全部ひっくるめて、それでも賢一として会いにきてくれたから友達になったんだよ。賢一は賢一だよ」
賢一は少し、辛そうな顔を見せた。わたしにとっても、子供の頃の悟との思い出よりも、今の健一との思い出の方が長いし、それは本音だった。社会人5年目のわたしは、まだ高校2年生の少年の気持ちをうまく汲むことができない。

わたしは、健一を、悟の影から逃してあげることは、できない。

28歳になる前に、わたしは付き合っていた人と結婚した。賢一は受験生だけど、結婚式に来てくれた。結婚するんだ、と言ったとき、賢一はこう言った。
「はるは、多分俺の初恋だったけど、もしかしたら刷り込みだったかも。幸せになって、俺の中にいるであろう悟に、見せてあげてください。きっと後悔させてください」
すっきりした顔をしていた。

賢一は大学を卒業し、今は働いている。仕事が楽しいと言っていたが、この間かわいい女性と歩いているのを見た。爽やかに挨拶をされたが、隣にいるわたしの娘はむくれていた。

ーーーーー
最近流行の転生もの。書いてみたかったので……!
でも純愛じゃないです。くっつけるのはやめました。
小さな子の発音は正直フィクションです。わからないです。
誰かわかる方、修正コメントとかあると嬉しいです……!
四阿シキ

よろしければサポートをお願いします。いただいたサポートは大好きな博物館、美術館に消費し、より質の良い作品を作れる人間になれるように楽しませていただきます。