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ボストン旅行。ムスコの卒業式。

どんなに私が声を上げても、誰も真剣に聞かなかった。

会場は Boston Red Sox のホーム球場 Fenway Park。となったら、もう凄まじい人混みとコンサート並みの規模で SuperBowl の試合部分がスピーチ、みたいな式次第、になるのはわかっていた。

2:00 開場
2:15 Pre ceremony entertainment開始
2:45 卒業生入場
4:00 開始

終了時間、不明……。

……入場に1時間15分かかる。4時まで式は始まらないのに2時から席取り開始である。それに数々のスピーチが合計で何時間続くのかも不明。

あぁ。

一応、いくらなんでも3時間ってことはないだろう、と母親業22年の経験から見当をつけて、Fenwayから移動に30分弱かかるレストランを7時に予約。卒業式の季節だからと、3ヶ月前に予約を入れてお店の人に驚かれた。

私は母親らしくないというか、こういう形だけの「一生に一度」系セレモニーへの思い入れがまるでない。母親なんだから卒業式の後の夕食には絶対に出席しなきゃ面目立たないみたいなのも一切なく、あっさりとそういうつまらないことにこだわる義母やEx.に譲る。それを聞いたLoanはかなり怒っていたけれど、私はどうでもいい。

ボストンに3泊。到着した金曜の夜はムスコのアパートで彼の手料理をムスメと3人で。土曜の昼は25年来の友達と過ごし(子供達は義母と義妹とランチ)夜は、ムスコの彼女Katyaの母親宅で、手料理をご馳走になったから、楽しい一緒の時間を十分に過ごしたと思う。

ムスコは「俺、卒業式でもなんでもどうでもいい」と呟き、Katyaの母親が「そういうわけにはいかないでしょ」と言ってるのを聞いて、私はクスッとと笑った。やっぱり私のムスコである。

だいたい。大学卒業するのなんて当たり前。まして、うちのムスコはあと1年かけて修士号を取得するから就職するのは1年先。仕事も決まってなくて、卒業がめでたいことなどあろうか、なんてことは絶対に公には言えないけれど、それが私の本心。

日曜の昼は、ムスコは早めに会場に向かわなければいけないというので、Katyaとムスメと3人で買い物。ホテルに戻って着替えてからそのまま一緒に会場に向かった。Ex.と彼の家族とは別行動。写真撮影のため、後で合流することに。

会場に入るまでに延々と列に並んで待つ。何せ野球場だしこの規模だから持ち込む荷物にも制限かかってバッグはこのくらいの大きさとか、手提げ袋は透明じゃないとダメとか、水ボトルは封切ってない奴一本だけとか、うるさい。子供達二人は携帯と水ボトルだけ握りしめていき、あまりの暑さに耐えられなくなって封切って水飲んでしまったけれど、入り口で咎められることはなかった。ルールとか言っても口ばっかり。こういうところが、日本とアメリカの違いだと思う。

日陰の席を探して座る。
かわいそうに、卒業生たちは野球場のど真ん中で何時間も太陽に晒される。

「兄ちゃん、キレる」とムスメ。当たり前だ。

2:15 Pre-ceremony entertainment
大学を代表するダンスチームか、いわゆるクラブなのかはわからないけれど、フラメンコみたいなラテン系ダンス、中国の布を振り回す踊り、Hip Hopと10人くらいずつ順番に出てきて、踊りを披露。私はこういうのは結構好きなのだけど、ムスメとKatyaは固まっている。

2:45 卒業生入場開始。
全然どこにいるかわからない。ランダムに卒業生の顔が大きなスクリーンに映し出されるけれどランダムだから、じーっと見ていれば1時間15分のどこかで一瞬彼の姿が見える、とも限らない。15分くらいしたら、舞台に向かって右側の初めの方の列に座ってるよとムスコからテキストが入る。

え、もう入場してたの?

