先輩、それは窃盗です。

良かった、と言ってしまうとちょっと語弊があるんだけど、映画館で新作の映画が公開できずに、今は昔の作品をやっていたりする。

割と家に居続けるのも限界がきていた僕は『経済を回すんだ』なんて言い訳を抱えてここ最近映画館に出かけている。

この歳になって映画館の大スクリーンで『もののけ姫』と『風の谷のナウシカ』をまた観ることができたのはとても良かった。

歳をとると、昔はなんとなく観ていた映画も色々考えてしまうし、何よりも画と音楽の美しさだけで涙が出てきてしまうのだ。

歳を取るってすげえよ。

そしてアシタカは格好いい。

ずいぶんと歳を重ねてきたんだなと思う。

僕は『風の谷のナウシカ』でとても好きなセリフがある。

主人公であるナウシカが言う『汚れているのは土なんです』というセリフがとても気に入っている。

今後何か嫌なことがあったら全て『汚れているのは土なんです』で乗り切れそうだ。

そして嫌いな人間を『森へお帰り』と言って森に帰してしまおう。

春になって出直してきてもらいたい。

歳を重ねると言えば、若さゆえの過ち、なんていうのは誰にだってあるものだと思っていて、今の学生たちが可哀想だなと思うのは、色々な悪さがスマホ、中でもSNSの発達によって可視化されやすくなったことだなと思う。

もちろん悪いことをするのは当たり前に『悪いこと』であって、ことによっては罰せられて当然だとは思うのだが、それでもたまにこんなことで炎上するの!?みたいなことはよくある気がする。

もちろん衛生面が重要な飲食店での悪ふざけや、ホームレスへの暴力、そんなものは罰せられて当然だと思う。

大人だって悪いことは駄目で当然、どこぞの自称天才編集者みたいにセクハラ報道されたことにたいして内輪のサロン内で酔っぱらって暴言を吐いたりすれば制裁を受けて当たり前なのだ。

でも、僕は高校生の飲酒がそんなに炎上することだとはあまり思っていなくて、もちろん良いことでは全くない、というか悪いことなのだが、たぶん大人ぶりたい高校生が友達の家に集まって飲酒する、そしてそれをクラスでの友達との笑い話のネタにする、というのは割と昔からあるのだ。

もう十何年も前になるが、僕も例外なくそんな高校時代を送っていたし、それを今でこそ悪いことだと自覚しているが、ただ当時だったらどうだろうかと考えた時、僕が高校生時代にSNSがなくてよかったと本当に思うのだ。

恐らく当時の僕は悪いことだとあまり自覚していなくて、その頃の僕の手にスマホがあって、SNSをやっていたら、友人の家での飲み会で酔って涼みに出かけた別の友人が行方不明になり、裸足で帰ってきたかと思ったら翌朝田んぼの脇に靴が揃えて脱いであった事なんかハッシュタグ付きで呟いていたと思う。

そうやって思い返してみると、自分もだし、周囲の人たちも高校生の頃なんかは小さい悪さはいっぱいあったような気がする。

そして、そういった悪戯や悪さといえば、僕は部活のH先輩の悪行を思い出すのだ。

僕は高校時代バスケットボール部だった。

スラムダンク世代で、スラムダンクでバスケを始めた僕は、毎日バスケが出来るのがとても嬉しかったし、学校の三者面談が長いことに腹を立て担任と母親を置き去りにして部活に行ったことがあったくらいだ。

その日は帰ってから家族会議が開催されたがそれはまた別の話だ。

それは他校に練習試合に行った時のことだ。

その学校は、体育館2階のギャラリーが卓球部の練習場になっていた。

他校生の荷物置きなどもそこが使われ、複数高校が集まっての練習試合で、我々もギャラリーを使用し、荷物を置き、食事を取り、休憩し、着替えもした。

そういった練習試合は複数回行われていた。

●DAY1
その日の練習試合の帰り、俊足だがシュートは下手、整骨員に行くと言って嘘をついては焼き肉屋にアルバイトに行っていた副部長のT先輩が電車の中で『おい!』と声を上げた。

T先輩のスポーツバッグの中からピンポン玉数個が出てきた。

明らかに他校のギャラリーにあった卓球部の備品だ。

H先輩がニヤニヤ笑っていた。

一体犯人は誰なんだ。

●DAY2
前回の数か月後、同じ高校での練習試合での駅までの帰り、T先輩がまた声をあげた。

『おい!』

T先輩のスポーツバッグから、卓球のラケット一対がその姿を覗かせていた。

犯人は誰なんだ。

謎は深まるばかりだ。

どこのH先輩なんだ。

●DAY3
T先輩の頭から、いや、僕たちの頭からも前回の悪行が忘れ去られた1年後、また恒例の練習試合が行われた。

いつもと同じ帰り道。T先輩が笑い出した。

T先輩のスポーツバッグから卓球のネットと、そのネットを止める器具が出てきた。

全員がゲラゲラ笑った。

H先輩が『あとは台があれば卓球できるな!』と言って笑った。

みんな冗談だと思っていた。

●DAY4
数か月後、四度、同じ高校での練習試合が終わり、みんなが片付けをして、帰ろうとした。

片付けが終わったT先輩が立ち上がり、スポーツバッグを持ち上げて歩き出そうとした時、ガタッと音を立てて卓球台が少し動いた。

先輩のスポーツバッグがしっかり卓球台に結びつけられていた。

微かに台が動いた。

いやさすがにそれは無理がある!!

当時はめちゃくちゃ笑ったが、今考えると、先輩、それ窃盗です。
完全にアウトです。

これは余談だが、遠征で旅館に泊まった時、翌朝部屋を出ようとするT先輩の旅行鞄に、部屋の床の間にあった木彫りの像が入っていたことがあった。

本当にその頃SNSがなくてよかったとしみじみ思うのだ。

関係ないが僕は国語の授業中に携帯電話をマナーモードにし忘れて大音量でメールの着信音がなり、焦ってとにかく何かとボタンを押したら携帯が『電話なかったよ!メールきてないよ!』と喋りだしたことがある。

今でもあの機能をつけた人間を許していない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?