Katyaが、立ち上がって首にかけている黄色いhonor studentのコードを振り回せとテキストしたのに、返事がないまま。

4:00 スピーチ開始。なぜか時間だけは正確。
ところが、なんでこの人たちがスピーチしているのかわからない状態が続く。教授でもないし卒業生でもない。どうも生徒じゃないけど、PhDを取得した人たちの紹介らしい。意味不明。そして、成績トップの卒業生代表。さすがに賢そうなアジア系。洗練された聡明な印象の女の子。

そして、ついにメインのスピーチ。Mintedという会社を創設した起業家らしいのだが……。全然面白くない。何が言いたいのか何を伝えたいのか、さっぱりわからない。そんなスピーチが終わりに向かっている気配なく延々と続く。

ムスメの機嫌がみるみるうちに悪くなる。Katyaがさらに固まる。笑。

ムスコが「トイレに行きたい」とKatyaにテキスト。そうでなくても、卒業生は自由に席を立って行ったり来たりしているから、アメリカという国はよくわからない。さっさと行ってこい、と返事したらどうも席を立ったらしい。

苛立った観客が、スピーチの合間にところどころで拍手。それを好意的に受け取ったのか、それとも(さっさと終わらせろ)という観客からの圧迫を感じたのか、ようやくスピーチが終わる。

各学部の学部長(例えば、工学部ならDean of School of Engineering)が自分たちの生徒たちに、その場で起立するように合図し、全学部の学生が起立。皆で一斉にキャップの房を右から左へ動かして、卒業、となる。

…..ムスコはトイレに向かった後、席には戻らなかったことが後で判明。爆笑。

何せあのスピーチだから、怒る気にもならない。(やるねぇ)とつい笑ってしまう母。

後で、この話を某氏にしたら
”They should hire you as a consultant. $250,000 pay guaranteed."
などと真剣に言い出した。昔もよくこれと似たようなことを言われた。

でも、ちょっと考えてみる。

まず。Pre ceremony Entertainmentは、バラバラじゃなくて、一つのテーマで長めの群舞、の方がインパクトがあって印象的になると思う。

スピーチの時間制限は必須。聞き手の神経が集中するのはせいぜいで20分だろう。ちなみに、この人は45分くらい話し続けていた。意味不明のPhD授与は削除。スピーチは学長と卒業生代表と外部からの一人の3人だけ。各学部長による学部紹介は良かったのでキープ。そしてやっぱり房を右から左に動かして、キャップを投げてっていうあのシーンがないと卒業式じゃないと思う。

卒業生が学部ごとにまとまって座っているのと同様に、観客席の家族も学部ごとに座ったらどうだろう。同じ学部ってわかっていたら、待ってる間の会話のきっかけになる。座席指定とは言わなくても、どのブロック/ゲートは何学部と指定すればいい。指定したところで、アメリカでは無視する輩は必ずいるけど、それはそれでいい。

さて。
式が終わって、家族写真を撮るために近くの駐車場に皆で待ち合わせる。

球場からゾロゾロと出てくる人たちの波をくぐり抜けながら歩いていると、背の高い白髪のおじさんから笑顔で見下ろされているのに気づいた。見上げて、にっこりと笑顔で返す。2年3ヶ月ぶりのEx.との再会に神経衰弱になりそうだったけれど、おかげでなんか気分が明るくなった。おじさん、ありがとう。

途中で、義母と義妹と鉢合わせる。挨拶をし、私をhugをしようとして一瞬迷った様子の義母が可哀想になり、hugをする。体調は大丈夫かと声をかけ、義妹とも hugの後small talkをする。

待ち合わせの場所に着いて、Katyaに"Are you OK?"と言われながら、スニーカーからパンプスに履き替える。ほんとによく気のつく娘だ。家族4人とKatya、義母と義妹の7人でありとあらゆる組み合わせで写真を撮る。

Ex. とは二度ほど視線が合い、笑顔を交換。Ex. ムスコ、私、ムスメの順に並んで、ムスコがこれだけはと希望した家族4人の写真撮影。言葉は一切交わさなかった。彼は、私のことをよくわかっている。昔からそういう神経はまわる人である。ムスメにもアプローチせず、何事もなく撮影を終え、私とムスメはすぐにその場を立ち去った。

You did it great with class. I know. 
Let the shit go.
You are so much above that. 
Lots of hugs.

某氏の言葉。





ただただ好きで書いています。書いてお金をもらうようになったら、純粋に好きで書くのとは違ってくるのでしょうか。